エイデン・リサーチの手紙
『拝啓 我が友、ナオ・アイゼン博士
貴君におかれましては、日々なおのことご清祥にお過ごしのことと拝察する。
先日、アイゼン博士が発表した『選択的神経遮断の魔法活用について』、拝読させてもらったよ。治癒魔法を応用した局所の神経遮断の開発手法、神経支配領域を熟知している者のみの活用を推奨する点、誠に感服したよ。
君のその画期的な開発者としての姿勢と、常に慎重を期する姿勢は素晴らしい。
僕も今回の黄痩病の調査にあたり、顕微鏡(君の言うとおり、視野拡大鏡よりこちらの方がいいね)を活用した、肉眼では見えない微小な生き物たちの研究を進めているところだが、省略するよ。
それよりも、君に報告したいことがあるんだ。
この間、皇都の酒場で面白い噂話を耳にしたんだ。なんでも、街に迷い込んだ魔獣を退治する際に、騎士が瀕死の大怪我を負ったそうだ。
誰もが騎士は助からないと考えたが、そうはならなかった。どこからか颯爽と現れた貴族の少年が魔法で止血し、不思議な虫で失った血液を補ったらしい。
驚きだよね。まさか魔法士でもない貴族の子供が、そこまでの治癒魔法を扱えるなんて。
面白い話はまだある。僕はアカデミーで働いているんだけど、最近とある貴族の少年の家庭教師の公募が出ていた。
どうやら、皇都でも類を見ないほどの神童らしく、国で最も優秀な教師を求めているらしい。
もちろん、僕が応募したけど、面接で落とされてしまったよ。理由を聞いたら、僕が二十代の独り身の男性だからだと! まったくナンセンスだ。
性別や年齢で判断するなんて、非効率だ。
君もそう思うだろう?
アイゼン博士、いや――ジゼル・カーネリア君。
こんなかたちで君の正体を暴いてすまないが、君はまわりくどい言い方を好まないだろうから簡潔に言うよ。
ジゼル、僕を雇わないかい? 自慢じゃないけど、アカデミーじゃ僕より優秀な研究者はいない。
それに僕は、他の連中のようにカーネリア家に偏見はない。歴史書を少し繙けば、カーネリア家が帝国に本物の忠義を果たす家なのはすぐにわかるからね。
今度の週末に君の家に行くよ。スカラベ博士の血吸い蜂も見せてくれるかい?
果てのない友情をこめて
エイデン・リサーチ
追伸
君が命を救った騎士のセドリックは僕の遠縁でね。彼はすっかり君に夢中だよ。君に似ているらしい天使の肖像画に、毎晩お祈りしている。面白いよね。』
手紙を読み終えた俺は、遠い目で天を仰いでいたレナードの顔を見上げた。
「……それで、エイデン博士が下に来ているのか?」
「……左様でございます」
エイデンは手紙が届くまでの郵送の時間を考えていなかったらしい。俺に手紙が届くのと同時に、晴れやかな顔で大量の荷物を持ったエイデンが屋敷に到着した。
「……いかがされますか?」
「もちろん、会うさ。応接間に案内してくれ」
「来客用の服に着替えましょう、ジゼル様」
「いいよ、このままで」
いつもの白衣姿で出迎えようとする俺に、不満げな顔でため息をつくレナードを軽くいなす。ルシアンお兄様が買ってきた服は、やたら布が多く、袖口がひらひらしていて動きにくい。
それに俺の知るエイデンは、他人の服装など気にしない。たとえ俺が下着姿で現れても、何とも思わないはずだ。




