第一話<見えない櫻>-7
「えっと、何から話せばいいかな・・・。」
彼女は少し慌てながら考え始めた。
その様子を見ると、こちらから聞きたい事を聞いた方が
話が進みやすいようにも思えた。
そこで冷静なそぶりで琴和は返答する。
「僕は小田原 琴和です。キミは?」
「あ、そうですよね、自己紹介しなきゃ。
私、楠木 蘭子といいます。」
「じゃあ楠木さん、とりあえず質問していいかな?」
「はい?」
「この人、誰?」
いきなり核心を突いた、無駄のない質問をしたと
琴和は、言った後思った。
それに笑顔で答える蘭子
「多分幽霊です。」
・・・笑顔で答えるな、笑顔で!
琴和は引きつりながら心で叫ぶ。
確かに自分もそうじゃないかと思ったが
そんな急にあっち側の世界を信じることなど
誰ができようか?
ましてや、笑顔でスラりといえる内容ではない。
「・・・何で幽霊だと思うんです?」
手で口を押さえながら琴和が幽霊説のある女性を見ながら
蘭子に問いかける。
「だって、他の人が見えなくって、空飛ぶから・・・。」
「そらぁ!?」
「・・・声でかいです。」
いきなり新しい異常な情報が入ってきたことに
思わず声を上げる琴和。
今度は蘭子の方が冷静だった。
「今は座っているので判らないと思いますけど、
この人移動するときは地面から20センチくらい上を滑るように飛んでいるんですよ。」
なんだそりゃ・・・
にわか信じがたい発言に戸惑いながらも、琴和はこう考えた。
『仮に飛んだとしたら、それっこそ幽霊だよな・・・』
「じゃ、じゃあ仮に幽霊として、何で彼女はここにいるんです?」
とりあえず自分を落ち着かせるために話題を変えようと考えたのか
違う質問をする琴和。
それにまた笑顔で答える蘭子。
「あ、私取り憑かれちゃったようなんですよー。」
何で笑顔なんだよ!!
心の中で物凄い速度と大きさの突込みが入る。
その突っ込みに気づくはずもなく、蘭子は話を続けた。
「えっとですね、忘れもしません二ヶ月ほど前の12/16のことです。
そうだ、この日にここらへんで大きな事件があったんですけど知っていますか?」
「ここらへんで?あの変死体のことです?」
ここ最近、この地区では殺人事件が起こっていた。
被害者は20代半ばの女性。
昼頃に公園の茂みの中から発見されたらしい。
被害者の体には多くの傷があり、犯人は未だ逃走中。
琴和の知っている情報はその程度だった。
「実はですね、私、偶然にもその現場見ちゃったんですよ。警察の人が
遺体と思われるものを車に乗せているところを。」
蘭子はまじめな顔でそう言った。
「すると・・・まさかこの女性は被害者の!?」
そう琴和が驚いたように問いかけると、蘭子はゆっくり琴和を見た。
「いえ、まったく関係ないようですよ。」
ずでーん
琴和は、目の前のテーブルに覆いかぶさるように上半身だけずっこけた。
『ああ、人間ってコントみたいに、こけられるんだ』
ある意味琴和は感動していた。
「じゃ、じゃあその事件は何が関係が?」
立ち直り質問をする琴和。
「あ、いえ、日にちのインパクトが強くなるかなって・・・。」
ちょっと慌てて返答する蘭子。その様子から、どうやら深い意味はないようだ。
「私、あの日はその事件現場を見てから、家に帰っていたんですね。
時間は16時くらいでした。
帰り道の途中に川沿いの道があるんですよ。そこを歩いていると
その人に出会ったんです。
自分の左前方から急に現れたので、
最初は河川敷から急に上がってきた人かと思ったんですよ。
でもさっき小田原さんが言ったとおり何か違和感があったんですね。
そして良く見ると足はあるけど、浮いているじゃないですか。」
蘭子はそう話すと黒服の女性を見た。そして再び口を開く。
「その時私、思いました。これはヤバイって。
だから走って逃げたんです。・・・でも憑いてきちゃって・・・。」
「それで今に至るってことです?」
「はい。」
琴和の問いに蘭子は一言で答える。
「あの、霊のことって詳しくはないんだけど、よく除霊って言うじゃないですか。
お寺とかでそういうのはやられたんです?」
琴和が引き続き質問すると蘭子は
「ええ、実はそれからもいろいろとあるんですよ。
本音を言うと、除霊も考えたんですね。
でもさっきも言ったとおり、不思議と恐怖心がなかったんですよ。
どうしても悪い霊って思えなかったんです。
そこで話しかけることにしたんです。何で憑いてきたのって。
その他にも色々とコミュニケーションを取ろうとしたんですけど
結局何も教えてくれませんでした。
でも、そうこうしているうちに、こう思えてくるようになったんです。
『きっとこの人も理由があって私に憑いてきたのだから
何も判らずに、何もしてあげられずに除霊するのは、かわいそうじゃないかって。』
それに特に悪いことも起こらないし、しばらく憑かれていてもいいかなと思ったんですよ。
今は何も教えてくれないけど、いずれ何か教えてくれるんじゃないかと思っています。」
優しさを感じる口調で蘭子は答えた。それで平気なのだろうかと
琴和は思いつつも次の質問に切り出した。
「じゃあ、今分かっている事は何もないんです?」
「そうですね・・・そうだ、この人と付き合うようになってから
心霊現象の本見るようにしたんですよ。
そうしたら霊は水が好きって書いてあったんですよ。
そこでお供えしたら、喜んでくれました。
どうやら水が好きなようです。」
その言葉を聞くと、さっきのウェイトレスが水を下げた場面を
思い出した。あの表情は忘れられない・・・。
「ああ、そんな感じはする・・・。」
あの表情を思い出したせいか、初対面なので気をつけていた
口調も思わず普段のものになる。
「ええ、だから水は頻繁に用意しています。今はそれだけですね。」
「ふぅ、分かっている事がそれだけだったら、見えている人を捕まえるのは
当然かもしれませんね。」
「あぅ、すみません。」
ここまでの話が全部本当であれば、それなりに納得がいくと
琴和は思っていた。しかし、目の前に幽霊とされている人がいることは
流石にすんなりとは受け入れられない事実ではあるが・・・。
「お待たせしました、ハンバーグステーキになります。」
絶対に店の体制に不満があると思われるウェイトレスが
注文の品を持ってきた。
こんな常識を逸脱した事が目の前で起こっているのにも拘らず、
普通に食事が出来る自分の神経に少し呆れながらも、
美味しそうに見えた。
「すみませんがいただきますね。」
「あ、はいどうぞ。」
蘭子が笑顔で答える。それを確認し、
ナイフを皿に近づけたときである、琴和は物凄い視線に気が付いた。
「うぉ!!」
思わず声を上げる琴和。
その視線は目の前の黒服の女性からだった。
その表情は何と表現して良いか判らないが、言葉にするとおそらくこうだ。
「ハンバーグ美味しそう・・・。」
未だかつて、これ程まで食べ物を食べたそうな顔は見たことがない。
そのくらいの表情だった。
「ちょ・・・ちょっとこれって・・・?」
「え?え?私も今まで食べ物に対してこんなに反応した様子見たことないですよ。」
その様子に蘭子も戸惑っているようだった。
そこで琴和は備え付けのドリンクバーからガラいれ用の皿を持ってきて
ハンバーグの一部を切って皿に盛り付け幽霊さんの前にお供えをした。
すると幽霊の表情はパァっと明るくなり。
始終笑顔になった。
「楠木さん、これは・・・?」
「どうやら新しい発見のようですね・・・。」
新発見に戸惑う二人をよそに、幽霊は上機嫌になっていた。




