第七話<お武家様>-8
「・・・何これ。」
公園に着くと、辺りにはバラバラになったコウモリの死骸が
散らばっていた。
その数はかなり多く、昨日自分たちがやった数の倍近くあった。
「すごいな・・・これは。」
息を飲む琴和。その惨状に思わず絶句してしまう。
「やっぱり、禦の人でしょうか?」
「ええ、櫻子さんの言う通りかもしれません。
こんなに怪物を倒せる一般人って普通いませんから。」
「どうする?」
蘭子が聞いてくると、琴和は目を合わす。
「そうだね、心配なさそうな雰囲気はするよね。」
「戻りませんか?」
櫻子が不安そうに提案をする。
確かにこの様子だと、確実に自分たちより強い人間が
怪物と戦っていることが判断できる。
下手をすれば自分たちの方が危険なのではないかとも
思えてきた。
「戻りましょうか。」
落ち着いた口調で提案をする琴和。
しかし、その時である。
「待て!!」
前方の茂みに覆われた広場から女性の声がした。
目を合わせる三人。
「何だろう!?」
「ひょっとして昨日の女の子?」
櫻子の発言で、一瞬旭のことを思い出す琴和。
「いえ、昨日の子はもっと違う声でした。」
「行ってみよう!」
走り出す蘭子。それを追うようにして全員その方向へ向かう。
夜とはいえ、公園の電灯が強く輝いており
そこまで視界は悪くなかった。
おそらく、蘭子の部屋からコウモリが見えたのもそのせいだろう。
しかし、初めてこの場所で犬の怪物と出合った時は
ここまで明るいとは感じなかった。
そう考えているうちに
茂みを迂回し広場に出る三人。
すると、そこには芝生の上に座り込む少女の姿があった。
年は十四、五歳くらいだろうか、黒く長い髪をまっすぐ下ろしており、
左手を押さえて座っている。
「アナタ、そこで何をしているの?」
蘭子が近づきながら質問をすると、少女はこちらを向く。
すると、物凄く驚いた表情に変わる。
「あれ?君、何処かで・・・。」
その表情を見て、琴和は以前その少女と会ったような気がしてきた。
「知り合い?」
「いや、でもどこかで見覚えがあるんだよね・・・。」
そう言うと、少女は立ち上がり手元にある棒状の物を持って
立ち去ろうとする。
「待って!」
少女の左手を掴む蘭子。
「痛!!」
叫ぶ少女。それにびっくりして手を離した蘭子だった。
その時、琴和は彼女の右手には短い日本刀があることに気が付く。
『日本刀?・・・まさか。』
一方蘭子は、掴んだ手から何か濡れた感触がし、恐る恐る自分の手を見つめる。
「アナタ・・・怪我をしているの?」
蘭子の手には少女の血と思われるようなものが付いていた。
そう聞かれると再び立ち去ろうとする少女。
しかし蘭子は右手をすかさず掴む。
「ちょっと、何処行くの!?手当てしないと駄目よ!」
「大丈夫ですから、離してください!」
少女が始めて口を開く。しかし聞こうとしない蘭子。
「安心して、私たちは敵じゃないから!それより酷い出血じゃない!
急いで手当てしないと駄目でしょ!」
強く出る蘭子に少したじろぐ少女。
その時である。
「小田原さん!」
櫻子が琴和の後方を見て叫ぶ。
すると鹿のような角を生やした猪のようなものが突進をしてきた。
「まずい!」
振り返り際に琴和が言葉を放つ。
それと同時に少女は蘭子の横から体を突き出し、左手を怪物に向ける。
「心波!!」
少女がそう叫ぶと、左手から青い閃光が
琴和の横を通って怪物に目掛けて飛んでいく。
閃光が通った付近には風圧がかかり琴和はよろけ、
閃光が命中した怪物は吹き飛ばされた後、動かなくなった。
「何・・・なの?」
「・・・・・。」
呆然とする蘭子。言葉を失う櫻子。
「ぅう・・・。」
そのそばで少女は左手を掴んでしゃがみこんでしまった。
どうやら今の衝撃が傷に障ったらしい。
少女の横で膝を着いた蘭子は
怪我の具合が悪いことに気がつく。
「小田原さん、この子を家まで運んで!」
「分かった、まかせて。」
「待って、まだ何かいます!」
少女に近づこうとする琴和を制止する櫻子。
その声を聞き、辺りを見渡すと先ほど突進してきた
同じタイプの猪が更に一頭姿を現す。
「さっきより・・・大きくないですか?」
自分の目で見ても、その大きさは
確かに先ほどの猪より一回り大きいように見える。
猪を見ると少女は刀を杖代わりにして立ち上がろうとするが
蘭子に止められる。
「駄目よ、無理しないで。」
すると少女は立ち上がれずに、また膝をつく。
その様子を見ると、琴和はナイフを取り出し、身構える。
「こっちに引き付けないと・・・。」
そうつぶやくと琴和は猪に向かって走りだした。
琴和が猪の目の前まで近づくと、猪は角を振りかざしてくる。
それに反応して横に飛んで回避すると、
猪は突進をしてくる。
「くそ!」
流石に体勢が崩れていたので、突進は回避不能だった。
そこで琴和は猪の頭を突くように蹴りつける。
助走が少なかったせいか驚くほどの力はなく、
互いに少し怯む程度で済んだ。
「小田原さん!!」
櫻子が心配そうに寄ってくる。
「少し左足がジンジンしますけど、平気です。」
そう言うと、猪は姿勢を戻して再び琴和を睨みつける。
「うおおお!」
琴和は右足で猪のアゴ下を蹴り上げようとすると、突進を仕掛けてくる。
すると、足は一応猪に当るものの、勢いで転ばされてしまった。
一方猪は怯むことなく、その場に立っている。
猪と視線が合うと、危機を感じた琴和はすかさず立ち上がり距離をとる。
『どうする!?』
このままでは危険と思い、何か使えるものがないか
周囲を見渡す琴和。すると、後方にそびえ立つ大木に気が付く。
「やってみるか・・・。」
ゆっくりと三歩後退する琴和。そして背中にトンと木がぶつかる事を確認する。
「かかってこい!!」
威勢よく猪に向かって挑発をすると、それに乗るように
突進をしてきた。
「小田原さん!!」
櫻子が叫ぶと、それを合図にしたかのように
琴和は横へ飛び出した。
すると猪は後方の木に勢いよくぶつかり、よろめいてしまう。
「うあああああ!」
その隙にナイフを突き立てる琴和。
すると猪は奇声を上げながら反対側に倒れ、暴れ始める。
琴和は巻き込まれないように離れる。
「やったの?」
蘭子が少しはなれた少女の位置から様子を窺う。
「ダメ・・・あれじゃ倒せない。」
少女がそう言うと、猪はもがき苦しむ動作が減り、再び立ち上がろうとした。
「やっぱりナイフじゃだめか・・・。」
猪は出血が多くよろめいてはいるが、
まだまだ闘争本能が消えていない様子だった。
「逃げませんか?今なら怪我のせいで動きも遅いはずです。」
櫻子が傍で提案をする。
「・・・そうですね。ですがこっちも一人手負いがいます。逃げ切れるかどうか。
ただ、コウモリがいつ襲ってくるか分からないので、確かに逃げたいですね。」
すると櫻子は周囲を見渡した。
「・・・あれ?」
驚いた表情に変わる櫻子。
「どうしたんですか?」
「コウモリが・・・いません。」
「え?」
同様に琴和も周囲を見渡す。すると確かにコウモリの姿は消えていた。
「どういうことだ・・・でもチャンスだ。」
すると琴和は蘭子の方に向かって声を上げる。
「今からアイツの足を狙って動きを遅くする。
そうしたら逃げよう!」
うなずいて合図をする蘭子。
「立てる?今の作戦でいくからね。」
少女に問いかけると、少し戸惑いながらもうなずく。
身構える琴和、猪の隙を窺いながら少しずつ近づく。
その時である。上空から何かが琴和の前方に降りてきた。
「声が聞こえたぜ。中々いい作戦だ。賢明だな。」
「瀬戸さん!?」
突如目の前に現れた甲子郎。
どうやって空から降ってきたのかはよく分からなかったが
頼もしい助っ人が来たという安心感から、どうでもいい疑問であった。
「怪我はあるか?」
「いえ、僕も蘭子も平気です。ただ、女の子が一人怪我をしているようです。
僕たちより先に怪物と戦っていたようで・・・。」
そう言うと横目で少女を見る甲子郎。
「おいおい、偶然にも程があるだろ。」
「え?」
「いや、何でもない。敵はアイツだけか?」
「はい。」
「そうか。」
そう言うと、銃を猪に向けて発砲する甲子郎。
すると昨日と同様に怪物はあっけなく倒れる。
「やっぱり銃って強いですね。」
「そりゃそうだな。」
懐に銃をしまう甲子郎。そして少女に歩いて近寄る。
それを見て、琴和もナイフをしまって走り寄って行った。




