第十話<早まる出現>-6
「んぁ?今日は魚か?」
扉を開けて甲子郎が玄関に入ってくる。
「とりあえず、ドアベルくらいは鳴らしてくださいよ・・・。」
「別にいいじゃねえか。」
メザシを焼いている琴和を横目に、ズカズカと甲子郎が家に上がる。
琴和の家は、玄関のそばに3畳程の台所が隣接しており、
その先に8畳の部屋と6畳の部屋が隣り合っている。
部屋は全て畳が敷いており、皆は8畳の部屋で食事をしたりくつろいだりしている。
「何だ?今日は琴和が食事当番か?」
すると膨れ面になる蘭子。
「私の顔に傷を付けようとしたんですよ。だからメザシを焼いてもらってます。」
「・・・メザシだと?」
急に青ざめる甲子郎。その様子は尋常ではなかった。
「メザシ・・・なのか?メザシがあるのか!?」
台所に駆け寄る甲子郎、すると琴和の手元には
皿に載ったメザシがあった。
「ああああああ!」
恐れおののく甲子郎。その様子に一同は驚く。
「あの、メザシがどうかしたんですか?」
琴和が恐る恐る聞くと、甲子郎は頭をかく。
「俺はな、メザシが苦手なんだ・・・。」
「え?」
「いや、味とかは大丈夫なんだが、どうも見た目がな。
あれ、目をぶっ刺しているだろう。あれがどうも駄目で・・・。」
その発言に全員唖然とする。
「そんな、怪物相手に銃を撃っている人の発言ですか?」
蘭子が思わず言うと、甲子郎は何も言えず頭を再びかく。
「そうだったんですか、ちょっと予想外だったな。」
困った様子の琴和を見ると、甲子郎は畳の上に座る。
「いや、言っていなかった俺が悪い。気にするな。」
「はあ、でも実は今日、早間さんに会った時夕食にメザシを出せって言われたんですよね・・・。」
「なんだとぉ!!」
威勢よく立ち上がり叫ぶ甲子郎。
「ま、まあ落ち着いてください。」
慌てて櫻子が制止すると、不機嫌そうに座る甲子郎。
「くそ!覚えていやがれ!」
右腿をバシッっと叩く甲子郎。すると矢子は琴和に目を合わせる。
「早間さんに会ったんですか?」
「うん、昼食を取っていたら見かけられてね。矢子ちゃんの知り合いなんだって?」
すると首をコクコクと振る矢子。
「そうだ甲子郎さん、あともう一つ出せって言われた物があるんですけど・・・。」
蘭子が恐る恐る尋ねる。
「何だ?」
「・・・プリンなんですけどこれも駄目ですか?」
そう言うと、一瞬固まる甲子郎。その時だった。
「え、プリンもあるんですか?」
矢子が蘭子に質問をする。
「え?うん、冷蔵庫に冷やしているよ。」
「そうなんですか。」
嬉しそうな表情に変わる矢子。
「ひょっとして矢子ちゃん、プリンが好きなの?」
「はい。」
「なるほど、早間さんは甲子郎さんの嫌いなものと矢子ちゃんの好きなものを教えてくれたわけか。」
琴和は納得をすると、手に持っているメザシの皿をとりあえずテーブルの上に置く。
そして茶碗を取りに戻った時、甲子郎が驚いた目で矢子を見ていることに気が付く。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない。今日は湯豆腐か、冷える時期だから丁度良いな。」
そう言うと、珍しく配膳の手伝いをする甲子郎。
「熱くて重いだろ?座っていろ。」と矢子と蘭子を先に座らせると、湯豆腐の鍋を運んでいった。




