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第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-18

「もう、23時が過ぎてしまいましたね。」

時計を見ながら早間が三人にそう告げると、前進する足を止め

打ち合わせの状態に入る一同。


琴和たちは食事を早々に済ませ、櫻子を探すために

あちらこちらを巡回していた。

道中、怪物に遭遇することは無く、捜索の妨げになる事は無かったのだが、

彼女の姿を見つけることは出来ず、ただ時間だけが過ぎていった。


「一応、安全な時間帯になったのかな?」

周りを見渡しながら琴和がそう言うと、矢子は軽くうなずく。

「そうかもしれませんね。

今までを見ると、怪物が出る時間は早まることはあっても

遅くなる事はありませんでしたから。」

「と、いう事は櫻子さんを探しやすくなったって事ですね。」

早間がまだ頑張る素振りを見せるようにそう言うと、蘭子は首を横に振る。

「ううん、今日はもう帰ろう。

これ以上探しても見つからないと思うし、キリがないよ。

それに、櫻子さんも何か考えがあって姿を見せないのかもしれないし。

そんな中、探し出してたとしても何も話してくれなさそう。」

「良いの?」

心配そうに琴和が聞くと、うなずく蘭子。

「うん、それに櫻子さんは幽霊なんだよ?

身の危険は一番低い存在じゃないかな?」

苦笑いでそう蘭子が言うと、同じように苦笑いで答える琴和。


「それじゃあ今日は引き上げましょうか。」

蘭子の様子を確認した後、早間がそう提案すると、矢子も首を縦に振り同意をする。

「えっと、どうしましょう?

いつも瀬戸は皆さんを家まで送っていたようですが、

私もそうした方が良いですよね?」

初日ということもあり、早間がやり方を模索するかのように尋ねると、

琴和は首を横に振る。

「いえ、たぶん平気ですよ。今までこの時間に出くわしたことはありませんし。

一応蘭子は家まで送りますけど、僕は平気ですよ。矢子ちゃんとも帰り道が一緒ですしね。」

「そうですね、私も一緒に帰るので一人になる事はないですね。」

琴和と矢子の答えを聞くと、申し訳なさそうな顔を見せる早間。

「そうですか。ではお言葉に甘えて、私は今日はこの辺で次に行く事にします。」

「これから何処かへ行くんですか?」

不思議そうに聞く矢子を見るとうなずく早間。

「そう、これから博士のところにね。

まだ研究所にいるんだ。」

「え?叔母さんのところに?」

矢子が予想外を突かれたような表情を見せ、一瞬何かを考えている様子を見せると、

琴和は矢子も夏美の元に行きたいのかと敏感に感じ取る。

「あ、矢子ちゃんも早間さんと一緒に行ったら良いんじゃないかな?

僕なら大丈夫だよ。」

振り返る矢子。

「いえ、でもそうしたら琴和さんが・・・。」

「大丈夫だって。蘭子の家からはタクシーで帰るからさ。」

「そうそう、タクシーが来るまで私の家でお茶でも出しとくから平気だよ。」

琴和の提案を援護するかのように、蘭子も矢子を安心させる話をし始めると、

矢子は早間の方を見る。

「私もついて行って良いですか?」

「うん、かまわないよ。」

快く了承する早間を見ると、再び琴和達の方に振り返り、深くお辞儀をする矢子。

「ごめんなさい。私も叔母さんのところに行きます。」

「うん、分かった。おやすみなさい。」

笑顔で琴和が答えると、蘭子も手を振って別れを告げる。


「じゃあ行こうか。あっちに車を止めているんだ。

それではおやすみなさい。」

琴和と蘭子に挨拶をして、その場を立ち去る早間。

矢子も、もう一度お辞儀をして別れを告げると、早間の後について立ち去って行く。



「じゃあ俺たちも帰ろう。」

まだ振り返れば矢子達の後姿が見える状態で

蘭子の家に向かう二人。周囲は、ただ静かな夜の空間のみが存在し、

怪物の気配など微塵も感じ取れなかった。


「だいぶ暖かくなってきたね。」

蘭子が何気ない会話をしてくると、同じように返す琴和。

「そうだね、初めて会った時のこの時間ってかなり冷え込んでいたよね。」

「もう三月半ばだもんね。これからもっと暖かくなるよね。」

「・・・よくよく考えると、俺達って知り合ってからまだ一か月くらいなんだね。」

琴和が気が付いたように言うと、蘭子は小さく笑う。

「そういえばそうだね。

・・・何かかなり前のような気がするよ。」

「それだけ内容が濃い日々だったってことかな?」

「うん、そうだよね・・・。

幽霊と怪物のいる生活って普通じゃないもん。」

「そりゃそうだ。」

苦笑いを見せる琴和。するとため息をつく蘭子。

「それで、私たちの生活で最も身近な普通じゃない存在は何処に行ったのやら。」

「櫻子さん、何処に行ったのかな?」

心配を通り越し、疲れたような表情の蘭子。

琴和も小さくため息がこぼれる。



「呼んだ?」

「うわぁぁぁ!!」

突然背後から現れる櫻子。

思わず大声を上げる蘭子。

「櫻子さん!?」

目を丸くして琴和が名前を呼ぶと、何食わぬ顔で「こんばんは。」と挨拶を返してくる。

「ちょっと、今までどこ行っていたんですか!?」

当然のように食らいつく蘭子。すると櫻子は申し訳なさそうな顔を見せる。

「ごめんね、ちょっと彷徨いたい気分だったの。」

「何ですか、それ・・・。」

理由は良く分からなかったが、ようやく櫻子が戻ってきたという安ど感から、

思わず笑みがこぼれる蘭子。琴和も同様にホッとしている。


「そう言えば、甲子郎さんが探していましたよ?

一体何かあったのですか?」

会話が一度途切れたので、甲子郎の話をする蘭子。

すると櫻子はスッと暗い顔を一瞬だけ見せると「そう。」と一言だけ放った。


『・・・何か聞いて欲しくなさそう。』

敏感に感じ取る蘭子。そう思うと、これ以上は追及しない方が良いと考える。

「とりあえず、今日は帰ろう。

無事櫻子さんも見つかった事だしさ。

夜遅くから雨が降るかもしれないっていう予報が出てたんだよね。」

琴和も蘭子と同様に感じ取っていたので

話を流すように提案をすると、蘭子は「そうなんだ!?」と

切り返しに乗る様に少し大げさなリアクションで反応をする。


と、その時

「・・・雨だ。」

急に降りだす雨。その勢いはすぐさま強くなる。

「とりあえず走ってあの休憩所に!」

琴和が、視界に入っていた場所を指さし、慌てて誘導をする。

そこは公園の中にある、屋根つきで吹き抜けの休憩所であった。

急いで駆け込むと、夜遅くなので当然のように誰もおらず、

ただ雨の音に囲まれるだけの、動きのない空間であった。

10人くらいはくつろげるスペースで、

木製の長椅子と机が設置されている。

弱めではあったが、蛍光灯も設置されており、

ある程度の明かりは確保できている。


息を整えつつ、ゆっくりと長椅子に腰を掛ける琴和。

「参ったな、話した途端にこれか。」

「もう、変なこと言うからこうなるのよ。」

そうボヤキながら隣に座ってくる蘭子。

髪の匂いを感じるくらい近くに座ってくると、

また西松の言葉を思い出し、見つめてしまう琴和。

「うー濡れちゃった。」

すぐに雨宿りが出来る場所に駆け込んだので

それほど酷くは濡れなかったが、蘭子は少し濡れた髪が気になるのか、

毛づくろいをする猫のように手櫛で頭を拭き取る。

琴和はその様子を何を言うわけでもなく、ただジッと見つめていた。



「うりゃ。」

急に蘭子が琴和の体に濡れた頭をこすりつけてくる。

「な、お前何するんだ!」

あまりにも突然の出来事で琴和がうろたえると、

体制を戻してジッと見つめる蘭子。

「それはこっちのセリフよ。

今日は妙に視線を感じるんだけど?」

その言葉にギクッとする琴和。

ばれない様に見ていたはずだが、どうやら失敗していたらしい。

「そ・・・そう?」

とぼけようとする琴和だったが、蘭子はそうはさせない雰囲気を出す。

「何かあったの?」

探る様に聞いてくる蘭子。

すると、もう隠しようは無いと感じ取り、素直に話す事にする琴和。



「お前、俺のこと好きか?」

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