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誘拐された勇者イリオス  作者: 常に移動する点P


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第17話・女神の大いなる誤算

 人間の業の深さと、神々の業の深さ、それは比べても仕方あるまい。そもそもの生と死の概念が違うのだから。


 我々神は、不老である。老いて死ぬことはない。だが、死はある。神話の中にも神同士の無様で不毛な争いに、身を落としたものたちがいる。おかげで、ただの神の使い、いわゆる天使であった私が、女神にまでなれたのだから。


 神々の戦いは、新たな神の空席を用意してくれる。その座に座り続けるには、変化をしないことだ。そこが人間とは根本的に異なる業の深さなのだ。

 人間たちは、手に入れたいもの、なりたいものが、表層的だ。そこには変化がうまれる。だから、死を遠ざけることができない。


 シンプルにいうならば、リスクが多いというのだ。


 私のもとを訪れるものたちは、契約を結ぶためだ。女神との契約で得られるものは、いわゆる「女神の魔法」というものであり、人間たちはそれを僧侶の魔法式に置き換えている。非常に不本意だ。回復や解毒といったマイナスからゼロに戻す、それは敢えて手に入れる変化のなかでも、何も手にしていないからだ。


 こうした契約を結んだ者たちには、それなりのリスクを差し出させている。それが、呪いだ。


 魔法詠唱の順番を間違うことを呪い化したのは、先代の女神といわれている。くだらない。呪いとはもっと、契約のなかで発生させるべきだ。


 私がくだす命令に、指示に、歯向かうと呪いを付与する


 非常にシンプルで合理的。女神との関係において、統制がとれた支配が叶う。


 勝手に、名前を冠したもの、ことを作らせない。イリオスの剣は最たるものだが、各王国の王の名を冠した記念日なども言語道断。


 神々を愚弄する者を、私が呪いによって裁き支配することで、私は私の神からの寵愛や評価を手に入れるのだ。


 その点において、効率のいい支配を心掛けたい。契約者全員に呪いをかけて管理などしていられない。


 勇者イリオス、勇者グレアム、勇者バルス、三人の勇者を呪い化することは、僧侶たちへの見せしめにもなった。


 呪いを付与した物質に触れる。アシュフォード王のように、余計なことをしたものも、ある意味見せしめとしてはいい。影響力があるほどいい。


 問題は、呪いを付与されたものたちが、その存在を隠すことだ。勇者三人は呪われていることを出来るだけ隠した。アシュフォード王のような、二次感染者ですら同じく。


 これでは、見せしめの意味がない。


 イリオスの剣、名を冠してはならぬ、と触れを出したことに、歯向かったイリオス。


 二千年ぶりに下界へと降りる理由は、見せしめだ。女神というものの存在を永遠に、子、孫、末代まで、脳裏に焼き付けさせる。


 イリオスにも策があるのだろうが、不思議とアシュフォード王国のどこにもイリオスの気配がない。


 殺気に満ちたイリオスの仲間たちは、アシュフォード王を討つ気でいるのだろう。



 人間と人間の争いのすべては、「誤解」から始まる。その次に、相手を受け入れぬ心、その次に、相手を赦さぬ心。


 誰もが、私を悪と決めつけているのだろう。だがよく考えて欲しい。

 無益で傲慢な戦争を繰り返し、自ら種を滅ぼそうとしているのは、人間たちだ。ドワーフが滅びたのは、人間たちによるものだ。エルフが急激にその数を減らしているのは、魔物のせいだと思われがちだが、間接的には人間が関係している。


 神々とて、人間を滅ぼすのは躊躇する。なぜ? 当然のこと、種を滅ぼせば呪いを受けるからだ。


 神とて、呪いは怖い。呪われし神の末路は、悪魔と成り堕ちるしかないのだから。


 アシュフォード王国、玉座の間は思ったより広い。ネズミ3匹、とアシュフォード王、あとはチョロチョロ動き回るハエか。


 イリオスの剣が割れた? 中から剣が、クソっ。あれは呪われし勇者の剣か。

 ならば感じたイリオスの剣、のあのエネルギーは。


 私が振り返った先にアシュフォード王がイリオスの剣を構えているのに気づいた。こっちか。


 私はこの不届き者の王から、イリオスの剣を奪い取った。悲壮感溢れる顔。これが王か。なんとも情けない。人間とは弱く、儚いからこそ護りたいのだと、のたまう神もいるが、私は逆だ。


 こういう弱き生き物は、徹底的に管理せねばならない。たとえ王でも、勇者でも。


 熱い、身体が熱い。これは、回復魔法。ギリアムめ、禍々しきグレアムの子か。


 燃える、身体の芯に火を放たれたようだ。内側から身体が熱で崩壊する。何乗にもなった回復魔法、人間とは悪知恵が過ぎる。


 契約を解除すればいい、この3人のネズミたち、私との契約を解除する。さすれば、回復魔法が無効化されるはずだ。


 シュレー、魔法使いでありながらも精霊の目を盗んで私とも契約した浮気者だ。

 ナロウ、イリオスの弟子か。恐ろしい魔力の使い手。天使レベルなら、歯が立たんだろう。この者、既に賢者の域に達しておる。

 ギリアム、勇者の子。あまり記憶にない男。契約を結んだかは定かではないが、回復魔法を詠唱しているのなら、間違いないだろう。


 私は瞬時に契約解除を行い、体内に圧倒的にめぐる酸素の流れを遅らせた。


 ギリアムが魔法詠唱を続けている。

 勇者の剣にはシュレーとナロウによる業火がエンチャントされた。剣は轟轟と炎をあげる。日も落ちかけているにもかかわらず、この玉座の間は熱く、明るい。


 饗としては、最高の演出だな。アシュフォード王とそれを庇うムシケラ。


 シュレーにナロウに、ギリアムといったゴミ3匹。


 イリオスへの見せしめにもいいだろう、全員この場で処刑する。


 まずは、厄介なエンチャント野郎のギリアムから。


 ギリアムは勇者の剣を私に目掛けて投げつけた。矢のようにまっすぐ飛ぶものの、容易にかわせる。


 馬鹿かこいつは。


 と同時に、私の体内の血流の流れが遅くなるのを感じた。


「遅延の時間魔法が効いてきたか、女神よ」


 ギリアムは時間の流れを遅らせる魔法を詠唱していたのか。


「なんと、策を練ったな」

 まだ動ける、コイツらなどに負ける私ではない。


「女神よ、俺は回復魔法を詠唱していない。いや、できない。わかっていないな」


「どういうこと」

 シュレーがギリアムに問いかける。

「そういうことだ。そもそも俺は女神とは契約していない」


「だからなんなのよ」

 ナロウが打つ手ナシとみて、諦め顔でギリアムに恨みがましく言い放つ。


「人間の考えていることはよくわからんな」


 一瞬で滅ぼしてやろう、即死魔法がふさわしい。


「女神は気づいていないのか?自分でルールを作った割にな。俺は、契約していないんだぞ。なのに、契約解除したんじゃないか?」


 ギリアムは、勝ち誇ったように言い、再度遅延の時間魔法を放った。私よりも早く、なぜ? 魔法が詠唱できるのだ。それよりも気になる、契約していないだと! あいつは確かに回復魔法を詠唱した。同時に3つの回復魔法を私は感じた。


 同時? 同時、二つは同じタイプの回復魔法だ。魔法式が全く同じ。クソ、クソ!!


 それに、ギリアムは私と契約をしていないだと。契約していないものに、契約解除した場合は、いや。そんな、そんなことが。


 ギリアムは更に遅延の時間魔法を放ち、私の時間の流れは限りなく停止した。必要な酸素が身体を巡らない。だが、死なないのはなぜだ。苦しい、でも死ねない。なぜ。


「死ねないだろ、それは、呪いのせいだ」


 ギリアムはおそらくゆっくり歩いているはず。だが私の目には止まらない程の光速の動きで、勇者の剣を拾い上げた。

 轟轟と燃え盛っていた剣先は、静かに鎮火していた。勝負は決していた。


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