第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-19
唐突に出たその言葉に、蘭子は一瞬目を大きく開ける。
言葉を失ったまま下をうつむくと、すぐさま立ち上がり
三歩ほど進んで振り返る。
そして申し訳なさそうな表情で、目を合わせずに言葉を発する。
「ゴメン、琴和君とは仲良くやっているけど
・・・そういう風には思えないかも。」
気まずそうに蘭子がそう言う一方、琴和は冷静な表情で
更に質問を続ける。
「そうか、じゃあ他に好きな異性はいるか?」
「・・・・・・いや、いないけど・・・。」
物凄く困った様子を見せる蘭子。
その様子を見ると、琴和はハッとする。
「あ・・・俺、ひょっとしたら物凄く誤解するようなこと言っていないか!?」
口に手を当て迂闊と感じ取ると、慌てて立ち上がり違う質問を投げかける。
「お前、異性に興味あるか?」
少し方向性が変わってきたせいか、顔をしかめながらであるが
ようやく琴和の方を向く蘭子?
「・・・それ、セクハラ?」
その答えを否定するかのように自分の事を話す琴和。
「いや、違うんだ。
そうじゃなくって俺、異性に興味がないって事に気が付いたんだ。」
「・・・どういう事?」
あまりにも変な内容なので、難しい顔をする蘭子。
すると琴和は一生懸命伝えようとする姿勢を見せる。
「今日、昼に琳ちゃんと男の人とでお前の店に行っただろ?
その時、言われたんだ、お前みたいな女性と
毎日一緒で浮かれているんじゃないのかって。
でもそんな気持ちは一切なかった。
あの人は、俺にとってお前が
好みのタイプじゃないだけかもしれないと言っていたけど、
そういうわけでは無いと思うんだ。
お前とは気が合うし、楽しくやっているし、
料理も上手いし・・・その、美人だと思うし・・・・・・
とにかく異性として意識する条件は揃っているのに
何も感じていない。むしろ、言われるまで気付かなかった。
お前を見つめていたのはそのせいもあるんだ。
ひょっとしたら何か発見があるかもしれないって思ってさ。」
そこまで話すと、対応に困った顔を見せる蘭子。
「う・・・うーん。そんな事言われてもなぁ・・・。
実際のところ、私に対して特に何も想っていないんでしょ?
ただそれだけの事じゃないの?
そんな、誰彼無しに好きになるなんて事、あるわけないし。」
その言葉に軽くうなずく琴和。しかしそれは納得がいった表情では無かった。
「そうだけど、そうなんだけど、やっぱり異常だと思うんだ。」
「それは君の考えすぎだよ。
今、変な事がいっぱいあるから敏感になり過ぎているだけじゃないの?」
蘭子の言う事も一理あると思い、少し考えるように視線を下に落とすが、
それでも納得はいかない琴和。
「・・・でも俺、お前に限らず女性に関心が無いようなんだ。
少し思い返してみたけど、過去に恋をした記憶も憧れを抱いた記憶も無いんだ。」
その言葉に少し不思議な表情を見せる蘭子。
「・・・そうなの?」
「これ、やっぱり異常だと思うよな?」
「それは・・・その少し普通とは違うかもしれないけど・・・。」
「だから、気になったんだ。
俺と似た状態のお前はどうなのかって。」
「私?」
急に疑問を振られ、戸惑いながらも、思い返すように
下をうつむき考える。
「・・・蘭子?」
暫く固まったままなので、様子がおかしいと感付き
名を呼ぶと、体が震えだす蘭子。
「わたし・・・わたし・・・・・・。」
「蘭子!?」
自分を見失ったかのように、頭を抱えながらその場にうずくまる蘭子。
突然の事で慌てて近寄り、肩に手を載せると
怯えるような震えが伝わってくる。
「蘭子ちゃん、落ち着いて!!」
近くで聞いているだけだった櫻子が慌てて声を掛けるが
蘭子はうずくまったまま、動けなくなっている。
『俺だけじゃ無かったんだ。』
悲しい目で蘭子を見つめる琴和。
それは言葉では表せない複雑な心境が重なった目でもあった。




