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第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-17

買い物を済ませ、琴和の家で櫻子を待つ三人。

いつものような賑やかさは無く、黙々と料理の支度をする光景のみが

その家にはあった。


「そういえばさ、さっき変な夢って言っていたけど、何があったの?」

沈黙を消す理由から、思い出したように尋ねる琴和。

すると、お吸い物をかき混ぜる手を止めて、琴和を見る蘭子。

少し考えた後、手元の鍋を見つめながら話しを始める。


「正直なところ、よく覚えていないんだよね。

寝ている時、急に男の人の声が聞こえたの。

渋い感じの声だった気がする。

ただ、何て言っていたかは分からなかった。

その後、櫻子さんの声が聞こえたと思って目を開けたら

櫻子さんの背中が見えたの。

でもその後、意識がハッキリと戻らず、

しっかりと目が開けられないまま、また眠っちゃったようなの。」


「誰かが入ってきたって事ですか?」

矢子が心配そう聞いてくると、首を横に振る蘭子。

「ううん、誰も入ってきた形跡はないし、櫻子さんも何もなかったって言っていたよ。

それに私も記憶が曖昧で、それが本当なのか夢かどうかすらも良く分からないの。」

「寝ぼけていた可能性もあるって事か・・・。」

「うん・・・。」

「甲子郎さんは、櫻子さんがいるかどうかだけしか聞いてこなかったんだよね?」

「うん、それだから余計不安で・・・。」

「甲子郎さんに電話してみますか?」

「ううん、何か忙しそうだし、もう少ししたら来ると思うから

その時に聞くよ。ひょっとしたら大した事ないかもしれないし。」

「そうですね、きっとそうですよ。」

矢子が元気付けるようにそう言うと、蘭子はニコッとして再びお吸い物をかき混ぜる。


と、その直後にドアベルが部屋に鳴り響く。

一瞬櫻子かとも思ったが、

彼女は入ってくるときにドアベルは鳴らさないので、予想からはすぐに除外される。

ちょうどドアの近くに居た琴和は、甲子郎かも知れないと思い、

誰が来たかを確認しないうちに扉を開ける。


「こんにちは。」

「早間さん?」

扉を開けると、そこには櫻子でもなければ甲子郎でもなく

笑顔で立っている早間の姿があった。

「どうしたんですか、急に?」

早間の声を聞きつけた矢子が、奥から出てくる。

すると琴和に目線を合わせてくる早間。

「すみませんね、お話があるのでお邪魔してもよろしいですか?」

「え・・ああ、どうぞ。」

突然の事で一瞬言葉に詰まるが、早間を家に上げる琴和。

すると「お邪魔します。」と挨拶をしてから部屋に入る早間。


「お話・・・ですか?」

畳の部屋に早間が入ってくると、不思議そうな表情で矢子が聞いてくる。

「うん、そうだよ。」

心配させないように笑顔で答えると、周囲を見渡し始める早間。

「どうしたんですか?」

「いや今日は櫻子さんは、いないのですか?」

何があったかを知ってはいたが、知らないふりをして聞く早間。

鍋の火を止めて、台所から早間を見る蘭子。

すると矢子は一度、台所にいる蘭子の姿を見た後に、話しかけてくる。

「それが、散歩に行ったきりで、何処かに行ってしまったようなんです。

どこかで見かけませんでしたか?」


『やはり、皆の所にも戻ってはいないか。』

今の一言からそう感じ取ると、

何気ない素振りで話を進める。

「いや、見ていないよ。

散歩に行ったきり帰って来ないのか・・・それは心配ですね。」

あごに手を当て考えているふりをする早間。

その様子を確認すると、得られる情報は無いと思い、

料理の支度を続ける蘭子。


「ところで、お話って何ですか?」

櫻子の話に進展がないと感じ取った琴和が、

話を元に戻すと、早間は座布団の上に座る。

「そうそう、それなんですけどね。

瀬戸なのですが、これからは皆さんと見回りをするどころか

接触もできなくなりました。」

「え?」

突然の事で、驚きが表情に現れる一同。

「どういうことですか?!」

「いえ、正直なところ私も良く分からないというか、納得ができないというか・・・。

昨夜、アイツは見回り中に帰ったそうですね?

あれって何でも上から呼び出しがあったそうなんですよね。」

「ええ、そのようですね。」

「その内容は、どうやらもう皆さんとは関わるなということだったらしいのですよ。

なんでも、皆さんに気を配っていないで

カザーバの調査に集中しろとのことです。」

「それって・・・。」

「変な話ですよね。

皆さんと回っていることによって近隣の平和を守っていますし、

カザーバとも接触できています。

それに、決して皆さんの戦果は悪くないですし、何の問題もないのですけどね。」

いかにも納得がいかないという表情で話す早間に、深刻そうな顔を見せる琴和。

「僕たち、甲子郎さんに迷惑を掛けていたのでしょうか?」

「いえ、そんなことはありません。

瀬戸も皆さんと回っていたからこそ

得られたものが多かったと言っているくらいです。

アイツはそんなこと、微塵も思っていませんよ。

むしろ続けたいと思っているくらいです。」

「そうなんですか。・・・。」

「ええ、そうです。ですからあまり気にしないでください。」

そこで一呼吸置く早間。

三人が何も話しかけてこないことを確認すると話を続ける。

「それで、ここで問題が出てくるわけです。

これから見回りをどうするかです。」

その言葉を放った後、三人の様子を見ると、

個々に何かを思っているのだなと感じ取れる表情で

黙って見つめられていることに気が付く。


「これからはもう止めるように言いに来たのですか?」

矢子が毅然とした姿勢で聞いてくると、首を横に振る早間。

「いや、そんな事は言わないよ。

むしろ逆かな。」

「逆?ですか?」

止められると予想して身構えていたが、その気配が無くきょとんとして聞き返す矢子。

「そう、逆だね。

実は村雲的にはカザーバと戦う人は一人でも欲しいんですよ。

ですから君たちの活躍は大歓迎なので、

止めろなんて言いませんよ。」

「そうだったんですか?」

思わず、そう言葉が出る琴和。

自分たちの行動が村雲に評価されてていたことが意外だったからだ。

その感情が表情に表れていることを確認すると、早間は話を再開する。

「ですが、だからと言って今まで通りお願いしますというわけにはいかないんですよね。

何故なら瀬戸が一緒に回れなくなり、危険度が増しましたから。

何だかんだ言っても、アイツは力がありますからね。」

「では、どうしたら良いんですか?」

矢子が探る様に聞くと、早間は小さく笑みを見せる。


「こういうのはどうです?

今日からは瀬戸の代わりに私が皆のサポートをします。

アイツもそれで納得しましたしね。」

「え?早間さんが?」

「そう、私なら知らない人間ってわけでもないし問題ないかなと。

どうです?」

それぞれの顔色を窺う三人。すると矢子が軽くうなずく。

「私は問題ないです。蘭子さんと琴和さんは?」

「あ、ええ僕もOKだけど・・・。」

「私も大丈夫だけど・・・

甲子郎さんにはもう会えないのかな?」

蘭子が何かに引っかかっているようにそう言うと、琴和も同様な表情でうなずく。

「確かに、これで甲子郎さんと会えなくなると思うと、少し首をかしげちゃうね。」

二人の様子にうなずく早間。

「確かに、はいそうですかとは言えませんよね。

ただ、禦や村雲にとっては上からの命令って絶対的なのですよ。

本当は今晩、瀬戸はここに来て皆さんにしっかりと説明したかったようですが、

それも叶わないくらいです。

分かってください。」

説得するように早間がそう言うと、二人は目を合わせる。


「要するに仕方がないって事ですね。」

琴和が仕方が無しに納得した素振りを見せると、

蘭子は軽くため息をついた後、早間に話しかける。

「分かりました。本当は甲子郎さんにはまだ用があったのですけどね。

まあ見回りをしていれば、またいずれ会えそうですしね。

そういえば、好き嫌いあります?

献立に影響出るので教えてください。」

三人の了承を得ると、にっこりする早間。

「いえ、特に無いです。

実は楠木さんの料理、楽しみだったのですよね。」

「楽しみだったってそんな・・・大したもの出ませんよ。

あと、私は蘭子で良いですよ。」

「はい分かりました、蘭子さん。」

早間が楽しそうに返事をすると琴和が話しかけてくる。


「そういえば、こうやって早間さんと落ち着いて話すのって初めてかもしれませんね。」

「ああ、そうかもしれませんね。

いつも何かと慌ただしいというか、忙しなく終わる感じでしたからね。

大抵、瀬戸がいるお陰で騒がしくなるだけですが。」

「・・・甲子郎さんとはどういう関係なんですか?」

少し考えた後にそう聞かれると、ジッと琴和を見つめる早間。

「どういう風に見えます?」

「どうって・・・初対面の時はいきなり喧嘩をしていましたからね・・・。

でもそこまで険悪そうには見えませんし、今回の件も事前に連絡をとっていたようですしで

正直良く分かりません。」

その答えを聞くと、フッと笑う早間。

「そう、その答えで良いと思いますよ。

良く分からないで。」


琴和は早間が何を言いたいのか理解出来ないで

言葉に困った顔をすると、早間は違う話題を振ってくる。

「さて、本日はどういう経路を見回りますか?」

「えっと、特にきめてはいないんですよ。」

矢子が話に入ってくると、早間は彼女に視線を移す。

「そっか。じゃあ毎日そんな風に自由気ままな感じなのかな?」

「うーん、そうですね。」

すると何かを思いついたような素振りを見せる早間。

「よし、じゃあ今日は櫻子さんを探しにいきますか?

目的があった方が良いですよ。」

「え?」

その言葉に思わず振り返る蘭子。

「櫻子さんの事が気になっている中、怪物退治に集中はしきれないですよ。

不安要素は一つずつ解決していきましょう。」

にっこりと提案されると気まずそうな表情を見せる蘭子。

「でも見回りは・・・。」

「平気ですよ。それより私も櫻子さんの事が気になります。

今日はそうしましょうよ。」

矢子が蘭子のそばに寄って手を引っ張ると、少し考えてから首を縦に振る蘭子。

「分かった、ありがとう。」


「ナイスアイディアですね。」

琴和が早間のそばで自分も賛成という意向を伝えると、

早間は小さく笑みを見せる。

「いえ、私はそんなに褒められた人間ではありませんよ。」

その言葉を不思議に思う琴和だったが、深くは聞くことができない様子だった。


『ひょっとしたら三人を間に挟むことによってあの人と接触が出来るかもしれない。

カザーバとの関わりが分かるかもな。』

そう考えると同時に自分自身に少し嫌気を感じると、深くため息をつく早間。

「どうかしましたか?」

不思議そうに聞く琴和を申し訳なさそうに見ると、首を横に振る早間。

「いえ、気にしないでください。少し自分が嫌いになっただけです。」

「・・・はあ。」

「さて、少し電話をしてきます。すぐ戻りますから。」

そう言いながら立ち上がると携帯を取り出す早間。

それは自分で振った話を打ち切るかの様に、そそくさと実行する行動であった。

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