第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-15
櫻子が目の前から消えてから1時間半経った後、
甲子郎は住宅街の中にある小さな公園の前にいた。
櫻子やカザーバを探している雰囲気は無く、ただじっと何かを待つように立っているだけである。
と、そこに一台の車が近くに停まる。
「待たせたな。」
車窓が下がると、そこからは早間の姿が現れる。
「いや、いい。」
そう端的に返すと、助手席に乗り込む甲子郎。
「これから何処か向かうところあるか?
当てもなく走るのももったいないからな。」
座席に座るなり、早間が問いかけてくる。
「そうだな、とりあえず最後に琴和の家に向かってくれ。」
「・・・そんなに遠くはないな。すぐ着いちまうぞ。
それじゃあ少し郊外へドライブして周っていくか。」
アクセルを踏む早間。すると、ゆっくり車は走り出す。
「考え事か?」
早速話を振り始める早間。
「ああ。」
「で、今は何を考えているんだ?
難しい顔をしているぞ。・・・局員の事か?」
そうすると、ため息をひとつつく甲子郎。
「そうか、村雲にも報告書が回っているから
もう読んでいたんだな。
それもあるが、色々とありすぎた。」
「色々か。確かにそうだよな。
だから今、こうして集まっているんだ。
・・・局員の事、何を考えていたんだ?」
事の真相を知っている早間は、甲子郎がどこまで行きついているかを
試す為、そう話を振る。
「一応、この件の報告書は作成されているが、自分なりにも調べようと思ってな。」
「で、何か分かったのか?」
「いや、全くだ。
現場は綺麗にされているし、何の形跡も無かった。」
「カザーバもやってくれるな。」
白々しく早間がそう言うと、
甲子郎は何かを打ち明けるように話し始める。
「実は、資料ではカザーバにやられたとあるが、何か引っかかるんだよな。」
「・・・と言うと?」
「お前も何度か戦ったから分かるだろう?
カザーバの怪物は、それ程強くはない。
まったくの素人だったら分かるのだが、
殺された奴は、戦闘経験がなかったにせよ、それなりに力は持っていたんだ。
確かに、中には強い魔物の例も何件か報告があるが、
それでもそう易々と殺されるとは考え辛いんだ。
・・・それに今回の件をまとめた資料をさっき見たんだが、妙に胡散臭い。」
「それは、禦が作ったレポートだろう?」
「そうだが・・・何か書いている内容に納得がいかないんだよ。」
そう言って頭をかく甲子郎。
『禦内部でも情報工作を行っているんだな。』
そう感じ取る早間。
「お前は、何か知らないか?」
甲子郎が何気なく聞いてくると、知っている内容を
悟られないようにポーカーフェイスで答える早間。
「いや、何も知らない。
むしろ教えて欲しい事だらけだよ。
・・・何で監視を付けたんだ?」
話を切り返す早間。
「ああ、実は琴和と蘭子は知っての通り
謎の部分が多いだろう。
だからいずれは禦で保護する必要があると考えている。
そこで今のうちから身辺を調査しておく必要があったんだ。
禦内部に不審な者を入れるわけにはいかないだろ?」
「じゃあ何で矢子ちゃんまで?」
「琴和たちとは、もう無関係ではないだろ。
ひょっとしたら何か絡んでいるかもしれないしな。」
「村雲の資料を信じていないのか?」
「念には念を。局長の指示だ。」
「なるほど。あの人らしいな。」
「そういえばお前、身の回りでおかしな事は無いか?」
会話が一段落しかけたところに、唐突に聞く早間。
その質問に不思議な感じを受けるが、とりあえず答える甲子郎。
「んぁ?琴和達に関わるなという指令が出たくらいか?」
『どうやら命まではまだ狙われていないようだな。』
そう感じ取ると、甲子郎は不思議そうに聞く。
「どうした、急に。」
「いや、何でもない。」
思っていることを悟られないよう、軽く流す早間。
そして再び話を切り返しにかかる。
「そう、その小田原君たちの事だけど
今日から俺がお前の代わりに見回りに付き添う事にするよ。」
「どういう事だ!?」
思わず声が大きくなる甲子郎。
「お前、もう皆と関わっちゃいけないんだろ?
でもだからと言って、皆は見回りを辞めると思うか?
それに村雲的にはカザーバと戦う人間は一人でも欲しいというのもあるようだ。
だったら矢子ちゃんと身近な俺が一緒に回るのが
一番良いかなってな。」
「カザーバと戦うってお前、あいつ等は・・・。」
「分かっているよ。だから尚更の俺だ。
無茶はさせないさ。」
「・・・そうか。」
早間の言葉に妙な納得をすると、甲子郎はおとなしく引き下がる。
「それよりお前さ、何でそんな命令が出たんだ?」
「それが皆目見当がつかねえよ。」
額に手を当てて答える甲子郎。
「何でも、遊んでないでカザーバの調査に集中しろって話だ。
でも実際のところ、あいつ等とつるんでいたから
嘉島をはじめ、カザーバと接触が出来たんだ。
決して無駄ではないんだが。」
「そうか。」
「ああ、だから納得が出来ないんだ。
しかも局長より上からの命令のようなんだ。
俺は元老院のだれかだと睨んでいる。」
「支部長じゃないのか?」
「いや、俺の勘では元老院だ。」
「何だよ、それ。
でも実際にそうだとしても、命令が出てしまったんだ。
もう彼らの事は俺に任せて、お前は調査に集中しなよ。」
そうすると、ため息を再びつく甲子郎。
「それがそうも言ってられなくなってきたんだ。」
「何でだよ?」
甲子郎の困った素振りを流すように返す早間。
「お前、俺が遭遇したカザーバの人間の資料を見たか?」
「ああ、見たぜ。」
「だったら話が早い。
シュウヤと言う名前の男と櫻子は顔見知りだった。」
「何だって!?」
急にブレーキを踏む早間。
「おわ!危ねぇじゃねえか!」
「どういう事だよ、それ!?」
「俺だって分からねえよ。
更にあいつ、嘉島とも面識があるようだ。」
「・・・何だよ、それ。何でその事が分かったんだ?」
「さっきな、殺された局員の事を調べていたら
たまたま櫻子に会ってな。
その後、カザーバの連中に会って
顔見知りだという事が分かったんだ。」
「それ、一大ニュースじゃないか?」
「ああ。でも誰にも言っていないし、
暫くは言うつもりもない。」
「何でだ?」
「話が妙にややこしそうなんだ。
それに櫻子は悪い奴には見えない。
ここで一方的に禦の力で抑え込むと
良い方向に向かわない気がするんだ。」
「・・・そうか。そうかもしれないな。」
「だからお前も、誰にも喋るな。」
「分かったよ。ところで櫻子さんはその事について何て言ったんだ?」
「それが何も言わずに何処か行っちまった。
だから今、探し中だ。」
「そうか・・・。」
再び走り出す車。
早間にとっては、今の事が衝撃的だったようで
少しの間、会話が止まってしまう。
甲子郎もそれから何かを言う事もなく、外を何気なく見ていた。
「そう言えばさ、お前紫雲の居場所は知らないか?」
「紫雲か?いや、知らないが・・・何をするつもりなんだ?」
不思議そうに聞き返す甲子郎に何気なく答える早間。
「いや、知らないならそれで良いよ。
カザーバについて何か知っているかもしれないと思ってさ。」
「確かにそうかもしれないな。
分かった、何か情報を得たら教える。」
「助かるよ。他に何か話す内容あるか?」
「いや、特には無いな。」
「まいったな、もう会話が終了かよ。」
「だからと言って、今から琴和の家に行くのも早すぎだしな・・・。」
その言葉を聞くと、少し何かに引っかかる早間。
「・・・ちょっと、待てよ。
お前、今日小田原君の所に何しに行くんだ?」
「何って、一緒に行動出来なくなった事を伝えに行くんだよ。」
「でも、もう関わっちゃいけないんだろ?」
「だからと言って、雲隠れするわけにもいかねえだろ。
このくらいなら平気さ。」
「というか、どちらにせよ俺は今日から彼らに会うんだ。
お前の事を伝えておくぞ?その方が後々、面倒が起きなくて良くないか?」
「いや、だがな・・・。」
「ナギ姉にまた迷惑かけるぞ。」
そう言われると、少し考え込む甲子郎。
「・・・確かにその方が良いか。
悪い、あいつ等によろしく伝えておいてくれ。」
頭をかく甲子郎を横目で見ると、「分かった。」と答える早間。
「まあ、たまにはのんびりドライブでも良いか。」
少し経った後、くつろげる様に車のシートを少し倒す甲子郎。
「分かったよ。」
早間は小さく笑みを見せ、琴和の家とは正反対の方向へ
車を走らせていった。




