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第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-5

会議で使用するとされる書物をもって建物から出る早間と米倉。

外は白い雲が幾つか浮かぶ、心地よい天気である。

建物の周囲には木々で囲まれ、3号棟に続く道まで

緑が絶えない感じだ。


ゆっくりと歩く米倉の左後方に付いて行く早間。

カメラを意識した先ほどの行動が気になっていたが、

こちらからは話をもちかけられずにいた。


そんなもどかしさを感じていると、米倉は独り言のように話しかけてくる。


「村雲は多くの謎を秘めている。

誰も制御できない混沌だ。」


「混沌・・・ですか?」

「そうだ、誰が何を何処まで知っているかなど、皆目検討がつかん。」

「その一例がヴァークスですか?」

「そうだな。お前はたまたまヴァークスに携わっているから知ってはいるが、

他の村雲構成員からすれば、ヴァークスなど存在すら知らないだろう。」

「でしょうね。それと同様に私にも分らないことが数多いようですし。」

「そうだな、お前は知らないことだらけだろうな。」

「・・・例えば?」

試すように聞く早間。すると少し間をおいた後、米倉はぼそりと言葉を放つ。


「何故そこまで知りたがる?」

「・・・好奇心の無い人間などいますか?」

「危険だと分っていてもか?」

「それ故に余計知りたくなりますね。」

「・・・・・・・嘘だな。」

「何故そう思うのです?」

早間の問いに答えるかのように、突然立ち止まる米倉。

そして90度ほど体の向きを変えると、横を見るように早間を見る。


「先ほど、桐島博士を守る為と言ったではないか。

あの時の目は今とは違い、本物の真っ直ぐなものだった。」

「・・・・・・。」

黙り込む早間。

それは言葉を失ったわけではなく、

自分を透かして見ている米倉の出方を見る為であった。



「お前は昔の私によく似ている。

非常に真っ直ぐだ。目を見れば分る。

それが声にまで現れるくらいだ。」

「真っ直ぐ・・・ですか?」

「そうだ、だから不審な影を気にしているのだろう?」

「・・・不審と分っていて何もしないのですか?」

「言っただろう、昔と。」

「昔・・・ですか。

そういえば過去に、多くの命を救った功績がありますよね。

所長の部隊を指揮する手腕は定評があります。」

「それ故に、多くの部下を持たされることになった。」

「・・・部下を正しく導くためですね。」

「違う、人質だ。

私が何かしようものならば、部下にまで被害を及ぼすだろう。」

「とんだ足かせですね。」

「お前もその足かせの一つだな。」

「・・・16年前の事件で正義を貫いたから、マークされたのでしょうか?」

早間の言葉に一瞬固まる米倉。

すると何かを悟ったのか小さく笑みを見せる。


「なるほど、

賢明なお前がこう易々と心を読ませる訳がないと思ったら、こういう事か。

純粋なフリをして私が信用できるかを試したのだろう?

過去の私を知っているが故に、試す価値があったわけか。」

「いえ、私は純粋ですよ。」

「そうだな、博士を守ると言った時の目は本物であった。

そうであって欲しいと思う。」

少し笑みを早間が見せると、米倉は背を向け、歩き始める。


「所長、あなたの心を信じて聞きます。

博士と矢子ちゃん。そしてヴァークスの技術をどうするつもりですか?」

米倉は危険ではないと判断し、思い切って聞く早間。

すると目の前の所長は何かを考えているかのように上を向く。


「正直なところ、今後どうなるかは私も分らん。

ただヴァークスは村雲にとって、重要なカギになることは間違いない。」

「カギ?・・・ルイン計画のことですか?」


「もうそこまで行き着いているのか!?」

試すように早間が切り出すと、振り返り驚きの表情を隠せない米倉。

その様子からルイン計画はゴミプログラムではない事を悟るのは容易であった。

「教えてください、ルイン計画とは何なのですか?」

「・・・。」

何かを考えているかのように沈黙をする米倉。

早間はその間、何かを訴えるかのようにジッと見つめる。


「何故それを知りたがる?」

「博士と矢子ちゃんを守る為です。」

「何故、知ることで二人を守れると考える?」

「博士にとって矢子ちゃんは大切な宝なのです。

そして矢子ちゃんにはルイン計画に関する何かが埋め込まれているのですよね?

もし、彼女に何かあったら博士は絶望します。

生きていくことすら困難になるかもしれません。

人は体だけではありません。心まで守らないとなりません。」

何かを考えるように、一呼吸を置く米倉。

「・・・その通りだな。では仮にルイン計画の全貌を知るとしよう。

どうするつもりだ?」

早間の出方を試すように問いかける米倉。

その眼差しは小さな表情の動きすらも見逃さないといった感じである。

「・・・正直なところ、ルイン計画の全貌が分らないので

作戦の立てようがないのですよ。

ただ村雲から離れたほうが良い、どうにかしてその方法を見つけ出したいという考えです。」

「難しいな。」

「ええ、禦に密告すれば簡単に行くと思ってはいたのですが、

どうやら無理そうです。村雲の手はそこまで伸びているようですから。」

「ああ、その通りだ。禦には村雲の病が浸食している。

一筋縄ではいかない。

それにな、お前たちと同様に悪気は無くルイン計画に携わっている人間は多い。

今、問題が起これば口封じされる可能性もある。

それ故に、私は概要を話すわけにはいかない。

すまないが、命を持っているのはお前たちだけではないのだ。」


「なるほど、よく考えれば分かることでしたね。

同様の立場にある人たちがいるということは。

確かにその人たちの事を考えると口も重たくなります。」

また一つ難題が増えたと思うと気が重くなる早間。

右手を額に当てると、思わずため息が出る。


「だが、このままではいけないことも確かだ。

私は何も力になれないが、お前がリスクを理解した上で

勝手に行動する事までは知らん。」

「・・・所長。」

「落ち込んでいるお前に良いことを教えてやろう。

いくら禦の内部まで力が及んでいても。全権は掌握はしていない。

しょせん三分の一の権力だ。」

「三分の一!?・・・それって三人いる元老院の内の一人!?」

「さあな、残り二人は正常だとか、そことコンタクトを取れば

どうにかなるかもしれないとかは勝手に想像すると良い。」

「そこまで教えていただけるなら、誰が村雲の手先かを

教えてくださいよ。」

「それが分かれば苦労はせんよ。

言っただろう、村雲は混沌だと。そこまでは私ですら分らん。」

「そうですか・・・。

結局は下手に動けないという事ですね。」

「逆に、上手くやれば大勢の人が助かるかも知れん。」

「そう思うのであれば、せめてルイン計画の事を教えてください。」

「駄目だ。何故なら私もルイン計画の全てを知っているわけではないからだ。

例えばルイン計画の情報はA・B・C・Dという大まかなブロックに分かれているとしよう。

ルイン計画の全貌はAからDの情報を全て組み合わせた時に

明らかになる。

こうすることによって、例え一部の情報が漏れたとしても

断片の情報なので全てが漏えいすることは無い。

また、誰がどの情報を持っているかも知らせないことによって

連鎖して情報が漏れることもない。

さらに原因の追及も容易に出来る。

情報Aを持っているのが私、Bが他の人間、Cがさらに他に違う人間。

こう割り振られた時、もし情報Aが漏えいした時は、私が原因という事がすぐに判り、

私と、その周りの人間が処罰される。」

「私からの漏えいを心配しているのですか?」

「行動を起こそうとしているのだ。100%安全では無いだろう?」

「・・・そうですね。」

おとなしく引き下がる早間。米倉の背負うものを考えると

どうしてもそれ以上は言えなかったからだ。

すると、それを察したのか、米倉は再び歩き出す。


しばらく無言のまま歩く二人。

しかし目的地の建物に近づくと米倉は再び話しかけてくる。


「カグヤというものを知っているか?」

「カグヤですか?いえ、存じませんね。」

「だろうな、それだけ村雲は謎が多いということだ。」

「何なんですか?それは。」

早間が質問をするが、何も答えずに建物の入口を目指す米倉。

その姿勢から最後に重要なヒントをくれたのだと理解する。

「ありがとうございました。」

早間が礼を言うと、米倉は一度立ち止まる。


「早間、お前は腐るな。私のように。」

そう一言残すと、建物に入っていく米倉。

その後、二人は会話をする事無く、会議室に向かっていった。

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