第十話<早まる出現>-14
『これで片がつく。』
早間が今からどうやって悪霊を退治するのか分からなかったが、
これで一先ず終わると安心する琴和。
合わせている手をゆっくりと離すと、長く息を吐く。
「お別れだ、この世界から。」
早間がそういうと、指先が白く輝き出す。
しかしその時だった。
「でぅあああああ!」
悪霊が突然叫びだし両手を天に掲げると、大地に物凄い揺れが走る。
「これは!?」
すさまじい揺れのために、その場にしゃがむ琴和。
「往生際が悪いぞ!」
その状況でも閃光となった術を悪霊に向けて放つ早間。
しかし悪霊は簡単には自らの消滅を受け入れなかった。
「だあああああ!」
悪霊が再び叫ぶと、揺れは止まるが天上が崩れ出し閃光を遮る。
「なんだと!?」
驚く早間。そして悪霊は更に叫びを続ける。
「ぐゎああああああ!!」
その声に反応するかのように琴和たちが入ってきた扉付近の壁が
物凄い振動をし始める。
「壁から離れて!!」
矢子が叫ぶと、なるべく距離をとる琴和。
すると壁は倒れ掛かってくるように崩れる。
舞い上がる埃。その間にも悪霊は叫び続けている。
「クソ、まだこんな力が残っていたか。」
険しい顔になる早間。そして再び術の構えを取る。
「危ない!!」
突然叫び出す櫻子。
それに反応して振り返る早間。すると埃の中から琴和を目掛けて
猿の怪物が飛び掛っている事に気が付く。
「うわ!!」
横に飛んで交わす琴和。
「このタイミングで追ってきたのかよ!」
そう言ってポケットからナイフを出す間に猿は次の攻撃に入る。
「心波!!」
猿に目掛けて青い閃光を放つ矢子。術はヒラリと交わされるが琴和への攻撃は阻止することが出来た。
「こっちは私たちでやります。早間さんは悪霊を!」
「了解!」
矢子が抜刀しながらそう言うと、早間はうなずく。
しかし次の瞬間、矢子の頭上にある天上が崩れて破片が降りかかる。
「矢子ちゃん!!」
早間が叫ぶと同時に、弾け飛ぶ天井の破片。
「櫻子さん!?」
矢子が櫻子の方を振り向くと、降り注ぐ破片に向かって右手をかざす櫻子の姿があった。
「ぐおおおおおおお!!」
その様子に反応したのか、また叫ぶ悪霊。すると今度は広範囲で矢子の頭上が崩れ始める。
「小田原さん、矢子ちゃんを受け止めて!!」
「え!?」
「きゃあああああ!」
琴和は一瞬のことで理解出来なかったが、次の瞬間には矢子が目の前まで飛んできていた。
あまりにも大量の破片に、全ては弾けないと判断した櫻子は
破片ではなく矢子を安全圏まで弾け飛ばすことにしていた。
「大丈夫?」
見事背中から矢子を受け止めた琴和。すると最初の一歩目はよろっとするが
直ぐに体勢を立て直す矢子。
「はい、それより私たちで早くあの魔物を。
そうしないと早間さんも悪霊退治に専念ができません。」
小太刀を強く握り締める矢子。しかし琴和は戦闘態勢を取らずに、
崩れた天上を見上げていた。
「琴和さん?」
様子がおかしいので声を掛ける矢子。すると琴和は答える。
「逃げることも選択肢に入れたほうが良いかもしれない。」
「え?」
恐る恐る矢子も空を見上げる。
すると崩れた天上から、外で見たコウモリの怪物が数十羽に付け加え、
体長が2mほどの手の付いた巨大なコウモリがゆっくりと舞い降りてきた。
「こういうのを逆境と言うのかな。」
同様に天上を見上げる早間。しかし様子は何かを諦めたかのように、妙に落ち着いていた。
「今から甲子郎さんを呼んできます!」
櫻子が慌ててそう言うと、早間は手をかざす。
「待ってください、こんなことで瀬戸に借りを作るのは癪です。
それに間に合わないでしょう、多分。」
すると矢子が話しかける。
「早間さん、紅陣を使います!あれならこの状況を打破できるはずです。」
すると振り返り焦った表情を見せる早間。
「駄目だ、牙封法は試したこと無いだろ!失敗したら危険すぎる!」
「私は失敗しないって知っているじゃないですか!」
「矢子ちゃん!!」
険しい顔に変わる早間。すると矢子はビクッとする。
「・・・ごめんね、どうにかするから。大丈夫、任せて。」
そう言ってすぐさま落ち着く早間。
「すこし遊びが過ぎたようだ、悪いが本気で潰させてもらうよ。」
静かに言葉を放った後、悪霊を睨む早間。
「お前を消すには手間が掛かる。暫く大人しくしていてくれ。」
地面に向けた指を素早く天に振り上げる早間。すると、悪霊の地面には
白い魔方陣のようなものが現われ、白い光で出来た半透明の円筒に包み込まれる。
「ぐあああああああ!」
苦しみだす悪霊。しかしもがいても、その中から出ることは出来ないようだった。
「さて、とりあえずお前たちだな。」
次に怪物を睨む早間。するとポケットから紙の札を大量に取り出し、頭上に撒き散らす。
ひらひらと舞い落ち始める札。しかし早間の腰付近まで落ち始めると、
空中でピタリと制止する。
「まずは空の鬱陶しい奴!!」
早間がそう言って、上空のコウモリを見ると、
札は数多く飛び交うコウモリの怪物を目掛けて物凄い速さで飛んでいく。
そして札は刃のようにコウモリを傷つけ血が舞ったと思うと、
傷口から炎が吹き出る。
「な・・・何なんだ?」
その光景にたじろぐ琴和。
その間に次々へとコウモリの怪物は堕ちていく。
そして巨大なコウモリの怪物も長くは持たずに奇声を上げながら炎に包まれて堕ちていった。
「カザーバがらみはお前で最後だな?」
懐から銃を出して猿の怪物に向ける早間。
そして怪物の行動を待たずに、鳴り響く銃声。
早間のプレッシャーで体が動かなかったせいか、
避けることも出来ずにそのまま眉間を打ち抜かれて力なく倒れる怪物。
「すごい・・・。」
あっという間に怪物を処理した早間に圧倒される琴和。
その様子に気が付く事もなく早間はゆっくりと悪霊に目を向ける。
「待たせたな、次はお前だ。」
右手の人差し指と中指を立てて上から下へ、左から右へと
切るように手を振りかざすと、暫く目を閉じて動かなくなる。
「まずは力を奪わせてもらう。」
右手を広げて上から下へ素早く振る早間。
すると悪霊は声にならない声で短く叫ぶと、
宙に浮いたままぐったりする。
「もうこれで抵抗できないだろう。」
そう言うと再び右手の人差し指と中指を立てて
悪霊に指先を向ける。
「滅!!」
場内に早間の声が鳴り響くと、白い閃光が悪霊の体を突き抜ける。
すると悪霊は粉々になるように四方に飛び散り、うめき声のようなものがあたりに鳴り響いた。
「これは!?」
異様な雰囲気に恐怖を感じる琴和。
「諸悪の根源を絶ったから、
縛り付けられていた霊たちが解き放たれてうごめいているんですよ。
せめて迷わないように導いてあげないといけません。」
寂しそうな顔で見上げる早間。そしてお経を読み始めると手を何度か振り払い術を唱える。
5分ほど経過した後、早間はお経を止めて深呼吸をすると、周囲は不思議と静かになった。
「これでもう大丈夫でしょう。」
ゆっくりと顔を上げて天を見る早間。
「何を・・・やったんですか?」
琴和が聞くと、早間は振り返る。
「やすらかに・・・してあげたんです。」
「やすらかにですか・・。」
理解できなかった琴和。それを見ると早間は質問をする。
「そもそも霊って一体何なんだと思いますか?」
そう聞くと、琴和は困惑をする。
「霊・・・ですか?」
櫻子をチラリと見る琴和。すると早間は答える。
「霊とは生き物の一部ですよ。」
「生き物・・・?」
そこまで言うと、早間は自分が入ってきた扉に向かう。
「さあ、こんなところ早く出ましょう。瀬戸たちも心配をしているでしょうし。」
「あ、待ってください。」
早間を追うように扉に向かう三人。
その後、話の続きは早間の口から出ることは無かった。




