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第二話<物語る骸>-6

「・・・イチゴジュースがない。」

現在PM15:30、そこは明るい日差しの射すカフェスペース。

白い丸テーブルに座っている少女が

目の前の甲子郎を不機嫌そうな顔で見つめる。


「・・・分かった分かった、ちょっと待ってろ。」

頭をかきながら席を立つ甲子郎。

そしてカウンターでイチゴジュースを買ってくる。


「アリガト。」

目の前に差し出すなり、美味しそうに飲み始める少女。

年は12、3歳といったところか、

白い中国の民族衣装のようなものを着ている。


「で、頼んでいたことは終わったんだって?」

「ウン。」

甲子郎の話はあまり興味がないかのような素振りで

答える少女。ジュースに夢中のようだ。


「オカワリ。」

「・・・・・。」

呆れた顔をする甲子郎など問題ないかのように

澄ました顔で訴える少女。

そして不満そうにカウンターに向かう甲子郎。


「ほら、次はゆっくり飲めよ。」

甲子郎がそういって少女にジュースを差し出すと

にっこり微笑んだ。


「アリガト。じゃあお仕事の話、しよっか。」

ようやくか、といった顔で甲子郎は席に着く。

それを確認すると少女は数枚の紙を手渡した。


「コーシローの言うとおりあの犬には呪術が掛かっていたよ。

そして睨んだとおりカザーバの呪いだった。」

会話が始まったときから、甲子郎と少女の表情は

一変して真剣なものに変わっていた。

りんとりあえず、質問は後回しにする。分かっていることを全て頼む。」

甲子郎を一度見ると、琳という名の少女は話を続ける。


「今朝見つけた犬の死骸を鑑識の前に呪術的視野で見てみたのね。

鑑識も急いでいたようだから2時間くらいしか見れなかったけど十分だったよ。

まず、カザーバの特徴が鮮明に出ていたから間違いないと思う。

土の雫が多く使われていたの。

更に腹部に刻印されていた呪文もカザーバの特徴であるものが使われていたよ。」


そう言うと琳は身を乗り出してきて

甲子郎に渡した書類の一部分に指を指す。

そこには犬の腹部に記された呪文の写真が掲載されていた。

甲子郎がその写真を見たことを確認すると、

琳は姿勢を戻して話を再会する。

しかし、彼女は少し困った表情見せた。


「次に呪術で何がどうなるかなんだけど、ココからは予想ね。

カザーバが作った新しい呪術だから私も今まで見たことないし、

すでに呪術の痕跡や呪文も一部が消えていたから

部分部分をつなぎ合わせた結果の予想だよ。


まず呪文を見ると、部分的に体型を変形させる呪術に似たものが

いくつか見られたのね。

そこから今は死によって呪術が解けて普通の犬だけど、

生前はどこかしらかが変形していたと考えられるの。

カザーバが新しく作った呪術とはいえ、

そのほとんどは今まで存在していた呪術を

改造しただけのもの。部分部分から内容は大体把握できるの。


じゃあ何処がどう変形していたか。

それは全身で特に呪術の力が溜まっていたところから推測したのね。

力が溜まっていたところは呪文が刻印されていた腹部と

両目の約5cm上方だった。

腹部は呪文のせいで力が溜まっていたと考えられるから

実際に変形していたのは両目の上だけと思うの。

そして変形の仕方だけど、ここはもう本当に予想でしかないの。

角でも付けたか・・・それとも目を4つにしたか、正直分からなかった。

あとこの前の犬のような巨大化の痕跡も見られなかったよ。」


ここまで話すと琳は目の前のジュースを

一口飲む。どうやら一息入れたようだ。

その間に手元の資料を見る甲子郎。

書類は丁寧に写真が多く掲載されている。

そして琳の説明が再会する。


「じゃあ変形によって何が起こるかだけど、

私の見た限りでは変形による身体能力の向上はないよ。

むしろ、変形によって力を使って

他の部位に悪影響を与えているくらいじゃないかな?」


「なるほど、あの呪術による悪影響なら納得できそうだ。」

話をしている二人の横から白衣の男が話しに割り込んできた。

「西松か。盗み聞きはマナー違反だぞ。」

甲子郎が冷静に返すと西松という男は苦笑いで答える。

「おいおい、急いで鑑識した俺にそれはないだろう。」

「何か分かったのか?」

「じゃあ俺の順番になったらご説明しましょうか?」

にやけて琳の方をチラリと見る西松。

「私はもうほとんど説明したよ。後はその紙に書いていることで大丈夫だと思う。」

琳はそういうとジュースを再び飲み始める。

それを確認すると、西松は椅子を引きずって二人のテーブルの前で腰掛けた。


「それじゃあ俺のターンだな。」

彼はそう言うと甲子郎の方に目を向ける。

「まずは死因から行こうか。

首の骨が折られていた。それが原因だな。

折った方法だが頭部に3箇所の打撃の痕が見られた。

おそらく強い打撃の勢いで折れたのだろう。

要するに撲殺の部類だろうな。ここまでで質問は?」

二人の様子を窺うように西松は尋ねる。


「いや、続けてくれ。」

一呼吸置いた後に話の継続を促す甲子郎。

「じゃあ続けるぞ、次はどうやって撲殺したかだ。

甲子郎、君ならどうやって僕殺するかい?」

「おいおい、嫌な質問だな。」

苦笑いで返す甲子郎。その反応を見て西松は話を続ける。

「普通は何かしらの鈍器を使うだろうな。

ハンマーや、棒や、それっこそ石なんかでもいい。

ましてや相手は化け物だ。触りたくないもんな。」


「現場周辺ではそれらしい凶器を見つけられなったな。

まあ持ち帰ったと考えるのが妥当か。」

甲子郎が話しに続くと、西松はニヤリとした。

「残念、いきなり鈍器の話を振って悪かったが、

その推理は間違いのようだ。

俺の予想では武器は使われていない。

理由は骨の状態。鈍器のような硬いものを

ぶつけると、打撃のあった直下の骨は

折れたり砕けたりすると思うのだが

そんなにダメージがない。ヒビが入っている

部分があるが、それにしてもダメージが小さい。」


そう言うと西松の視線は鋭くなる。

「では何で叩いたか。

おそらく己の体だろう。

殴ったか、蹴ったか。


そこで打撃痕の周辺を調べてみた。

イメージしてくれ。例えば拳で殴るとしよう。

すると殴り殺すくらいなので

殴った人間の拳も傷がついてしまう。

だから血液や細胞がこびりついてもいいのだが、

この犬のもの以外に何も残っていなかった。

これは肌が露出していない部分で打撃を与えたと考えられる。

では何処で叩いたか、

今は冬だ。肌の露出はほとんどない。

拳の例を上げたばかりだが、手袋という状況も十分ありえるだろう。

しかし打撃痕から面白いものが見つかった。

土だ。倒れたときに付いたとも考えられるかもしれないが、

打撃痕以外で土は発見されなかった。

また公園の土の成分とも違うようだ。」


「つまりその犬は蹴られて、靴についていた土が残ったと?」

甲子郎がそういうと、西松は軽くうなずいた。

「正解だ。どうやら君が追っているお武家様とはまた別人のようだな。」

西松がそういうと甲子郎は訂正するように答える。

「それか武器無しでも戦うかだな。」

しかし、さらに西松は訂正するように続いた。

「それか複数犯だな。」

「何?」

西松の発言に甲子郎は疑問を返す。

「打撃痕を調べてみるとあご下に二回

右側の頭部に一回の打撃があることが分かる。

特に右側はとても興味深いものだったよ。

面積の狭いアザと細く、硬いもので突き刺されたような痕あった。」


「それは何かしらの武器か?」

甲子郎がすばやく質問すると、西松は首を振る。

「いや、最初に俺もそう思ったが、違うようだ。

これはヒールだな。この突き刺されたような痕は

かかとの硬くて細い部分だろう。」


「すると・・・女?」

「ああ、一方はそうだろう。ちなみにヒールの痕から

足のサイズは22~23といったところだ。

それを踏まえて次にアゴ下の痕を見てみよう。

ここもアザが残っていて、大きさを調べてみた。

するとこのくらいの面積のアザを作るには、

26くらいの足のサイズが必要だな。女性にしては

いないわけではないが、少し大きすぎる。」


「・・・複数いるということか。」

「そう考えるべきだな。」

考え込む甲子郎をを横目に西松は背もたれによりかかる。

「俺から言わせれば以前見つかった犬の死体とはまったく別物だ。

以前は腹部に刀の傷と思われるものがあったのに

今回は武器無し。同一とは考えにくい。

化け物退治に3人関わっていたと考えるべきじゃないのか?」

西松は甲子郎に意見をする。


「だが、俺たちふせぎ以外が化け物退治なんて普通は考えられないぞ。

ましてやこの狭い範囲で3人も。」

甲子郎が難しい顔でそう言うと、西松は持ってきた資料を甲子郎に差し出す。

「いや、実はこの犬を倒すことは難しくないようだ。

さっき琳ちゃんも言っていただろう。身体能力の向上は無いって。

そこで一番最初の、他の部位への悪影響についてだ。

実はな、骨の強度が通常の8割程度に下がっていた。

つまりだ、首の骨を折ることは結構楽なんだよ。

下手したら蹴った部分も砕けていてもおかしくなかったな。」


その話を聞くと琳が反応をした。

「じゃあニシマツは呪術の悪影響は骨の強度に現れたと考えるの?」

琳の質問に西松は答える。

「そう、俺は呪術は専門外だから根拠は特にないけど

この犬は特に病気に罹っている様子はなかった。要するに健康体。

それなのに骨の劣化は何故?って考えると呪術とする方が納得いくかなってね。」

「実際にそんなことあるのか?」

西松の回答に続いて甲子郎が琳に質問をする。

「そうだね・・・断定は出来ないけど、それでいいと思う。

骨の力を移動させたのかもしれない。

他に何か気付いたことは?」

琳がそう言うと。西松は首を横に振った。


その素振りを見て甲子郎は話を始めた。

「俺がもともと調べていた呪術が掛かった犬の死骸は

腹部に刀のような刃物で斬られた痕があった。

また、その犬の掛かっていた呪術は全長3mくらい巨大化していたと

考えられるんだよな。

そして今回は体の変形のみ。

倒したヤツも気になるが、一体カザーバの奴等は

何でそんなもの作っているんだろうな。」


「それを調べるのが君の仕事だろ。」

西松がそういうと甲子郎は不機嫌そうな顔を見せた。

「俺の任務はもともと倒した奴の捜索だ。」

甲子郎がそう言うと琳はジュースのコップを置いて甲子郎を見つめる。


「ひょっとしたらカザーバは何かの実験をしているのかもしれない。

前の犬は大きくするだけだったし、今回は部位を増やすだけ。

地域を襲うにしてはあまりにも雑すぎる・・・。少し不気味だよ。

今は倒した人より、犬を作り出した理由を探る方がいいかもね。

他の局員も探っているようだけど、コーシローも探ってみて。

多分レーカ局長もそれを望んでいるはず。優秀な人間がやるべきだよ。」

琳がそう言うと甲子郎はため息をついた。


「お褒めに預かり光栄ですよ。」

苦笑いでそう言うと、受け取った資料を束ね始めた。


「二人とも、ありがとな。また協力頼むわ。」

そう言うと甲子郎はカフェスペースを去っていった。


<第二話 物語る骸 -終->

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