第七話<お武家様>-4
「そうだったんですか、ごめんなさい!」
急に立ち上がり、少し大きな声で謝りだす旭。
喫茶店に入って、コーヒーとオレンジジュースを注文すると
琴和は、まず本当に自分は禦でも村雲でもないことを知ってもらうために
今までの事を話し始めた。
また、ひょっとしたら自分の謎を知っているのではないかという
期待を込めての説明だった。
話を終えると、旭は琴和の説明を
信じたらしく、今まで危害を加えていたことを
謝り始めた。回りにも聞こえる声だったので、
思わず落ち着いてと琴和はなだめる。
すると周りを見て、ゆっくり座る旭。
落ち着くために、目の前のオレンジジュースを口に運ぶと
琴和は話しかけた。
「じゃあ、そろそろ教えて欲しいことを聞いてもいいかな?」
すると、ジュースをテーブルに置く旭。
「うん、でも言えない事が多いけどね。」
「いいよ、少しでも今は知りたいんだ。
何で僕たちを襲うんだい?」
単刀直入に聞く琴和。
すると、旭は困った顔をする。
「襲うつもりは無かった。むしろ
一般人を襲っているなんて知らなかったし、
そんなはずじゃなかったの。」
「どういうこと?」
「詳しくは言えないけど、これだけは信じて、
一般人は巻き込まないのが私たちのやり方なの。
そして、今回も巻き込まないように細心の注意はしているの。」
必死に訴える旭を見ると、琴和は詳しくは聞けなくなった。
「そう、分かった。じゃあ、何かの手違いなのかな?」
「多分そう、一般人は襲わないようにしているはずだから・・・。」
「そうなの?」
うつむく旭。
「ごめんなさい、これ以上は・・・。」
「うん、無理しないで。君たちの世界って
結構、難しいようだからね。」
笑顔で答えると、旭はうつむきながら考えるように話す。
「何で一般人と認識しない手違いが起きたのだろう。」
「それが分からないと・・・防ぎようもないね。」
困ったようにつぶやくと、旭は顔を上げて琴和に目を合わす。
「お願い、誰にも言わないで。あの銀髪の人にも。」
念を押されると、うなずく琴和。
「22時の間は出歩かないで。
その時間だけが活動時間だから。
そしてその時間は一般人のそばにいて。
一般人は襲わないどころか、近づかないようにしているの。
人混みにいれば、まず平気。
家の中でもいい。
人の出入りが無くなった廃屋とかじゃだめだけど、
屋内に侵入もしないようにしているの。
一般人の生活感がある場所なら安全だから。」
「そう・・・だったの?」
「お願い、本当に言わないで。もし禦や村雲に知れたりしたら私は・・・。」
必死で訴える旭。それを見ると少し可愛そうになってきた。
「うん、約束する。でも何でそんな大事なことを僕に?」
「一般人は、巻き込みたくないから。」
その言葉を聞くと、琴和は一つのことを理解した。
『カザーバは悪い集団ではない』
そう思っていると、旭は更に話を続ける。
「私ね、大好きだった先生がいたの。
国語教師でね、凄く優しくって大事にしてくれた。
その人に、あなたが似ていてね。」
「そうだったの?」
「体格もそうだし、声もそう。
さっきいきなり挨拶したよね?
あの時、本当に先生だと思って驚いた。」
「・・・だからあんなに驚いたんだね?」
軽く首を縦に振る旭。
「それだけじゃない、名前を聞いた時は心臓が止まるかと思った。
先生も「小田原 琴和」っていう名前だから。」
「えええええ?」
思わず声を上げる琴和。それを見て旭はニコっとする。
「びっくりするでしょ?
本当はここに来るつもりは無かったけど、
名前を聞いたら、どうしても断れなくって。」
「そうだったんだ。ひょっとしたら顔までそっくりだったりしてね。」
笑いながら答えると、旭は笑顔で返す。
「ううん、先生の方が断然カッコイイ!」
「ははは・・・。でも会ってみたいな、そこまで似ている人に。」
琴和が言うと、少し落ち着いた表情に戻った旭は、首を横に振る。
「先生は・・・もういないんだ。悪い人たちに殺されたの。」
「え?」
「気にしないで、詳しくはやっぱり言えないから。」
気丈な素振りで答えると旭はジュースを飲み干す。
そして携帯を取り出し時間を確かめ、立ち上がった。
「ごめん、もう私行かなきゃ。
お願い、絶対夜は出歩かないで。
あと・・・」
「誰にも言わないよ。」
「それは当然!あと、私たちは悪人じゃないって忘れないで。」
「分かったよ。」
そう答えると、旭は微笑んでから「ごちそうさま」と言って
店を去っていった。
テーブルの上の伝票を見つめて、少し微笑む琴和。
「やっぱり危険じゃなかったな。」
そうつぶやいて、残りのコーヒーを一人で満喫しはじめた。




