第五話<月の夜の下で>-6
「コーシロー、もう少しだよ。」
夜の道を走る甲子郎と琳。目指す先には、呪術が行われた場所がある。
「その先を左。」
「分かった・・・チッ!!」
二人が曲がり角に指しかかろうとした瞬間、異型の犬が二人の目の前に
現れる。しかし甲子郎は有無も言わさずに、銃の引き金を引いた。
すると、犬は何が起こったか分からないうちに
道に横たわってしまった。
二人は何事もなかったかのように左折をする。
「あそこだよ!」
琳が指し示した先には、空き地が広がっていた。
広さは10坪ほどで、草はあまり生えていなかったが大きな柿の木が一本立っていた。
街灯は付近に3本あったのだが、空き地に一番近いものが壊れているようで
点滅している状態だった。
それ故に明かりはほとんど届かずに、暗いスペースが辺りを包んでいた。
そして暗い広場の中心で、しゃがんでいる人影のようなものを二人は見つけた。
「お前、ここで何をやっているんだ?」
甲子郎が話を切り出す。すると人影は立ち上がりこちらを向いた。
「いえ、少し夜風に当たっていただけですよ。」
人影はそう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。その影は
とても大きく、180cmはあるように見える。体型もしっかりしていて角刈りの大男だった。
彼の頭上には満月が薄暗く輝いており、只ならぬ存在感がある。
「嘘をつくな、お前、カザーバだな?」
そう言うと、大男は近づく足を止め、手をコートのポケットに入れた。
「禦か?それとも村雲か?」
「その名を知っているとは、何者だ!?」
大男の問いを無視して、甲子郎が質問をする。
「さぁ、な。」
大男がそう言うと、ポケットから手を出す。
「コーシロー!!」
琳が叫ぶと、甲子郎は足元が盛り上がることに気が付いた。
「何!?」
危険を察知した甲子郎は横に飛ぶ。すると足元から
円錐形の岩が盛り上がってくる。
「何だと!?」
甲子郎が驚いている間に、次から次へと盛り上がる岩。
「くそ!」
体勢を崩しながらも、銃を大男に向かって撃つ甲子郎。
しかし弾丸が届く前に、大男の前に柱状の岩が盾になるように盛り上がった。
「ハッ!」
琳の声と同時に手から光の束が盾代わりの岩にめがけて
飛んでいくと、大男は後方に飛び上がる。
すると岩は砕け散り、ホコリが舞い上がった。
そのせいで後方に下がった大男の姿を見失ったと思った矢先に
青い閃光が琳を目掛けて飛んでくる。
「アイギス!!」
甲子郎が琳の前に飛び込んでくると、
そう叫びながら左手を上から下に振りかざした。
すると赤い光の膜が前方に広がり
向かってくる青い閃光をかき消した。
ホコリが下に落ちると、その奥には大男の影が浮かび上がってくる。
その影に銃を向ける甲子郎。
そして、再び大男に向かい問いを投げた。
「お前、嘉島 政継だな?」
「ほう、俺も有名になったものだ。」
今まで点滅していた街灯が、ショックのせいか
しっかり輝きだすと、大男の姿がはっきりと映し出された。
角刈りの男は黒いコートに身を包み、不気味にこちらを見ている。
「長野で多くの仲間をやってくれたんだ。
お前の情報は大分広まっているもんでね。
その馬鹿でかい図体と術の鋭さで嫌でも判る。」
「あの時は勝手に襲ってきたから防衛しただけのこと。ずいぶんな言い草だな。」
「ここで何をやっていた!?」
「さあ・・・な。」
風が少し強く吹くと、それを合図にしたかのように
甲子郎が再び発砲をする。
すると嘉島は同様に石の柱を前方に出現させた。
弾丸は石の柱に飲まれ嘉島までは届かなかった。
「同じ手は飽きるんだよ!」
そういうと、弾痕から光があふれ出し、爆発をした。
それを察知したのか、嘉島は爆発する頃には離れた場所にいた。
しかしそれを琳は見逃さなかった。
「もらった!」
嘉島を目掛けて琳が飛んでいく。その距離はどんどん縮まり
もう少しで手が届くところまできていた。
「させるか!!」
その瞬間、上空から割り込むように緑色の閃光が
琳を目掛けて飛んでくる。辛うじて交わすも
閃光は次々と降り注ぐ。閃光が降り注がれた地面は
細く深い穴が次々と開いて行き、その威力を物語る。
「新手か!」
甲子郎が上空目掛け銃を向けると
人影が高速で目の前まで降りかかってきた。
あまりにも一瞬の出来ことで照準があわず、発砲までには至らなかった。
「くそ!」
目の前の敵に向かって引き金を引く甲子郎。
しかし至近距離にもかかわらず、銃弾は簡単にかわされる。
「迂闊だ!」
銃弾をかわすと、新手は甲子郎を狙って閃光を放つ。
その狙いは甲子郎の顔の中心で、タイミングもほぼ完璧だった。
「うおおおおお!」
無理な体勢だったが、強引に体を左に反らす甲子郎。
それによって放たれた閃光を見事かわした。
そして銃の先端から光の細い棒を伸ばし、新手に向かって振りかざした。
「チ!」
新手は上空に逃げ、嘉島の元へ飛んでいく。
「嘉島さん、大丈夫ですか?!」
「修也か、あいつらは中々やるようだ。ここは引くぞ。」
「はい!」
そう言うと後方に高く飛び、ブロックベイの上に載った。
「待て!」
甲子郎が叫ぶと嘉島が振り返る。
「貴様、名は何という?」
「へ、呪術師に名前なんて言うかよ。」
「ふん。」
そうやり取りといえないやり取りをすると、二人は闇の中へ消えていった。」
「コーシロー。」
ゆっくりと琳が近づいてくる。
甲子郎は琳の姿をみて、怪我をしていないことを確認すると、頭に左手をポンとのせる。
「一応無事のようだな。」
そう言って頭から手をどけると、右手の銃を懐にしまった。
「さすがに、もう追えそうにないな。」
「うん、何も感じ取れないね。」
「でもまあ、今日は大収穫だったな。」
「そう?取り逃がしちゃったよ。」
「だけど情報は得られた。疲れただろう?お前はもう帰って良いぞ。」
するとじっと見つめる琳。
「コーシローはどうするの?」
「俺はもうちょっと見て周る。化け物犬もあの短時間で
二匹も遭遇したんだ。もっといても可笑しくはないだろう。」
「じゃあ私も行く。」
「・・・分かった、もう一仕事行くか。」
そう言うと二人はゆっくりと歩き出した。




