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第十一話<調(しらべ)>-5

開店したばかりで人の少ないファミリーレストランに

甲子郎と矢子が向かい合って座っている。

テーブルの上にはコーヒーと一枚の紙だけが置かれており、

甲子郎は時折その紙にメモを取っている。


「すまないな、早くから呼び出しちまって。」

メモを取りながら話しかける甲子郎。

「いえ、これもお仕事なんですから仕方がありませんよ。」

首を軽く振ると心配そうな表情を見せる矢子。

「あの・・・やっぱり櫻子さんのことは、まずかったでしょうか?」


今日の朝に甲子郎は、矢子を呼び出していた。

理由は昨夜、工場の中で何があったか聞くためだ。

早間からも話は聞いていたのだが、知りたかったのは

甲子郎と別れてから早間が駆けつけるまでの出来事だった。

昨日の報告書をまとめるにしても空白の部分が多すぎるので

矢子に話を聞くことにしたというわけだ。

そして彼女は断ることも無く素直に話をする。

しかしいざ話を聞いてみると矢子が櫻子に魔法を教えたという

少し問題じみた内容をうちあけられてしまった。


「そうだな、確かにあまり良いとは言えないな。」

書類を書きながら視線を合わせずに言う甲子郎。

「・・・でもまあ規則違反にはならないよな、相手は幽霊だし。」

そこで軽くため息をつく甲子郎。そして顔を上げると矢子はうつむいたまま固まっている。

「だからといって報告するのも気が引ける内容だ。

櫻子は勝手に魔法を使うようになったとでもしとくさ。」

今度は矢子が顔を上げる。

「いいんですか?」

「ああ、重要なことは報告書の内容より報告書を書いたかどうかだ。

とりあえず出しておけば良いさ。」

「・・・それでいいんですか。」

困らせていると思ったら逆に困ってしまった矢子。


「コーヒーだけで良いのか?何か食べたいものを食べていいぞ。」

「いえ、結構です。」

そう言いながら甲子郎の作業を見つめる矢子。

「今日はお前、これからどうするんだ?」

暇そうな矢子に話しかける甲子郎。すると矢子は背もたれに

トンッと寄りかかって手を合わせる。

「今日は服を買いに行こうと思っています。

そろそろ温かくなってきていますし、

せっかく蘭子さんに服の選び方とか教わっているから

成果を見てもらいたいし・・・。」

その台詞を聞くと少し驚いたように顔を上げる甲子郎。

「どうかしました?」

「いや、何でもない。

お前は蘭子の事が好きなんだな。」

「・・・そうですね、蘭子さんだけじゃなくって皆さん、とても大事にしてくれます。」

照れるように言う矢子。すると甲子郎は報告書を簡単に終わらせると

書類をしまい始める。

「よし、じゃあ俺も買い物に付き合うとするかな。」

「え?お仕事は?」

突然の提案に驚く矢子。

「んぁ?仕事なんてサボれる時にサボればいいんだよ。

それに毎晩働いているんだ。昼間に何しようとかまわないさ。」

「・・・そうなんですか。」

また困ってしまう矢子だったが、今度は笑顔も含まれるものであった。

そしてその顔を見ると、少し笑みがうつってしまう甲子郎であった。

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