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第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-9

「・・・いらっしゃいませ。」

「あはは・・・。」

何故ここに来たと言わんばかりの表情で出迎える蘭子。

三人は事件の現場からまっすぐ蘭子の働く店に来ていた。

店内は昼時ともあり、それなりに混んではいたが、

いくつかはテーブルが空いており、待つ必要は無さそうだ。

「ご注文は何にいたしますか?」

「・・・後で理由は話すよ。」

「只今、期間限定のメニューがお勧めになっております。」

「とりあえず、終わったら電話をくれ。」

仕事中で周囲に店員もいるので、自分からは私語を慎む蘭子。

それを悟ってか、小声で話しかけている琴和。

噛み合わない会話であったが、それでも伝えたいことは伝わっている気がする。

「ランコのお勧め頂戴。」

周囲を気にした二人の事など完全に無視して、大きな声を出す琳。

ただでも目立つ金髪の少女は視線を一気に集めた。


「・・・とりあえずお勧めは、期間限定になるのかな?」

琴和が苦笑いで聞くと、まぁ良いかといった表情で

開き直る蘭子。

「えっとね、それより普段からメニューに載っているこっちの方が良いと思うよ。

琳ちゃんは辛いのあまり好きそうじゃないから。」

「カライの?」

「うん、とっても。」

「別にカライの苦手じゃない。」

「あ、そうだった?」

これは失礼といった表情を蘭子が見せると、琳はジッと彼女を見つめる。

「でもランコのお勧めはこっちのだから、こっちにする。」

メニューを指してニコッとすると、蘭子もつられて笑顔を見せる。

「そっか。じゃあ飲み物は?」

「イチゴジュース。」

「ゴメンネ、イチゴジュースは無いの。リンゴジュースで良い?」

「良いよ。」

素直に了承する琳。それで以上のような雰囲気を見せると、琴和の手を引っ張る。

「コトカズも注文。」

「え?じゃあ期間限定で。西松さんは?」

「俺も同じで良い。飲み物はコーヒーだ。」

簡単に注文を済ますと、蘭子はトレーに配膳を始める。

その間に琴和は財布を取り出すと、西松は

「ここは俺が持とう。強引に連れて来たようなものだしな。」

と言って、引き下がらせる。

琴和は甘んじて好意を受けることにして、事がスムーズにいくことを優先した。



会計を済まして、4人掛けのテーブルに着く三人。

席は琴和の前に西松、その隣に琳という配置だ。


「どうだ、上手いか?」

早速かぶり付く琳に西松が質問をすると、

琳は「ウン。」と簡単に答えて、食を進める。

一方琴和は、辛そうな仕草で、ジュースを勢いよく飲んでいる。

「そんなに辛いか?」

「ええ、失敗ですね。」

「フム、これはあのお嬢さんの話をちゃんと聞いておくべきだったか。」

「そうでしたね。」

苦笑いの琴和を見た後、振り返り蘭子を見る西松。


「フム。」

「どうしたのですか?」

蘭子を見ながら西松が何かを考えている様子に気が付くと、

質問をする琴和。

「いや、話では聞いていたが

結構な美人さんだな。」

予想外の事を言われ、一瞬言葉を失うが、すぐに反応に入る琴和。

「誰がそんなことを言っていたんですか?

甲子郎さんですか?」

「いや、甲子郎の撮った写真を見た局員がそう言っていたのさ。」

「写真?ひょっとして以前、家で撮ったやつかな?」

見回りをし始めて二日後の事、

甲子郎は琴和と蘭子の写真を撮っていた。

理由は、もし何かあった時、甲子郎以外の局員でも

力になれるように、あらかじめ局員に顔を知らせておく必要があったからである。


「なるほど、じゃあ禦内部にも僕たちの顔は知られているんですね。」

「まあごく一部だけどな。にしてもやっぱり美人だな。可愛らしい美人だ。」

再び蘭子を見る西松。

それにつられ琴和も蘭子を見る。

「・・・確かにそうかもしれませんね。」

「ああ、まるで作り物のような顔だ。」

苦笑いをする琴和。

「あはは、それはおだてすぎですよ。」

「そういう意味じゃないさ。」

「え?」

急にスッと笑みのない表情で流されると、それがどういう意味なのか

分からなくなる。その中で西松は話を仕掛けてくる。


「そういえば、あのお嬢さんは毎日

お前さんの家に行っているらしいな。」

「ええ何だかんだで、毎日顔を合せていますね。」

「じゃあ美人さんと毎日一緒だから浮かれ続けている感じだな。」

いやらしい笑みで冗談半分に聞いてくる西松。

しかしその話を振られると、以前あった旭とのやり取りを思い出し

冗談を受け入れるのではなく、少し深刻な顔になる。

「それが、そういう気持ちは全くないんですよね。

やっぱり普通は浮かれるものでしょうか?」

真面目な表情で相談されると、少し困惑をする西松。


「いや、冗談で言っただけなのに、そんな顔されてもな・・・。

でもまあ、年頃の男だったら浮かれても何ら不思議は無いな。」

「やっぱりそうですか。でも実際のところ、そういう気持ちは全くないんですよね。」

琴和の笑みの無い姿勢から、照れ隠しで否定をしているわけでは無いと

悟る西松。腕を組み少し考える。


「フム、そう言えば相手はどうなんだろうな?」

「相手?蘭子ですか?」

「ああ、なんだかんだで毎日訪れているのだろう?

ひょっとしたら相手さんは何かしら想っているのかもしれんぞ?」

その言葉が予想外を衝いてきたので、一瞬固まる琴和。

「・・・そんな事、考えた事ありませんよ。」

実際のところ、相手にどう想われているのかなんて気にした事は無かった。

戸惑いながらも、何とか答えると、西松は少し不思議そうな顔をする。

「お前さん、ひょっとして他に女がいるのか?」

「いえ、いませんよ。」

「女に興味はないのか?」

「・・・そういえばそうですね。」

「そういえばって、普通の男なら、もしお前さんの立場に立てば

何かしら同性とは違った見方をしても不思議ではないぞ。」

「・・・やっぱりそうですか。」

うつむき考え込む琴和。

その暗い様子は、西松が少しフォローをする必要性を感じ取るくらいだった。


「まあ浮かれた気持にならないから異常っていうのもおかしな話だ。

結局、人間の心は自分の置かれている立場を優先する事がほとんどだ。

今の関係を崩したく無いという願いがあれば、そういう感情も出ないだろうさ。

それ以前に純粋に好みではないだけかもしれん。

そんな、身近の異性だからといって誰でも特別視するわけはないだろう。

意識するのは、好みが合ってからの話だ。

だからあまり深く考える必要はないんじゃないか?」

「そうだと良いのですが。」

ゆっくりと顔を上げる琴和。

すると琳が隣の席に移動してくる。

「考えすぎはダメ。今はコレを食べる事に集中するの。」

そう言って期間限定の辛口チキンを差し出されると、

琴和は気分を切り替える為、吹っ切れたように、かぶりつき始めた。

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