第七話<お武家様>-11
「お、ずいぶん大胆になったな。」
部屋に戻ると、着替えた矢子が正座をして
カーペットの上に座っていた。
服装が変わっただけで、雰囲気ががらりと変わっており、
甲子郎はからかうように話しかける。
「・・・そんな目で見ないでください。」
顔を赤らめながら、短いスカートを膝の方に伸ばすようにして矢子が反応をする。
「どう、似合っているでしょ?サイズも許容範囲だったし。」
「そうだね、似合ってるね。」
蘭子と琴和はそう会話をしながら、矢子のそばに座る。
「さて、何から話をするかな。」
矢子の目の前に甲子郎が座ると、早速話を始めようとする。
「まずは自己紹介からが妥当でしょうか?」
琴和が提案をすると、うなずく蘭子。
「そうだな。さっきも言ったが、俺は瀬戸 甲子郎。
禦の局員だ。」
「僕は小田原 琴和。禦とも村雲とも関係ないけど、
一応何度か怪物を倒しているよ。」
「楠木 蘭子よ。蘭子でいいわ。小田原さんと同じような立場かな?
ヨロシクね。」
立て続けに自己紹介をする三人。
それに釣られたようで、恥ずかしそうに矢子も口を開く。
「・・・桐島 矢子です。」
その様子を見ると蘭子は櫻子を指差して話しかける。
「あと、ここにいる人見えるかな?」
するとうなずく矢子。
「幽霊の方・・・ですよね?」
「あ、やっぱり見えた?そう、この人は櫻子さん。私に取り憑いているの。」
「・・・。」
少し固まる矢子。
「おいおい、普通そんなさわやかに取り憑かれているなんて言わないだろ。」
「あ、そうかも。」
甲子郎の突っ込みに納得をする蘭子。しかしあまり気にしていないようで、話を続ける。
「とにかく、悪い霊じゃないようだから、安心して。
えっとこうなった理由なんだけど・・・それは今度でいいかな。」
すると矢子は櫻子の方を見る。すると二人は目があった。
「よろしくね。」
にこやかに話しかける櫻子。
「よろしくお願いします。」
軽くお辞儀をする矢子。
「君も声まで聞こえるんだね。」
その様子を見て琴和が話しかけると、首を縦に振る矢子。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。」
甲子郎が真剣な眼差しで話を振る。しかしその時である。
「待って!矢子ちゃん、晩御飯食べた?」
.話をぶった切って質問をする蘭子。
それにたじろぎながらも答える矢子。
「いえ、何も。」
その答えを聞くと勢いよく反応する蘭子。
「ダメよ、ちゃんと食べないと!!」
「はあ・・。」
「待ってて、お茶を入れるついでに用意するから!」
そう言うと台所に向かう蘭子。
「あの、本当にいいですから。」
しかし、その声は彼女に届いていないようだった。
「蘭子ー話進めるよ?」
「うん、私の分も聞いといて。まあ、ここでも聞こえるだろうけど。」
琴和が蘭子に確認を取ると、
苦笑いをしながら頭をかく甲子郎。
「・・・まあお茶は必要だしな。
さて、何から聞こうかな。」
すると矢子は目を合わせてくる。
「私の事を素直に喋れば質問の量は減りますよね?」
「ああ、そうしてくれると助かるな。
あと、この二人は気にしなくていいぜ。むしろ今回の件において
お前同様に怪物を倒した当事者だ。ある程度の知識を得てもいいだろう。」
すると少し考える矢子。
「分かりました。お話します。
私は村雲の準局員で、
最近この付近に出現する魔物を退治していました。」
「近頃、刀の傷を残した怪物の死骸が発見されている。
それをやったのはお前だな?」
「はい。」
「何でやったんだ?」
「目の前に魔物が現れたので退治をしただけです。」
「何度も目の前に現れたのか?」
「初めはそうでした。でも二回目からは自ら探して退治をしました。」
「何で探してまで退治をした?」
「無実の人を襲うと思ったからです。」
「なるほど、でも誰にも言わずに一人でやっていたんだよな?
お前は村雲所属なんだ、一人でやるより組織でやった方が
効率が上がると思わなかったのか?」
「私は初めに言ったとおり準局員です。
完全に村雲の局員というわけではありません。
肩書きは準局員ですが、実際のところは、ほとんど村雲とは
関わり合いがないんです。
ですから村雲が何をしているのかとかの情報は入ってきませんし、
逆に私が何をして過ごしているのかという情報も伝わっていません。」
「なるほどね。要するに村雲とは関わりがあるが、あまり連絡を取り合っていないということか。」
「そう捉えていただいてかまいません。」
淡々と会話をする甲子郎と矢子。その中で琴和は付いていけない様子だった。
「あの、準局員って?」
琴和が申し訳なさそうに質問をすると、矢子は答える。
「私は、今15なんです。だから局員として働くには
年が足りないんですよ。
でも力が買われて今は準局員として所属しているんです。
それは村雲と『お知り合い』的な付き合いと考えてください。」
「そうなんだ、ところで今の話を聞くと村雲とはあまり関わり合いがないんだよね?
じゃあ何で準局員として一応の所属をしているの?」
「確かに村雲に籍を置く意味はあまり無いようにも思えるな。」
琴和の素朴な疑問に甲子郎も乗ってくる。すると矢子は琴和と目を合わす。
「実は叔母が村雲に勤めているんです。それが理由です。」
「え?そうなの?」
「はい。」
「じゃあ叔母さんも矢子ちゃんみたいに魔法を使ったりするわけ?」
後ろから蘭子が話しかけてくる。
手にはお盆を持ってきていてその上には紅茶が載っている。
「小田原さん、悪いけどテーブル出してくれる?」
「ああ、ちょっと待ってね。」
折りたたみ式のテーブルを矢子と甲子郎の間に置くと
蘭子はお盆ごとテーブルに紅茶を置いた。
「お、すまねえな。」
目の前に紅茶を出されるなり飲み始める甲子郎。
その様子をジッと見つめる矢子。
「はい、お砂糖は自分で入れてね。」
そっと矢子の目の前に紅茶を差し出すと、「ありがとうございます」と言って頭を下げる。
それを見るなり立ち上がる蘭子。
すると慌てたように矢子が話しかける。
「あ、えっと叔母は魔法は使いません。
戦う人じゃありませんから。」
「あれ?そうだったの?てっきり叔母さんも同じように強いのかと思った。」
「いえ、違います。叔母は村雲に研究員として所属しているだけです。」
「へぇ。何か難しいことやってそうだね。」
「はい。」
その会話を聞くと琴和はふとあることを思った。
「ねえ、一つ聞いていいかな?
君って何で魔法が使えるの?それに怪物と戦う術は何処で習ったの?
今の話を聞くと、別に叔母さんから習ったわけじゃないよね?」
するとティーカップに両手をあて、矢子が答える。
「実は私、数年前に交通事故に遭ったんです。
その時、九死に一生を得た事がきっかけで基礎的な魔法が使えるようになりました。」
「そんなことがあるの?」
すると甲子郎が腕を組み話しに割り込む。
「たまにいるな、事故がきっかけでそういう力に目覚める人間って。」
「そうなんですか。」
「はい、その後に叔母が村雲の施設へ私を連れて行ったんです。
そこでいくつかの訓練を受けて、今のような力を得ました。」
「そうだったんだ。」
「はい」
「さてと。」
キッチンに戻る蘭子。、
すると今度は皿にいっぱいのサンドウィッチを持ってきた。
「はい、お待たせー。」
「いっぱいあるな・・・。」
焦る琴和。
「今晩、小田原さんが来るって言うから作っておいたのよ。
よかった、少し作りすぎかなとは思っていたんだよね。皆で食べてね。」
元の位置に蘭子が座ると、小皿を全員に配り始めた。
「お、うまいな。」
早速食べ始める甲子郎。
「ほら、これなら手を痛めていても食べやすいでしょ。」
小皿にサンドウィッチを載せて矢子の前に差し出す蘭子。
「ありがとうございます。」
少し考えた後に口に入れる矢子。
すると黙々と食べ始める。
その様子を見て微笑む蘭子。
「ところで瀬戸さん、追っていたお武家様って矢子ちゃんで決定ですか?」
蘭子が尋ねるように聞く。
「ああ、この娘以外に刀傷を付ける人間は他にいないと考えていいだろう。
それに村雲からも説明があったしな。」
「説明ですか?」
するとサンドウィッチを小皿に置く甲子郎。
「書面だが今朝、急にお武家様は実は村雲の関係者だったという知らせが届いたんだ。
内容は信じがたかったのが本音だったがな。」
矢子を見る甲子郎。すると目が合う。
「まあ実際に見て、話を聞くと資料の内容と全く一緒だ。
疑う必要もないし、この娘がお武家様なんだろう。」
「じゃあ任務完了ですね。」
「そうだな、でも次から次へと任務は続くわけだが。」
再び食べ始める甲子郎。矢子も次のサンドウィッチに手を出す。
「やっぱりお腹が空いていたのね。」
櫻子がにこやかに矢子に話しかける。するとうつむいて顔を赤くする。
「いいのよ、いっぱい食べて。」
そう言うと窓の外を見る櫻子。すると何かを思いついたように話す。
「そうだ、もう時間も遅いしご両親の方に連絡をしないと。」
「いえ、その必要はありません。」
矢子が反応する。
「実は両親はもういないんです。事故に遭ったときに他界しました。
今は叔母と二人で住んでいますが、仕事が忙しくって
家には全然帰ってこないんです。今日も多分帰っていませんから。」
淡々と答える矢子。すると蘭子は矢子の顔を覗き込む。
「じゃあ今日は泊まっていく?明日の朝になったらまた包帯替えないといけないし。
朝ごはんだって用意するの大変でしょ?」
「いえ、大丈夫です。慣れていますから。」
静かに答える矢子。気丈な姿を見ると少し寂しい気分になった琴和。
「じゃあ今はいっぱい食べるんだ!」
矢子右肩をポンと叩くと、にこやかに話しかける。
その顔を見ると少し恥ずかしそうにするが、
言われたとおりに再び黙々と食べ始めた。
「本当にうまいサンドウィッチだな、これは。」
微笑しながら甲子郎がつぶやくと、「そうですね。」と琴和が後に続いた。




