第十五話<駆け巡るそれぞれの想い>-4
白い8畳ほどの広さの部屋にいる早間と米倉。
その部屋は大きな窓ガラスがあり、外を見渡すことが出来る。
床には茶色いカーペットがしかれており、黒いテーブルが一つ設置されている。
壁に面している本棚には、数多くの本が並べられており、
全てを読破するには多くの時間がかかりそうだ。
その空間の中でソファーに腰をかけている早間。
一方米倉は大きな窓ガラスから外を見ている。
早間は上司に当たる米倉に呼び出されていた。
任務を伝えられるためである。
まず話されたことは、甲子郎が矢子たちと見回りが出来なくなったという事だった。
本当は昨夜、本人から聞かされていたので知ってはいたのだが、
あえて知らないフリをする早間。
すると、米倉は今までの甲子郎のポジションに早間が入ることを命じる。
「私が瀬戸甲子郎の代わりに・・・ですか?」
「そうだ。桐島矢子達と見回りをしてくれ。」
「理由を聞いてもよろしいですか?」
「簡単だ。ヴァークスの戦闘データを取るには、
今の環境は絶好のものだ。その為には今後とも見回りは必要だからだ。
だが、何かあっては困る。そこでお前だ。分るな?」
「なるほど。では本人達にはどう説明しますか?」
「お前なら顔見知りだろう。表向きには
怪物と戦う人間は一人でも欲しいので辞めて欲しくないとでも
言えば何とかなるだろう。」
その後少し考える早間。
『この状況ならばある程度のことは聞き出せるかもしれない』と感じ、
米倉の様子を窺うと、質問をする。
「今まで一緒に回っていた瀬戸甲子郎ですが、
やはり禦だから遠ざけたのですか?」
窓に反射で移る早間の姿を見ると、米倉は簡単に「そうだ。」と答える。
「どうやったのです?」
さりげなく重要な事を聞き出そうとすると、米倉は体の向きを早間に向ける。
しばらく続く沈黙。その間、二人は目を逸らすことなく、ジッと何かを窺うように見つめる。
「禦といえど、日本では村雲が居る限り自由には出来ないということだ。」
「禦の内部にも強い影響力を持っているということですね。」
「好きに理解するといい。」
否定がない事から、自分の予想通り
村雲の力は、禦内部にまで浸透していることは間違いないと確信になる。
すると、事は簡単には進まないということが決まり、残念な気持ちになったが、
その気持ちを表情に出すことなく、今は聞きだせることは
一つでも多く聞かなければと、頭を切り替える。
「そうですか。ではついでにもう一つ教えてください。
昨夜、資料に出ていた禦の局員を殺したのは本当にカザーバなのですか?」
更に聞きたい事を追求する早間。
局員が殺されたことは、裏情報としてではなく、
カザーバに殺された事件として、村雲全体に広まっていた。
しかし矢子の監視をしていた局員故に、どうしてもカザーバが犯人とは
すんなり受け入れられなかった。
「禦といえど、自由には出来ないと言ったはずだが?」
今の言葉から、やはり村雲が絡んでいたと確信する早間。
そこで自らの仮説を試すことにする。
「・・・そうですか、分りました。
カザーバ製の怪物を、あれだけ集めるには苦労したんじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「そうですね、まず何者かが局員を殺した。
その後、怪物の死骸を集め局員の死体の周りに配置する。
それによって局員殺しをカザーバのせいに仕立て上げた・・・違いますか?」
その内容は、あえて「誰が」とは、はっきりと伝えず
試すように話すと、米倉は椅子に腰をかける。
「機密のためだ、何でもやるのが村雲だ。」
『やはりそうか。』
仮定が決定に変わると、よりいっそう村雲に対する不信が高まる。
「勘が鋭いのも、考え物だな。」
目をつぶり、腕を組んで米倉がつぶやくと、早間は更に話を聞きだそうとする。
「ヴァークスの為に、ここまでするのは何故なのですか?
ヴァークスで一体何をしようとするのですか?」
ゆっくりとつぶっていた目を開くと、何かを考えている米倉。
しばらく沈黙が続くと、視線を早間に合わせてくる。
「私とて、全てを関知しているわけではない。
だいたい、それを知ってどうするつもりだ?」
「博士を守る為です。」
毅然とした態度で答えると、米倉はジッと早間を見透かすように見つめる。
そして何かを感じ取ると視線を監視カメラの方へ移す。
『え?』
米倉の警戒を促す行動に驚く早間。
「その必要は無い。」
不審な行動と取られないために、すぐさま話を終わらせようとすると、
早間は素直に「分りました。」と言って引き下がる。
その様子を確認すると、米倉は机の脇にあったカバンに
書類を入れ始め、本棚の書物をいくつか机の上に重ねて置く。
「これから会議だ。その時にこの本を使う。
一人で運ぶのも骨が折れるから、手伝ってくれ。」
何か思わせぶりな顔をする米倉に気が付くと
「分りました。」と返事をして、本を持つ早間。
「場所は3号棟だ。割と離れているから頼むぞ。」
そう言いながら部屋の出口に向かう二人。
今まで腰を据えて話していた部屋はすぐさま無人の状態になってしまった。




