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第十話<早まる出現>-13

「止めるんだ矢子ちゃん!この建物を消し飛ばす気か!?」

少し離れた位置にあった扉が急に開くと、早間が飛び込んでくる。

「悪霊共よ、この術と共に消し飛べ!!」

白い光を右手に宿すと、その光を大地に打ち付ける早間。

すると工場内全体の床が白い光を放ち始め、次第に光の強さが増していく。

あまりにもの眩しさに目を閉じると、5秒ほど動けなくなってしまった。


光が治まり恐る恐る目を開けると、足を掴んでいた手がなくなっていることに気が付く矢子。

慌てて琴和を見ると、咳き込みながらその場に跪いている。

一方櫻子は驚いて呆然としているようだ。

「琴和さん!」

慌てて走り寄る矢子。すると琴和は咳き込みながらも顔を上げる。

「・・・大丈夫だよ。それにしても今のは?」

「早間さんが・・・助けてくれたようなんです。」

そう言うと矢子は早間に視線を移す。その間に早間は櫻子に近づいていた。


「大丈夫でしたか?少し見せてください。」

ジッと櫻子を見る早間。暫くするとニコッとする。

「どうやら大丈夫のようですね、悪霊の影響が出ないかと心配しましたよ。」

「悪霊の・・・影響?」

恐る恐る聞く櫻子。

「ええ、霊って結構強い念に影響されやすいんですよ。

例え貴女のような穏やかな霊でも強い念を持った霊に触れたら影響を受けて

穏やかじゃなくなるかもしれません。

まあ幸いにして、今回は平気のようでしたが。」

そう言うと、スッと立ち上がる早間。

「早間さん、何でここに?」

ゆっくりと近づきならが矢子が質問をすると、早間は腰に手を当てため息をつく。

「矢子ちゃんたちがこの建物に駆け込む姿を見たんだよ。

瀬戸は魔物にてこずっているし、この建物からは異様な気配があるしで

これはマズイと思ってね。でも建物の前で見失っちゃったから、そりゃ困ったよ。」

「そうだったんですか、すみません。」

うつむく矢子を見ると優しい眼差しで見る早間。

「こういう場合はすみませんじゃなくって、ありがとうでしょ。」

矢子の頭を軽くポンと叩くと、琴和に話しかける。

「君も大丈夫ですか?ピンチだったようでしたけど。」

するとゆっくりと立ち上がる琴和。

「ええ、大丈夫です。助かりました、有難うございます。」

首に軽く手を当て、少し揉み解すと琴和は早間に質問をする。

「ところで今のは一体何だったんでしょうか?」

突然しゃがみだし、床に手を当てる早間。

「強い怨念のせいでこの地に縛り付けられている幽霊・・・いえ

魔物といっても良いでしょう。

その怨念はすさまじく、他の霊まで呼び集めては

悪影響を与えて凶暴化させているようです。まさに魔物ですね。」

「だからあんなにいっぱいの手が・・・。」

櫻子がつぶやくと、早間は視線を向ける。

「ええ、そうです。皆さんを掴んでいた手はきっと悪影響を受けた霊でしょう。

その中にはおそらく、元々は櫻子さんみたいに穏やかな霊だったものが

凶暴化させられたものもあるのかもしれません。」

その話を聞くとビクッとする櫻子。

「本当に気をつけてください。魔物化した霊は性質が悪いですから。」

考え込む櫻子。その不安そうな様子を見ると琴和は心配になって近づく。

「大丈夫ですよ。」

優しくそう言うが、櫻子の怯えた表情は暫く続いていた。


「早間さんが飛び込んで来た時に、私に近づいてきた男性が諸悪の根源でしょうか?」

早間に質問をする矢子。

「ええ、それは間違いがないはず。彼だけはずば抜けて強い力を感じたよ。」

工場の奥を見つめる早間。

「・・・それにまだ、消え去っていないようだしね。」

「え!?」

「今、私が放った術は霊を浄化・・・つまりは消滅させるものです。

術は地面に向かって放ったので、この地にしがみ付く悪霊は消したはずですが、

どうやらここの主様には力不足だったようです。」

琴和に分かるように説明をする早間。そしてポケットに手を入れると琴和を見つめる。

「小田原さん、お経を唱えられますか?」

「え?無理ですよ、やったことありません!」

慌てる琴和。すると矢子は質問をする。

「早間さん、一体何をする気ですか?」

にっこり微笑む早間。

「このまま魔物化した悪霊を放っておくわけにもいかないからね、

良い機会ですし退治しておこうかと。

だけど、言ったとおり強い力を持っているから一筋縄ではいかなさそうなんだよね。

だから矢子ちゃんと小田原さんにお経を唱えてもらって手伝ってもらおうかなってね。」

「待ってください!それは!」

食いつく矢子。しかし両手を小さく上げて勢いを押さえようとする早間。

「大丈夫、問題ないよ。」

うっすらと笑う早間。その表情には気付かず琴和は答える。

「待ってください、僕はお経を・・・。」

「いえ、良いんですよ。何を言っても構いません、

ただ矢子ちゃんの唱えるお経とリズムを何となく合わせて、

「悪霊よ、消え去れ」と強く念じていただければOKです。」

「え?ええ?」

混乱する琴和を見ると早間は両手を合わせる。

「ほら、こうやってください。そして今言ったとおり矢子ちゃんに合わせて

やってみてください。とにかく一番重要なことは

悪霊を消したいという意志の強さなんですから。

私は二人のその意志からにじみ出た力を助けにして今から

問題の霊を追っ払おうとしているんです。

お経のリズムはその力をにじみ出しやすくする為の一つの方法なんですよ。」


分かったような、分からなかったような感じになる琴和だったが、

とにかく今はやるしかないということは理解する。

「分かりました、矢子ちゃん先導よろしく。」

「・・・どうなっても知りませんよ。」

矢子はぼやくと、両手を合わせてお経を唱え始めた。

それに続くように琴和も唱え始める。



お経は矢子の声が聞こえやすいように、二人並んで唱えていた。

初めはどうなることかと思ったが、

案外とテンポ良く唱えることができている。

その様子を見ると早間は少し鋭い視線になるが、すぐさま普段どおりの顔つきになる。

そして二人より三歩ほど前に出ると、彼も両手を合わせて何か集中をし始める。


三分ほどそのまま経過する。辺りは誰もいないのだが、急にざわめき始めた感覚に包み込まれる。

その感覚のせいで集中していた琴和の意識は一瞬解かれてしまった。

『あれ?』

ふと集中が解かれたことによって琴和はとある異変に気が付いた。

『何で俺、お経が分かるんだ?』

今まで、何となくそれらしいように唱えていたのだったが、

気が付くと、次に唱えるべき言葉が頭の中から沸いて出ていることに気が付く。

それは矢子が唱えたものを聞き取っているのではなく、

唱える前から、次に何を唱えるのかが分かってしまうということだ。

『どういうことだ!?』

混乱する琴和。すると早間が注意をする。

「集中してください、力が弱まっている。」

その言葉にビクッとすると、頭を強く振る琴和。

『そうだ、今は集中しないと。』

考えることをやめ、再び『悪霊よ消え去れ。』と念じる琴和。

すると早間は右手を天にかざして怒鳴るように声を上げる。

「悪霊よ、姿を現せ!」

かざした手を振り下ろすと、白い光が周囲を包む。

するとうっすらと前方に、先ほどの男性が現れ始める。


「お経、もういいよ。有難う。」

にっこりとして振り返る早間。そしてすぐさま厳しい顔つきになり悪霊を睨む。

「お前の隠れ蓑は全て消させてもらった。もう逃げられないぞ。」

冷たい表情でそう言うと、右手の拳から人差し指と中指だけを伸ばして悪霊に向ける早間だった。

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