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第十話<早まる出現>-15

扉から外に出ると、そこは敷地内の広場になっていた。

噴水跡があることから、以前は休憩場所として利用されていたのだろう。

「小田原さん、あれ。」

櫻子が指し示す先を見ると巨大なコウモリの怪物が十数羽倒れている。

「あれは・・・?」

近づこうとする一行。


「琴和君?」

ふと後ろから女性の声がする。蘭子だ。

「お前・・・それは。」

蘭子の姿を見ると、一瞬たじろぐ琴和。

彼女は右手におびただしい量の血が付いた鉄パイプを握り締めていた。

体にも返り血をかなり浴びている。

「怪物の量が凄くてさ、とても大きいしコレで殴るしかなかったの。」

平然と言う蘭子。しかしその様子に不信感を持つ琴和。

「お前、大丈夫なのか?」

「何が?」

「何がって、そんな血だらけになって気持ち悪さとかないのか!?」

そう言うと、蘭子は一瞬ハッとして力が抜けたように鉄パイプを手放す。

そしてカラーンという音が辺りに鳴り響くと小さくうつむく。

「蘭子!?」

慌てて近寄り肩に触れる琴和。すると小さい声が聞こえる。

「・・・大丈夫。」

「え?」

「大丈夫だから気にしないで。少し疲れちゃっただけだから。」

笑顔を見せる蘭子。しかしそれは無理をして作っているように感じ取れた。


「おう、お前らじゃねえか。」

そのタイミングで甲子郎が姿を現す。

「ここで一体何があったんですか!?」

蘭子の様子がおかしいこともあり、外での出来事を勢い良く聞く琴和。

すると甲子郎は琴和を落ち着かせるように話し始める。

「ああ、初めに襲ってきたコウモリ共を片付けたら、

この広場にもコウモリが多く集まっていることに気が付いたんだ。

それで二人してここに来たんだが、数が多いだけではなく

巨大なやつまで現われてな。

奮戦してようやく今、片付いたところだ。

それよりお前らの方こそ無事だったか?」


「全然大丈夫じゃねえ、正直危なかったぞ。

こんな危なそうなところに行かせて、何かあったらどうするつもりだったんだ?」

琴和は更に詳しく聞きたいと思ったのだが、

先に早間が腰に手を当てて問い詰め、会話の流れを持っていかれる。

『こっちも色々あって外での話題だけというわけにもいかないから

仕方が無いか、後で詳しく聞こう。』

軽くため息をついてそう思うと、今は全体の会話に参加をしようとする琴和。

「んぁ?お前がせっかく向かってくれたんだ、目の前に怪物がいるのに俺までついていく必要はないだろ?」

甲子郎はにやりとしてお手上げのポーズを取ると、ムッとする早間。

「気付いていたのかよ。」

「当然だ。」

二人のやり取りに入る矢子。

「あの、まだ初めに追っていた犬の怪物は見つかっていないのですが・・・」

「ああ、それなら今やってきたところだ。」

後方を指差す甲子郎。すると遠くに犬の死体が見える。

「結局、外にいたんですね。」

矢子が失敗したかのように言うと、琴和は振り向く。

「だけど室内にいた違う怪物は退治できたよ。無駄じゃなかった。」

「でも、本当に危なかったですよね。」

櫻子が疲れたようにそう言うと、うなずく琴和。

「ええ、正直なところ早間さんが来てくれなかったらどうなっていたことか・・・。

そういえば何で早間さんは僕たちを見かけたんですか?

こんな時間にあんな場所で。」

すると早間は頬をかく。

「何でって、私も世の平和を願う人間ですよ。

君たちと同じく、はびこる魔物は退治しないといけないと思っています。

仕事の合間を見ては巡回はしていますよ。

禦だけに任せておくわけにも行きませんしね。

一応君たちの同志ではあると思いますよ。」

「何が同志だ。」

腕を組んで拒む甲子郎。そして早間は抵抗する視線を向ける。

その間に蘭子を見る琴和。するといつものような元気はなく、少しボーっとしている。


「あの、今日は怪物が多かったり、悪霊が出たり・・・

そして時間が早まったりと色々振り返って考えないといけないことが山積みですけど、

とりあえず帰りませんか?」

「んぁ?悪霊!?やっぱりこの建物はやばかったのか。」

少し驚く甲子郎。すると呆れる早間。

「だから言っただろ、やばかったって・・・。」

「蘭子、ほら、しっかりしろよ。」

ボーっとする蘭子に声を掛ける琴和。すると「うん・・・。」という返事が小さく返ってくる。

その様子を見ると甲子郎は口を開く。

「分かった、今日はもうお開きだ。だが早間、お前は残って今日の事を教えろ。」

「何だよ、そりゃ!」

「いいだろ!」

そう言うと携帯を取り出す甲子郎。

「悪い、今日は車を出して欲しい。家まで送り届けて欲しい人間が三名いる。

それと回収班も回してくれ。」

簡単に用件を済ますと電話を切る甲子郎。そして琴和たちに話しかける。

「俺はもう少しここで調べ物をするから先に帰ってくれるか?

家まで送ることは出来ないから、これから来る禦の局員に送ってもらってくれ。」

「いえ、送ってもらわなくても大丈夫ですよ。」

矢子が遠慮がちに言うと、早間が話しかける。

「せっかくだから送ってもらいなよ。電話からすると車も用意してくれるようだしね。」

「盗み聞きするんじゃねえ。」

「だったらもう少し小さい声で電話しろよ。」

相変わらずの二人。それをよそに櫻子は心配そうに蘭子の顔を覗き込む。

「もう帰って寝ようね。」

「うん。」

簡単に答える蘭子。すると矢子も心配になってきたようで近づいてくる。

「蘭子さん、これで手を拭いてください。」

手ぬぐいを差し出す矢子。その表情を見ると

琴和だけでなく二人にも心配させている事に気が付き『いけない。』と思う蘭子。

「ありがとう、もうこの服も駄目だね。気に入っていたんだけどなー。」

手ぬぐいを受け取り、手に付いた血を拭き取りながら気丈に笑顔を見せる蘭子。

「そうだ琴和君、明日は私18時までバイトだから晩御飯を作るのお願いしていい?」

いつも通りにの口調で喋る蘭子。それは元気な素振りを見せるためなのかなと

思わせるものであったが、それでも沈んでいるままよりは良いと思い、気付かないふりで快く答えることにした。

「分かったよ。何か作っておく。」

「お願いね。なるべく節約しないとだめだよ?」

「そうだね、気をつける。」

優しい口調でそう言うが、その後に蘭子の頭を鷲掴みにするようにして荒っぽく撫でる琴和。

「ちょっと、何するのよー!」

「何か面白いものを作っておくよ。」

「もーそれより美味しいものでしょ?」

ぶつぶつ言いながらが、少し笑顔を見せる蘭子。しかしその笑顔は無理して作っていないように見えると

琴和は内心、少し安心するのであった。


<第十話 早まる出現 -終->

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