第十話<早まる出現>-7
食事を済ませ、琴和の家で21時頃までくつろいだ後、
一行はいつも通り夜道の見回りをしている。
22時までの時間帯は怪物を探すのではなく、怪物を出そうとしている
カザーバのメンバーを探すといった感じだ。
しかし20日ほど前に三人が遭遇して以来、一度も出会うことはなかった。
甲子郎の話では、他の局員も怪物とは遭遇するものの、
カザーバのメンバーとの遭遇は無いとのことだ。
短期間に何人も禦や村雲と戦闘になったこともあり、
行動を慎重にしているのだろうというものが甲子郎の見解である。
一方怪物は三日に一度遭遇するくらいで、琴和と蘭子が出会った週のように
毎日遭遇するということは無かった。しかしそれは、他に見回りに出ている禦の局員が
変わりに遭遇しているだけであって結局は毎日、何処かしらで怪物は出現している。
傾向としては、犬型のものが最も多く、その次に鳥型、後はコウモリや猪等がたまに混じるといった感じだ。
昨日琴和たちが遭遇した飛ぶ魚の怪物は新しいケースで、
今後も新種が現れるのではないかと禦内部で噂が広まっているようだ。
毎日怪物が出現しているにもかかわらず、関連された情報は一切世の中に広まることは無かった。
禦の対応の早さと、人通りの無い場所にしか出現しないことが理由として考えられる。
そのように世の中は今までと何も変わらず動いているのだが、
琴和と蘭子は不可思議な世界に囲まれる生活を普通に過ごすようになっており、
違和感を感じなくなってきていた。
「お前らもすっかり慣れてきたようだな。」
何気なく話しかける甲子郎。目線は蘭子に向けられている。
「急にどうしたんです?」
「そんな物騒なものを持ち出して、戦う気満々だな。」
今日買ったエアガンをいじりながら歩いていた蘭子。
新兵器ということもあり、気になって仕様がなかった。
「どうしてまた、エアガンなんですか?」
矢子が隣で尋ねると視線を移す蘭子。
「これなら無闇に近づかなくてもいいし、お手軽でしょ?」
蘭子が銃をかざしながら理由を言うと、甲子郎が後ろから話しかける。
「とは言うが、実際に動いているものを狙うのは難しいぞ?
ましてやBB弾なんだ、風の影響も強いだろうな。
それに武器としての威力も不安だな。」
もっともな意見に少し不貞腐れる蘭子。
「そんなこと言わないでくださいよ、高かったんですよこれ。」
「お前が買ったんじゃないだろ!!」
思わず突っ込む琴和。
「なんだ琴和、買わされたのか?」
にやける甲子郎。すると琴和が肩を落として「はい。」と答えると、櫻子は頭を撫でる。
「ごめんなさいね、私が何か怪物退治で役立てたら出費をしなくて済んだかもしれないのに。」
櫻子が申し訳なさそうに言うと、琴和は急いで否定をする。
「いえいえ、そんなことないですよ。櫻子さんは付近の情報集めで活躍しているじゃないですか。」
「そうかな、ホラー映画に出てくるお化けみたいに、物を飛ばしたり出来ればいいんだけど・・・。」
「そういう力が欲しいんですか?」
矢子がそう尋ねると、櫻子は少し考えた後、首を縦に振る。
「本当は平和に過ごしたいけど、そうも言っていられない状況だし、
ただ見ているだけは少し申し訳ないから。」
すると蘭子は櫻子のそばに寄る。
「そんな申し訳ないって思わないでくださいよ、
櫻子さんは居てくれるだけで和むんですから。」
顔を覗き込むようにして言うと「そう、ありがとう。」と返す櫻子。
そのやり取りが終わると、矢子は蘭子が持っているエアガンを見つめる。
「でもエアガンは有効かもしれませんね。限定される場面が多そうですけど、
使い方次第ではエアガンだから出来ることもありそうですし。」
「さすが矢子ちゃん、分かってるわねー。」
機嫌よく反応する蘭子を見ると、「あはは・・・。」と笑う矢子。すると琴和は質問をする。
「矢子ちゃんはどういう活用法があると思う?」
「そうですね、例えば人と戦う時なんて有効じゃないでしょうか?
まず本物と思って見た目で怯むでしょうし、エアガンなら狙う場所に気を使わなくてよさそうです。
本物の銃ならば顔に当ったら即死ですけど、エアガンなら怪我で済みます。
また顔に当てることで、暫くは動きを封じることも出来ますね。
カザーバの人を捕まえる事を考えると、むしろ本物の銃より良いかも知れません。」
「なるほどね。」
琴和が納得をすると、甲子郎は蘭子に目を向ける。
「お前も、そういう使い方を想定しているのか?」
蘭子は甲子郎の方を向くと、エアガンを強く握り締める。
「いえ、そうじゃないです。」
「じゃあどういうのだ?」
「こういう事です!」
突然発砲をする蘭子。その弾は甲子郎の頭の左を高速で通り抜ける。
「・・・なるほど。」
その行為に一瞬、空気が凍るが、甲子郎は物ともせず後ろを振り向く。
すると地面に落下直前のコウモリ型の怪物が目に入る。
「やっぱ思った通りだった、空を飛ぶ小さい怪物になら有効だね。」
蘭子が走り寄ると、甲子郎は関心した表情で話しかける。
「よく当てたな。」
「私って射撃のセンスもあるようですよ。
背後から迫る敵を倒したんです、感謝してくださいね。」
得意げに言う蘭子、その様子に参った顔をする甲子郎。
「悪いな、お前が撃つ直前から怪物には気付いていたんだ。
もう少し近づいたところで始末しようと思っていたんだがな。」
「可愛くないですよ、それ。」
腰に手を当てる蘭子。怪物が出たにもかかわらず呑気な様子だったが、櫻子は深刻な顔をする。
「待って、今何時!?」
質問を投げかける櫻子。すると即座に琴和が腕時計を見ながら答える。
「ええ、僕もおかしいと思いました。
まだ、21:31ですよ。」
「22時前なのに何で?!」
蘭子が慌てたように聞くと、甲子郎は静かに銃を抜く。
「今までが律儀に時間を守りすぎていただけだ。
時間がずれることは予想はしていたさ。」
刀を包んでいる布の紐をとく矢子。そして何かの気配を感じ取り、ゆっくり空を見上げる。
「コウモリ、来ます!」
その声を合図に上空を見上げると、体の三倍近く長い針のような尻尾を持った無数のコウモリが
不気味に空から迫ってきていた。




