第七話<お武家様>-5
時間は20時を回り、琴和は蘭子の家を訪れていた。
お土産に、途中でたこ焼きを買っていくと
櫻子はとても喜んでくれた。
どうやら彼女は食欲旺盛な幽霊らしい。
その様子を見て、お皿に分け始める蘭子。
そしてお茶も用意し始める。
「ごめんね、夜遅くに。」
「うん、何で今日は遅いの?」
支度をしている蘭子に話しかけると
もっともな質問を返してくる。
「昨日瀬戸さんが22時が危ないようなこと
言っていたから。もし、その時間に部屋に侵入してきたら
危ないかなって思ってさ。」
「なるほど。」
その言葉を聴くと、お茶を目の前に差し出しながら
納得をする蘭子。
櫻子の目の前には、先日買ってあげたティーカップにお茶を入れて供えられた。
「ティーカップにお茶って変かもしれませんね。」
「そんなことないですよ。」
櫻子がにこやかに答えると、蘭子は申し訳なさそうに続く。
「ごめんね小田原さん。わざわざ買ってもらって。
それに、昨日といい今日も防犯グッズ買ってきてもらって・・・。」
「ああ、それ買ったの昨日だよ。家に置いていただけ。
とりあえず気にしないで、こっちも楽しんでやっていることだから。」
「楽しいの?」
「不謹慎かもしれないけどね。」
すると少し笑う蘭子。
「ちょっと判るかも。正直なところ昨日の瀬戸さんの話を聞いたら
少しドキドキしちゃったしね。」
「いきなり魔法って言われてもね。ピンとこないよ。」
「でも実際にはあるんでしょ?昨夜も全然寒くなかったし。」
「蘭子はあの話を信じているの?」
「うん、最近は何でもありになってきたかな・・・。」
そうつぶやくと櫻子の方を見る。
「そのタイミングでコッチ見ないでよ・・・。」
嫌そうな顔をする櫻子。
それにかまわず話は続く。
「櫻子さんは魔法の存在とか知っていましたか?」
琴和が尋ねると櫻子は首を横に振る。
「いえ、知りませんでした。幽霊だからといっても、
元々は私も一般人だったんですよ。
知識は本当にないんです。」
「まあ、そうだろうねぇ。」
うなずく蘭子。そして話を続ける。
「でも瀬戸さんに会えて良かったかもしれないね。
22時が危険って事を教えてもらったし。」
その言葉を聞くと、旭の事を思い出した琴和。
彼女の言う事だと怪物は22時の間が活動時間であり、
屋内にいれば平気。または一般人と一緒であれば
平気ということだった。
今は蘭子の部屋なので、話が本当ならば怪物は襲ってこない。
そうあって欲しいと思うのだが、少し複雑な心境だった。
もし今日、そして今後22時の間に屋内で襲われなければ
旭の話したことは本当だったことになる。
それは、『一般人』は襲わないというルールも本当ということにも繋がる。
そうなると、今まで襲われていたことから
自分たちは一般人ではない、普通ではない人ということを
突きつけられるようなものだ。
薄々と自分の異常な部分に気づいてはいるのだが、
実際に確信になることは少し怖く感じた。
「どうしたんですか?小田原さん。」
少し考え込んでいると、櫻子が話しかけてくる。
「あ、いえ何でもないです。
それより今後はさ、22時の間は出歩くの辞めよう。
もし外出していても建物の中に絶対いること。
それじゃなければ、誰かしらと一緒にいる。こうしよう。」
旭と誰にも言わない約束をしたが、
蘭子もまた同じ立場だと思い、
いかにももっともらしい提案のようにして
重要な部分を伝える琴和。
内容的にも納得がいくのでうなずく蘭子と櫻子。
その様子を見て、とりあえずの安心を感じた琴和は、
テレビをつけ始める。
「ごめん、ちょっとニュースつけていいかな?
今日何が起こったか見ていないんだ。」
「普通、テレビを点ける前に聞くものでしょ。」
蘭子が突っ込むと、少しにやけてしまった。
「どうぞどうぞ」
そう言って、そばに寄ってくる櫻子。
彼女もテレビに興味があるようだった。
二人の様子を見ると、蘭子は食べ終わったたこ焼きを
片付け始める。そこには穏やかな空気が流れていた。




