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第二話<物語る骸>-5

「小田原さん、お茶でいいですか?」

蘭子が持ってきたペットボトルのお茶を見せる。

「あ、うん・・・ごめん。」

その返事を聞くと、ふたを開け琴和に手渡す。

そして自分の分として買って来たミルクティーを

取り出し、ふたを開けて一口飲む。



「・・・昨日って一体何だったんでしょうか。」

蘭子が目線を下にしてポツリと言う。

今さっきまで感じた妙な強さはすでに無くなっていた。

その様子に合わせた口調で琴和も静かに返答をする。

「昨日は色々とありすぎでしたね。幽霊と会話したり犬と戦ったりで。」

するとゆっくり蘭子は琴和の方を向き、質問を投げかける。

「犬・・・あれってやっぱり犬でしょうか?」

「え?」

蘭子の質問に琴和は反射的に口からそう出てしまった。

「あの、私変なこと言いますけど・・・

あの犬、目が4つありませんでしたか?」


その言葉を聞くと、琴和は全身に鳥肌が立つ。

「同じだ・・・。」

「え?」

こんどは蘭子の方が琴和の言葉に反射で答える。

「俺も4つ目に見えました。でも倒した後に見たら、目が2つで・・・。」

その言葉を聞くと蘭子は目を丸くして少し早めの口調で話に続く。

「そうなんですよ、私もそれで暗かったし街灯が変に反射して

そう見えていただけだって思っていたんですよ!でも、どうしても

気になって・・・本当はその話がしたくって今日来たんです。」


蘭子の証言を聞くと、琴和は強引に住所を聞いてきた理由に合点がいった。

正直なところ自分も正常の犬だったと強引に自己解決をしていただけで

本当は蘭子や櫻子にも聞いてみたいと思っていたからだ。

そして、一つの疑問が頭をよぎる。そこで話の流れを考えて質問を返す。


「そうだったんですか・・・あれ、そういえば櫻子さんには聞いたんですか?」

蘭子は自分のところに来る前に、常に一緒の櫻子に確認しなかったのだろうか?

それが琴和の疑問だった。それに蘭子は答える。


「いえ、まだ聞いていないんですよ。

小田原さんに聞く時と同じタイミングの方がいいかなって思いまして。

それで櫻子さんはどうだったんですか?」

会話のパスというべきだろうか?櫻子に話題を振る蘭子。


「・・・ええ、私も目が4つに見えました。

多分、二人と同じ心境です、そんなものはありえない存在だって思っていて・・・。」

櫻子のことも十分ありえない存在だと心で突っ込む琴和。

すると蘭子の声がする。

「やっぱり、4つ目だったんですね・・・。」

それは真剣な横顔だった。


「一体、何なんでしょうかあれ。」

不安そうに言う櫻子.。確かにあの犬は何なんだろうか。

何故公園にいたのか。

何故襲ってきたのか。

それ以前に何で存在しているのか。

全てにおいて謎だらけだった。


答えられない疑問のせいで、静まり返る部屋。

その中で犬と遭遇してからの事をもう一度振り返る琴和。

しかし何度思い返しても、どの場面においても疑問の塊でしかなかった。

その中で、疑問ではないが、一つ質問することで解決できそうな驚きを見つけた。

それは蘭子が犬に飛び蹴りをした場面だ。

琴和にとってはあのような鋭い飛び蹴りが簡単に出来るものではないと

感じていたからだ。きっと蘭子は格闘技の経験があるのだろう。

部屋が静まり返っているので、話題として丁度いいものだった。


「そういえば楠木さんって格闘技の心得があるんですか?」

おもむろに聞く琴和。

すると蘭子は驚いたような顔で見つめる。

「いえ、私格闘技なんてやったことありませんよ、どうしたんです?」

「え?」

予想外の答えだったので琴和も驚いた表情になる。

「昨日飛び蹴りを犬にしましたよね?」

「あ、ああ・・・あれは、その・・・何となくなんですよ。

本当に思いつきでやっただけで・・・」

琴和の質問に戸惑った様子で返す蘭子。

「ちょっと待ってください、あの蹴りは高さ、速さ、見た目、その他に着地やタイミング等と

物凄く完璧なものに見えました。

あんなこと、思いつきなんかで・・・」

驚きのせいで、少し声が大きくなる琴和。


「いえ・・・本当なんです。ただ頭に思い浮かんだ事をやっただけで・・・

それより小田原さんの方こそ何かやっていたんですか?

犬に襲われた時とか、トドメに行ったときのキックが物凄かったです!」

「え・・・」

蘭子の切り返しに琴和は一瞬固まった。そういえば、何で自分は

あんなことが出来たのだろう。

蘭子の言うとおり、今振り返るとあの蹴りは物凄かったと自分でも思う。

体勢を崩している中、飛び掛ってきた犬を蹴りで打ち落とすなんて

そう簡単に出来っこない。しかし、実際に出来ている。

それ以前になんであんなことをしたのか分からなくなった。

あの時自分は反射的に体が動いたようなものだった。

しかし、反射で反撃するなどというのは、それこそ日ごろからの

鍛練がないと出来ない業である。

そしてトドメに行ったときも正直なところ特に意識はしていなかった。

それこそ蘭子の言った事と同様に

[なんとなく]からの攻撃だった。


「実は、僕も何もやってないんですよ。それこそ何となくで・・・」

琴和は小さな声で答える。

「・・・じゃあ私たちは格闘技の才能があるってことでしょうか・・・。」

蘭子は冗談交じりでそう返答する。どうやら

彼女もわけが分からなくなってきたようだ。


「何か分からないことだらけですね・・・。」

櫻子が不安そうに言う。琴和は、ひょっとしたら

幽霊という不思議な存在ということもあり、櫻子が何か知っているのではないかと思ったが

その様子を見ると彼女は何も知らないんだと感じ取った。


「とりあえず・・・考えても答えは出そうにないですね。」

蘭子が紅茶の缶を握り締めながら声を出す。

「ええ、難しいですね。」

そう琴和が言うと、蘭子はスッと立ち上がった。


「小田原さん、昼ごはん何か食べました?」

「ああ、カップ麺だったけどね。」

そういうと顔をしかめる蘭子。

「不健康な食生活ですよ。その手を見ると夜も同じですか?」

その表情にちょっと押された琴和は言葉を失ってしまった。

「いいです、今日は私が何か作りますよ。」

「え、いやいいよ!!」

慌てて断る琴和に鋭い視線で反撃する蘭子。

このまま行くと先ほどと同様に左手うんぬんといわれて怒られると感じる。

「・・・お願いします。」

それこそ[なんとなく]の直感で危険を感じた琴和はそうつぶやく。

すると蘭子は笑顔で答える。

「何か食べたいものはありますか?」

「私ハンバーグがいい!!」

蘭子の質問に櫻子がすばやく答える。


「ちょっと、今日は小田原さんのリクエスト聞いているんですよ!!

それに目の前に置くだけで食べてないでしょ!!」

「えぇ~」

「いえ、いいですよハンバーグで。僕もハンバーグ好きですし。」

「やったぁ!」

「・・・昨晩もハンバーグ食べていましたよね。」

答えの見つからない不思議現象の話のせいで

活気が無くなっていた部屋に言葉が戻ってき始めた。

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