表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/161

第十一話<調(しらべ)>-4

窓の無い白一色の細い通路には

いくつもの部屋への入り口が等間隔に並んでいる。

その先には15畳ほどのスペースに

自動販売機と長椅子が設置されている休憩所がもうけられており、

早間はそこで何かをジッと待っている。


博士を送った後、早間は村雲の呪術研究所を訪れていた。

しかし知り合いが居るわけも無く、突然各部屋に押し入る事も気が引けたので

直ぐに聞き込みは出来なかった。

静かな館内は時間の経過を長く感じさせる。

時計を見ると、そこに座ってから5分程しか経っていなかった。

肩をほぐすように首を回す早間。すると一つの足音が近づいてくることに気が付く。

その方向に目を向けると、30歳前の中肉中背の男性が休憩所に入ってきて、

缶コーヒーを購入する。


「すみません、ここの研究員の方ですか?」

突然話しかける早間。すると取り出し口に手を差し伸べつつ振り替える男性。

「ええ、そうですが・・・貴方は?」

「私は特務員の早間です。少しお時間をいただいても構いませんか?」

「特務の早間?・・・どのようなご用件で?」

すると顔写真を見せる早間。

「この方についてお聞きしたいのですが。」

写真を受け取る男性。そして難しい顔を一瞬見せると、直ぐに返してしまう。

「やっぱり皆本に関してですか。」

「はい。予想通りといった感じでしょうか?」

早間の前にある椅子に座る男性。軽くため息をつくと視線を合わせる。

「アイツ、まだ見つからないんですか?」

「はい、彼のことはご存知で?」

「ええ、アイツとは同期でしてね、急にどうしたんですかね。やっぱり誘拐ですか?」

「それを調べているところなんです。

まだ自分から姿を消したか、誘拐されたかすら分かりません。」

「そうですか。」

コーヒーを口に運ぶ男性。

「皆本さんですが、自ら失踪する理由とか何か思い当たるところありませんか?」

早間はとりあえず、誘拐ではなく自らの手による失踪の線で話を進めてみる。

「いや、思い当たらないですね。アイツは私生活でも研究でも上手くいっていた様子でした。

実に毎日が楽しそうでしてね。それを全て投げ出すとは思えないな。」


「・・・ちなみに研究というのはどのようなことをされていたんですか?」

「いや、自分は同期といっても隣の研究室の者でね。

内容まではちょっと。」

首を振りながら答える男性。

「そうですか。ひょっとしたら研究内容が失踪と関わっているのかもしれないと思ったのですが。」

早間が残念そうに答えると、男性は様子を窺い始める。

それに気がつき「何か?」と話を振ると、アゴに手を当てて考え込む男性。


「アイツ、ひょっとしたらカザーバに拉致されたのかもしれません。」

「と、いいますと?」

突然の物々しい発言だったが、冷静に聞き返す早間。男性はやや小声で話し始める。

「他人の研究について情報を漏らすのは禁則事項なんだ、注意してくれますか?」

「はい。」

「詳しくは知らないが昨日、昼飯が一緒になった時の事です。

夜に術を試しに行くようなことを言っていました。」

「術を?」

「ええ、更に話はさかのぼるのですが、

20日ほど前にアイツはカザーバの新しい呪術を発見したと言っていました。

それを解析したのでしょう。

サンプルを取りに行くといって毎晩21時くらいから外出していましたしね。

ここ最近、カザーバがここらへんで毎晩徘徊しているじゃないですか。

そこからもカザーバ絡みだと容易に想像が付きますよ。」

「サンプル?それは怪物ということです?」

「いや、夜も遅いしアイツが帰ってきたところを見たことは一度しか無いですが、

特にそれらしいものはありませんでしたよ。」

「ではサンプルとは一体?」

「さあ、そこまでは。とにかくアイツはカザーバの術を解析し、

その結果を試しに出かけたところをカザーバに連れ去られた。

自分はそう考えますよ。」

「その事を他に誰かに言いましたか?」

首を振る男性。

「いや、誰にも。言ったでしょう、禁則事項だと。」

「では何故私に?」

男性を見つめる早間。すると缶コーヒーを椅子の上に置いてうっすらと微笑む男性。

「ほんの数十分前ですよ。

過去にお世話になった偉大なる女性博士に

早間という男性が来たら力になって欲しいと連絡がありましてね。」

「え?!」

「それに皆本は良い友人だったんですよ。

きっと何かに巻き込まれたに違いない。どうか助けてやって欲しいんです。」

寂しそうな顔を見せると、早間は少し辛くなる。


「ええ、努力します。ところで他に何か知っていることはありませんか?

例えばサンプルを取りに行った場所とか。」

顔を上げる男性。

「さあ、そこまでは・・・。

そうだ、昨日の昼に術の実験が上手くいったら

ラーメンを食べて帰るようなこと言っていました。

何でも行く途中に有名なにんにくラーメンの店があるとかで。」

「ラーメン?」

「ええ、どこの店かは、分から・・・。」

男性がそこまで言うと、早間は人差し指を立てて口元に当てる。

そのジェスチャーで男性の発言を制止すると聞き耳を立てる。

「足音が聞こえます、何も知らないと大きめの声で言ってください。

貴方に迷惑は掛けられない。」

小声で言う早間。すると男性はうなずく。


「何も知りませんよ。」

男性が周囲に聞こえるように言うと、足音が急ぎ足の音に変わり近づいてくる。

音の先に目を向ける早間。すると目の前には50過ぎの白髪の混じった

細身で背が低い男性が現われる。

「何者だね、君は?」

疑いの目で早間を見る白髪の男性。一方早間は彼の胸にある名札を見る。

『Dr.T・SOTOKAWA・・・。』

話で聞いていた外川博士と確認すると、スッと立ち上がる。

「失礼、私は村雲の特務員である早間です。

行方不明になった皆本さんについてお聞きしたいのですが、

こちらの方は何も知らないそうで。

何かご存知ではありませんか?」

「必要な情報は既に伝えてあるはずだが?」

「はい、ですが記載されていない情報もありまして・・・

例えば何を研究なさっていたとか。」

「それを知ってどうするのだ?」

怖い顔で問われるが気にも留めない早間。

「ええ、それが失踪の原因でないかと思いましてね。」

「そんなものは関係ない!

原因はいい、早く皆本君を探したまえ!」

強い口調でそう言うと外川博士はその場を去っていった。


「胡散臭いですね、まったく。」

後姿をジッと見つめた後、情報提供してくれた男性の方に振り向く。

「ありがとう、助かりました。怪しまれずに済んだようです。」

男性はぼそりとそう言う。

「いえ、こちらこそ有難うございました。

これ以上はお互いに危険かもしれませんので

ここらで失礼させていただきます。」

一礼をしてその場を立ち去る早間。

男性はその後ろ姿を暫く見続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ