第一話<見えない櫻>-6
「ふぅ・・・」
ため息をつく娘。ようやく落ち着いたという雰囲気だった。
「あ、あの・・・。」
その様子を見て琴和は話しかける。ただ、何を言っていいかは
まだ頭に思い浮かんではいなかった。
「・・・ごめんなさい。」
チラリと琴和を見た後うつむき、白い服の娘はそうつぶやいた。
さっきまでの慌ただしさはそこには無く、ちょっとした
沈黙が訪れそうな空気さえあった。
その姿を見て、琴和はとりあえず声を出してみることにした。
「えっと、今この目の前の女性が他の人は見えないようなこと言ってたけど・・・。」
そう聞くと娘は再び琴和の方を見る。
「さっき、ウェイトレスさんの様子見ていただけましたか?
その人の目の前にあるお水を下げようとしてましたよね?」
「本当に見えていない証拠・・・とでも言いたいの?」
琴和が問いにそう答えると、娘は静かに首を縦に振った。
ほんの少しの間であったが長く感じる沈黙が流れた。
それを破るように琴和は口を開く。
「正直なところ、目の前の人のことを後ろから見たとき
何か判んないけど違和感・・・感じたんですよね。」
意味が解らないことを言っていることが
自分でも理解できないという思いからか、
言葉を途中で詰まらせながらの話しかけだった。
「・・・分かります、それ。私も最初そんな感じでしたから。」
娘はうつむきながらそう答えた。さらに
「それでいて、不思議と恐怖感は無いんですよね。」
とつぶやいた。
その返答を聞くと、琴和は『そう言われるとそうだな・・・』と気付き
黙ってうなずいた。
また沈黙が流れる。その間に琴和は目の前の女性を見ることにした。
彼女は不思議そうな顔でこちらを見ている。
一見したら普通の女性なのだが、明らかに何か違う。
何度見てもそう感じるしかなかった。
しかしこの姿は自分と隣の娘以外は見えていないという。
実際にウェイトレスの反応はそれを証拠付けているようなものだった。
『・・・幽霊?』
ふとその言葉が頭をよぎる。すると体中に鳥肌が立った。
しかし、実際に幽霊などいるわけはない、馬鹿らしい。
でも幽霊だったら説明がつくのでは?
いや、そもそも幽霊ってなんだ?
頭に様々なことが浮かび始めてきた。しかし、動揺も大きくなってくる。
気がつくと琴和は膝に手を当て、考え込むように下を向いていた。
すると隣の娘が話を切り出す。
「ごめんなさい、何か変なことに巻き込んじゃった感じですよね・・・。」
申し訳なさそうな口調だった。
その言葉を聞き、ゆっくりと琴和は娘を見た。
引き続き娘は話をする。
「今まで誰も見えなかった中、見ることが出来る人に会えて、
驚いちゃって・・・何も考えずに急に引っ張り込んじゃって・・・。」
『どうやら彼女は反射的に自分を捕まえたらしいな。
先ほどの慌てぶりはそのためか・・・。』
「・・・それで、とりあえず何か話しをしないといけないって何故か思っちゃったんですよ・・・。」
少しの時間差で彼女はうつむきながらそう言った。
確かに今まで自分しか見えてなかったものを
見ることが出来る人に出会えば、何かしら話したくなるかもしれない。
琴和は彼女の口調からそう感じ取った。
「失礼いたします、ホットコーヒーお待たせしました。」
そうこうしている間に先ほど注文した(された)ホットコーヒーがきた。
ウェイトレスは手際よく二人の前にコーヒーを配ると
忙しそうにその場を去ろうとした。
「それではごゆっくりどうぞ。」
「あ、ちょっと待って。ハンバーグとライスのセットを追加でお願いします。」
お辞儀をしてウェイトレスが帰ろうとするとき
琴和は注文をした。それに快く答えるウェイトレス。
忙しいながらもしっかりとした対応だった。
社員教育は徹底しているらしい。
ウェイトレスが下がると、隣の娘は琴和を不思議そうに見ている。
その視線からくる疑問に答えるように琴和は答える。
「話をしたいんですよね?食事をしながらでもよければ
いくらでも付き合いますよ。それに気になってこのまま立ち去ることもできませんしね。」
その返答を聞くと、隣の娘は嬉しそうな表情を浮かべた。




