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未来を見通す天使

エイデン博士は想像以上に変わり者だった。


身分は男爵家らしいが、服装は庶民と見紛うほど質素でシンプルだ。簡素な白いシャツに、サイズの合わない大きめのトラウザーズをサスペンダーで吊るしている。


茶色い巻き毛は鳥の巣のように乱れ、目が見えないほど分厚い瓶底メガネをかけている。


エイデンは俺の顔を見るなり、感嘆したように言った。


「うわぁ! ジゼル! 本当に君って天使みたいな見た目をしているんだね! セドリックが夢中になるわけだ!」

「……ありがとうございます、エイデン・リサーチ博士」

「やめてくれ。いつも通りエイデンと呼んでくれなきゃ、敬語も不要だ。でも正直驚いたよ」


どこか不満げな顔をしたレナードが持ってきた紅茶に口をつけながら、エイデンは俺の顔をじっと見つめた。


「手紙じゃ、ずいぶんと落ち着いているし長年の研究者のように理知的だった。僕はずっと、君のことを年上の男性だと思っていたよ」


 ぎくり。そりゃ、俺の前世は三十八歳のおじさんだ。エイデンの推測はほぼ当たっている。俺は誤魔化すように咳払いすると、話題を変えた。


「エイデンも、思ったより若かった」

「これでもアカデミーの最年少研究員だからね」


 学院を飛び級で卒業し、今の俺と同じくらいの年齢から皇都にある天文台で助手として働きながら、星の観測による歳差運動の理論を発表し、アカデミーの研究員に抜擢されたらしい。エイデンこそ、神童というものなのだろう。


「それよりもさ、新しい治癒魔法の文献を手に入れたそうじゃないか」

「ああ、そうだった」


粗末な革紐で綴じられた紙束を慎重に取り出して見せると、エイデンは感心したようにあごに手をあてながらまじまじと観察した。


「まいったな、本当に貴重な代物じゃないか。こんなものが存在していいのかすら、あやしいぞ。治癒魔法士の教会に知られたら、没収されるんじゃないか」

「やはり、そうなのか」


 以前に会った治癒魔法士も、治癒魔法の知識は門外不出だと話していた。この本の存在がどこまで禁忌的なものなのかは分からないが、大っぴらに扱わない方が良いことは確かなようだ。


幸い今のところ、この本の存在はカイルとレナード、エイデンしか知らない。友達が少なくて本当に良かった(別に、強がってるわけじゃないぞ!)。


「ジゼル、もし良かったらだけど、この本を“複製”してもいいかい?」

「複製? 構わないけど、すごい量だぞ」


 百ページ以上あるし、書かれている文字はところどころ掠れていたり、湿気で滲んでいて読めないところも多い。当然、この世界にコピー機など存在しないし、複写するのはかなりの時間を要するだろう。しかし、エイデンは楽しそうに笑った。


「あぁ、ジゼル。違うよ、僕の家系魔法なんだ。物体を複製出来るんだ」

「家系魔法?」

「驚いたな、ジゼル。君に知らないことなんてないと思っていたけど」


きょとんとした俺に、エイデンは面白そうに目を細めた。た。


「貴族の血筋がもつ一族特有の魔法のことさ。全員が使えるわけじゃないけどね。僕は十二歳のときに発現した」


 エイデンが本に手をかざすと、淡い光が一瞬だけ走り、まったく同じ本が横に現れた。言葉を失って目を見開く俺に、エイデンは肩をすくめた。


「同じ物を複製出来るのは一度だけ。新しく作った方は、万が一のときのために君が隠しておいたらいいさ」

「ありがとう……」


驚いた。すごい魔法があるものだ。悪用しようと思えばいくらでも出来そうだが、そんなことをしようともしないエイデンだからこそ、発現したのかもしれない。


「すごい魔法だ。物体だけに使えるのか? 生きているものは?」

「生き物にも使ったことがあるが、あまりいい結果ではなかったな。魂の抜けた肉塊が出来るだけだ」

「意識がないってことか? 肉体としての活動は? 心臓は動いているのか?」


もしそうなら、自分そのものの遺伝情報を持つ生体クローンを使用した臓器移植が可能になる。しかし、エイデンは困ったように肩をすくめた。


「まったく、君って俺よりも変わり者だよ。そんなこと気にしたこともなかったけど、息はしていなかったよ」

「そうか……」


 あまりいい思い出ではないのだろう。言葉を濁すエイデンに、俺もそれ以上の詮索をやめた。一見なんでもありの魔法でも、制限はあるらしい。


完全な複製は出来なくとも、組織再生の可能性を切り開いたiPS細胞の発明がどれだけ偉大なものだったのか痛感する。考え込む俺に、エイデンは気を取り直すように言った。


「それに、カーネリア家の家系魔法ほど希少なものはないさ。未来を予知する魔法なんて、それこそ神の領域だ」

「え、未来予知!?」

「なんとまあ、ジゼル。自分の一族の家系魔法も知らずに生きてきたのかい? 君って本当に治癒魔法以外は世間知らずなんだね。家庭教師としての仕事がありそうで安心したよ」


横で聞いていたレナードの顔が鬼のように険しくなるが、エイデンは気にせず続けた。


「カーネリア家は未来を見通す。“予知夢”を見ることが出来るんだ。数代前から発現した者はいないようだけどね。力の強い者は、次元を超えた異世界のことまで見ることもあるそうだよ」

「異世界の……」


 なんということだ。

 心当たりがありすぎる。


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