第七話<お武家様>-12
「すみません、本当に。」
時刻は午前1時を過ぎていた。
食事を済ませた後、蘭子の家を出た三人は帰路についており、
甲子郎は念のために琴和と矢子を送ることにしていた。
「いや、遠慮するな。本当はタクシー呼べばいいんだが
まあ食後の運動もいいだろう。」
「そうですね。ところで矢子ちゃんの家って何処なの?」
「あっちの方角です。」
家の方角を指差す矢子。
「あ、僕と一緒だね。」
「そりゃ手間が省けていいな。」
「そうですね。」
その後、三人は10分ほどたまに会話を交えながら
歩いていった。
会話の内容は、特に難しい話もなく聞き流せる程度のものばかりだった。
結局は甲子郎と琴和のやり取りが多くなっていたが、
それでも沈黙のまま歩くよりはましだった。
「着きました。」
矢子が緑色で三階建住宅の前に立ち止まる。
「ここか。」
「はい。」
甲子郎が聞くと、簡単に答える矢子。
「え?本当に?」
その横で驚く琴和。
「・・・何かずいぶんと近くないか、これは?」
甲子郎も少し驚いたようで、後ろを振り返る。
そして見上げた視線にはアパートの二階の部屋が写る。
「僕の部屋って、ここから見えるあの部屋なんだよね。」
自分の部屋を指差す琴和。
「近いんですね。」
矢子が部屋を見上げながら言う。
すると琴和がひらめいたように提案をする。
「よし、じゃあ矢子ちゃん。これからは困ったことがあったら
いつでも訪ねてきてね。歓迎するよ。」
すると少し驚いた後、うつむき答える。
「はい。」
「よし、じゃあお前たち、早く帰って寝ろ。俺も眠い。」
あくびをする甲子郎。
「はい、じゃあおやすみなさい。」
挨拶をした後手を振る琴和。
すると矢子は深くお辞儀をした後に、家の中へ走っていった。
その様子を確認すると、琴和は甲子郎にお礼を言ってから帰宅をする。
「報告書、面倒くさいな・・・。」
二人の影が見えなくなった後、そうつぶやき去っていく甲子郎であった。
<第七話 お武家様 -終->




