第15話・アシュフォード王の正体
イリオスの剣には、歴史的逸話が存在しない。おそらく無名の剣に、自らの名を冠したのだろう。
武器は肉体の一部となり代わることがある。防具の方がより身体との接触時間も長いはずだが、手の延長線上にあるもの、と認識されているのだろう。
鎧や兜の類は、あくまでも身体の上からカバーするもの、どこまでいっても肉体の外側にあるものだ。
ウッドバルト王国、建国100周年の時だった。私は極秘でイリオスと面会した。イリオスは既に気づいていた、同じ呪いの右手を持つ者として。
イリオスの剣は、ウッドバルト王直々の贈答品と称して、持ち帰った。
イリオス自ら、女神打倒計画について打ち明けてくれた。何らかの策であったはずだが、私は乗った。
私が殺害されたこととし、魔王に乗っ取れたと、そうわかるようにふるまって欲しいと。
同時に、偽のイリオスの剣を城前に送りつけるとも言われた。イリオスによる狂言誘拐だ。
偽のイリオスの剣が送られたことをきっかけに、誘拐事件との疑いで、シュレー、ナロウ、ギリアムを参考人として王の命のもと呼び寄せること。
この三人は、イリオスをもってしても、集めることは困難だという。互いに秘密主義であることも一因していると、イリオスは分析していた。
偽のイリオスの剣には、グレアムの所有していた呪われし勇者の剣を埋め込むと。さすれば、シュレーたちは剣から発せられる呪いに疑義を抱くだろうと。
国内で失踪している子どもたちの事件についても、イリオスから真相を聞いた。育児放棄とされた子どもたちを魔物がさらい、魔王のねぐらで、保護しているのだという。
この子どもの失踪を利用し、いかにも私が子をさらい、喰らったように感じさせること、つまり、魔王に乗っ取られたと印象付けるのだとイリオスは申し出た。
イリオスは気づいていたのだ。私がアシュフォード王の影武者であったことを。王が亡くなり、後継ぎにも恵まれなかった。私が王になり代わること、それは王の命であった。
妃殿には早々にバレてしまったが、カゲヤマらには気づかれてはいない。私は影武者になる前は、旅芸人であった。
私の右手は、旅の道中、グレアムという勇者を介抱した時に呪われた。彼の剣を手にしたことが原因だ。奇しくもその剣が、巡り巡って、偽のイリオスの剣に収められているとは。
ともかく、シュレーたちが私に疑義を抱き、魔王として誤認させること。そうすれば、女神が気づく。魔王がまだ生きているのかと。
そして、イリオスの剣がそこにあることにも気づくだろう。ほどなく、それがニセモノだとわかるはず。
そこで、この本物のイリオスの剣を女神に差し出して欲しい、とイリオスは言った。
イリオスは、女神を降臨させ、その場で殲滅したいのだと目的を明かした。
だが、私は戦士ではない。ただの旅芸人でニセモノの王だ。
本物のイリオスの剣を目にすれば、シュレーやナロウ、ギリアムが正しい反応をするはずだとも言われた。
ここまで、イリオスの言う通りにしてきた。だが、ギリアムの反応とはいかなるものなのか。明らかに私に対して何らかの魔法詠唱が成されている。宝物箱は二重底になっている。私は、底に隠れている本物のイリオスの剣を掲げた。
同時に、大気が揺れ、王国全体に光が降り注ぐ。もう夕刻だというのに。
女神だ。
それは、光に覆われた美しい少女だった。黄金の髪に、切れ長の目、手足が長く、ローブのような装束。素足だった。
私はシュレーたちに向かって叫んだ。
「本物のイリオスの剣だ」
女神が私の方を一瞥する。
ギリアムが魔法詠唱を女神に向かって放った。
イリオスの剣を目掛けて、私の方に向かってくる女神の動きが遅い。
と同時に、ギリアムが偽のイリオスの剣の中から、呪われし勇者の剣を取り出した。
その様子にシュレーとナロウが反応する。
ギリアムが勇者の剣を構えるも、三人同時になんらかの魔法を詠唱し始めていた。
女神がイリオスの剣を手にした時には、もう三人の詠唱が終わっていた。
カゲヤマは瞬時に私を抱え、玉座を盾に護ってくれた




