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第一話<見えない櫻>-8

「すみません、こんな遅くまで・・・。」

時間は22時を回っていた。

今は広い公園の通りを二人は歩いて、一人は浮いている。

『本当に浮いている・・・』

琴和は、ますます目の前の異様な光景に

疑心を捨てざるをえないと感じ始めていた。

今、なぜ三人でここにいるかというと、

時間も遅くなったので、琴和は蘭子を家まで送ることにしていた。

この道は近道だそうだ。


ハンバーグの一件があった後は

特に新しい発見もなく、ただ、たわいのない話を

していただけだった。

だが、蘭子は今まで秘密を溜め込んでいたせいか、

それを吐き出せたようで、満足そうだった。

琴和はそれを悟り、話し相手としてこの時間になるまで

付き合っていた。


「あ、ここまできたらもう家が直ぐなんです。

本当に有難うございました。」

丁寧にお礼を言う蘭子。

「いえいえ。」

軽く流す琴和。正直なところ、彼は不思議な事の連続で

疲れていた。


「そうだ、もしよければ電話番号教えてもらえませんか?」

蘭子がそう切り出す。おそらく話を聞いてくれた事が本当に嬉しかったのだろう。

そして、やはり心細かったのかもしれない。

「ええ、相談だったらいつでも乗りますよ。」

快く受ける琴和。彼自身もこの幽霊がどうなるのかが

気になり始めていた。


お互いの番号とメールアドレスを交換する二人。

「あ、赤外線通信できますか?」

「ええ、赤外線って便利ですよね。番号もアドレスも一気に伝えられますし。」

レストランでも後半、このようなたわいのない会話ばかりだった。


「それじゃあ僕はこれで、何かあったら連絡ください。

早く何か話してくれるといいですね。」

「はい。」

笑顔で蘭子が返事をすると、

琴和はその場を去ろうとした。


「あ、本当に今日は有難うございました。」

お辞儀をして別れを告げる蘭子。


「バイバイ。」

小さく手をふって別れを告げる幽霊。

 ・

 ・

 ・

「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


琴和と蘭子が一語一句違わずに幽霊に向かって叫ぶ。


「今喋った!?今バイバイっていったぞ!!」

慌てて幽霊を指差しながら現状を口に出す琴和。


「ちょっと、アナタ話せるの!?何で今まで話しかけても何も言わなかったのよ!!」

驚きながら半分キレタ口調で攻め立てる蘭子。

その二人を見て、幽霊は驚いた様子だったが、うつむいて

急に静かになった。その影響か

周囲が一気に静寂と重い空気に包まれる。


『ヤバイ・・・』

今の勢いが何処かに消えた二人の脳裏にその三文字が浮かび上がる。

これからどのようなことが起こるのか不安を通り越して

恐怖すら感じた。

 ・

 ・

 ・

「今まで話をしても聞いてくれなかったのは蘭子ちゃんの方でしょー!!」

幽霊が半べそで蘭子に迫ってくる。

言葉でそう表現すると、怖いイメージがあるが、

幽霊のその行動に関しては

恐怖心は微塵も感じず、むしろ友達同士のじゃれ合いに近いものがあった。


「え?聞いてくれなかったって?え?ええ?」

蘭子は特に逃げる様子もなく、幽霊の言葉の意味が理解できないといった様子だった。

「・・・とりあえず、落ち着きましょう・・・。」

そう言って二人の間に入る琴和。

彼はその時、目の前の不思議空間の中、よく平気でいられるなと

自分自身に感心していた。

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