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第十四話<理由>-7

「矢子ちゃん、そっち行った!!」

大声で叫ぶ琴和。

視線の先には翼の生えた魚が矢子に向かって飛び掛っている。

とっさの判断で左手を怪物にかざし、心波を放つと

怪物は半身を飛び散らし、地面に落ちる。


「うわ・・・グロ。」

怪物の死骸に近づきながら、気持ち悪そうな顔をする蘭子。

「これも、しばらくすると怪物の姿じゃなくなるのかな?」

近くにいる矢子に視線を移すと、彼女は小太刀を下げて左手を口に当てる。

「今まで通りだと、そうなりますね。

でも一体、魚と鳥、どちらになると思います?」

「んー魚じゃないかなぁ?」

そう答えた直後、蘭子は視線の中にある茂みが、かすかに揺れたように見えた。

「どうかしました?」

急に表情が硬くなった蘭子に気付く矢子。

その視線の先に自分の視線も合わせるが何が見えたのか分らなかった。

一方蘭子は手早くエアガンに弾を詰め替え、近くの茂みをジッと見つめる。


「何かいるの?」

琴和も視線を茂みに集中しながら近づいて来るが、何も分らなかった。

そこで右上を見上げ櫻子を見る。

「すみません、何が居るのか見てきてもらえますか?」

「うー、怖いお願いですね。」

少し嫌そうな櫻子。実害は無い幽霊でも、何が出てくるか分らない所を見に行くことは気が引けるようだ。

「それにしても、こんな時に限って甲子郎さんがいないなんてね。」

少し困った顔の琴和。それは甲子郎が不在だったからだ。

というのも、先ほどまでは甲子郎も一緒だったのだが、

急遽、禦から電話で呼び出され、帰ってしまったのだ。

そこで今は見回りの為に外出をしていたものの、急遽中止ということになり、

蘭子を家まで送る道のりであった。

その中で怪物に遭遇してしまい、仕方無しに戦っている琴和たち。

元々は怪物退治が目的だったし、今日はカザーバの人間も居ないことから

逃げることはしなかった。


そうこうしている間に草むらの中に入っていく櫻子。

何が出てきてもすぐに対処できるように身構える一同。

すると慌てた様子で櫻子が飛び出してくる。

「犬の怪物がいます!」

その言葉を聞くと、草むらの中に向けて発砲をする蘭子。

そして矢子も心波を二発打つと、茂みから犬の怪物が飛び出してくる。

発砲を続ける蘭子。しかし犬はすばやい動きで見事全弾かわす。

「速い!?」

一同を中心にして円を描くように走って避ける怪物。すると今度は矢子が切りかかる。

「てやぁぁぁ」

確実に当てに行ったのだが、矢子の一撃もかわす怪物。攻撃に入ると急に速度を変えて

タイミングをずらしてくる行動は、とてもやり辛いものであった。


「コイツ、手ごわい!?」

二人の攻撃を簡単にかわしたので、今度は琴和が攻撃に入ろうとする。

しかし怪物は戦おうとせず、一目散に逃げていってしまった。

「・・・おーい。」


ぽつんとたたずむ琴和。

その様子に影響されてか、蘭子も銃を下ろし同様にたたずむ。

「行っちゃったね・・・。」

「うん・・・。」

二人して首をかしげると、小さく笑う。


「ま・・・待てー!」

予想外の展開に一瞬固まってしまったが、すぐさま後を追う矢子。

「あ、矢子ちゃん!?」

制止させようとしたが怪物を追う矢子。魔法を使ったのか、

地面を滑るように、高速で飛んでいったので、

追いかけようにも、追いかけられない速さであった。



「参ったな・・・。」

「とりあえず櫻子さん、矢子ちゃんを追ってください。

そして位置を教えてください。」

蘭子がお願いをすると、「分った。」と言って矢子を飛んで追う櫻子。

そして、なるべく距離が離れすぎないように、追いつけないにしても

後を追う二人であった。





「参ったなぁ・・・。」

怪物を追っていたものの、茂みに入られ見失った矢子。

辺りを見渡すがそれらしい姿は見あたらなかった。

しばらく歩きながらキョロキョロとする。

「もう駄目かな・・・。」

半分諦めが入ってくると、琴和たちの事が気になり始める。

「戻ろう。」

軽くため息を付いた後、そうつぶやく矢子。

来た道を戻ろうとすると、一瞬であったが、物陰から何かの気配を感じ取る。

小太刀を握り締め、気付かれないように横目でその方角を見ると、

確実に何かの気配を強く感じ取ることが出来た。


一息置いた後に飛び掛る矢子。

小太刀を突き刺すように突進を仕掛ける。



「ひぁぁぁぁ!?」

若い男の叫び声が上がると、矢子は驚き突きを止めて立ち止まる。

彼女の小太刀の前には腰から落ちた眼鏡の男がいる。

琴和たちの監視を命じられた男だ。


「貴方は誰?」

刀を突きつけたまま質問をする矢子。

すると男は待って欲しいことを表現するために

右手を広げて前に出す。


「待ってください。

私は禦の者です。只今調べ物の最中でして、

あの、その・・・。」

慌てたそぶりでそう言うと、小太刀を下ろす矢子。

禦の人間と聞いた以上、刃を向けるわけにはいかなかった。

「調べ者?」

そう聞くと、近くにノートが落ちていることに気が付き、拾って中身を見る。


「あ、それは・・・。」

気まずそうな男。一方矢子は少し驚いた表情を見せる。

「これ・・・私たちの資料?」

ノートの中には今戦っていた様子が事細かに記されている。

「調べ物って何ですか?」

疑うように聞く矢子。すると男は申し訳なさそうに答える。

「すみません、一応秘匿とさせてください。

あまり好きな手ではないのですが、村雲の貴女に禦の権利を使わせていただきます。」

「私が村雲であることを知っているんですか?」

そう言うと男は軽く首を縦に振ると、ノートをスッと回収して

そそくさとその場を立ち去ろうとする。

その様子を、特に何をするわけでもなく見つめるだけの矢子。


何かを考えているようだったが、それはすぐ終わることになる。

「矢子ちゃーん。」

追いついてくる櫻子。すると必然的に眼鏡の男の存在に気が付き、警戒の眼差しを見せる。

「安心してください、禦の方です。」

彼女の視線に気が付き矢子が不安を取り除くと、

櫻子は何も言わずに小さく一礼をする。

それに反応して男もまた頭を下げると、特に会話をすることも無く

そそくさと立ち去ってしまった。



そうこうしている間に、追いついてくる琴和たち。


「怪物は?」

「見失っちゃいました。」

今あったことは話さずに、苦笑いで答える矢子。

同様に櫻子も何も語ろうとはしなかった。あえて報告する必要は無いと思ったからである。


「でもまあ怪我をしていないようだから、それでいっか。」

今合った事など知る由も無いので、

笑顔で蘭子がそう言うと、コクコクとうなずく矢子。

その様子を見ると、逃げた怪物に対して固執する必要も無いと判断した琴和。

「じゃあ帰ろうか。これ以上は無意味かもしれないしね。」

「はい、そうしましょう。」

櫻子も同意をすると帰る雰囲気が漂い始める。

「今日はカザーバの人が出てこなくて良かったね。」

蘭子がそう言うと「そうだね。」と琴和は返す。


鞘に小太刀をしまう矢子。先ほどのノートの中身が気になりつつも、

他のメンバーを見ていると、今日はもう帰ろうという思いが強くなっていた。

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