第十四話<理由>-6
「何だァ?今日は出番ナシじゃなかたのかぁ?」
早間の目の前に現れた者は、痩せ型で頭がボサボサした
黒髪の男だった。少し高めの声を出しながら早間を観察するように見ている。
「神庭その男を殺せ!」
畑岡が焦りながら指図をすると、神庭はポケットに手を入れながらヘラヘラしている。
それは危険な薬でもやっているかのような、表情であった。
「あぁ?いいんスかァ?
・・・こいつって村雲じゃないんスかァ?」
独特の雰囲気を見せる神庭。早間の表情を覗き込むように近づいてくると、
早間は彼に目を合わせる。
「・・・彼にもヴァークスの技術を?」
視線をすぐさま神庭から畑岡に切り替える早間。
その問を投げかけると、眉間にシワを寄せ大声を張り上げる畑岡。
「いいから殺せ!」
するとニヤッとする神庭。次の瞬間、彼の左手は早間の腹部に襲い掛かっていた。
「やめるんだ。」
神庭の手を右手で止め、冷静に対処する早間。
「あ?何止めてんだ?」
気に食わなかったと言わんばかりの表情を見せる神庭。
その切り替わりに早間は敏感に気が付くと、次の瞬間には扉の前に
神庭を突き飛ばしていた。
「ってーな、何しやがる!!」
バランスを何とか保ち、倒れなかった神庭。
扉の前で拳を握り締め文句を言うが、その言葉を早間はゆっくりと聞くことは無かった。
文句を言い終えた直後、神庭は横腹を早間に飛び蹴られ、
扉の外に飛ばされたからだ。
廊下に倒れこむ神庭。そして部屋の入り口に立ち位置を取る早間。
夏美の嘆願もあり、部屋の外に戦場を変更したいと考えたが故の行動だった。
「・・・何を遊んでいる、さっさと殺せ!!」
再び畑岡が激を飛ばすとゆっくりと立ち上がる神庭。
「クックック・・・ひゃーっはっはっは、キイタゼェ!!
これだ、こうじゃなきゃ面白くねーからよー!!」
「手ごたえは無かったので立ち上がるとは思いましたが・・・
随分と元気ですね。」
その狂ったような様子から大したダメージは無いと感じ取ると、再び身構える早間。
「おもいっきしブッ殺してやんよー!」
「何!?」
それは一瞬のことだった。
気付いたら目の前まで突進してきている神庭。
身構えては居たもののあまりにも突然のことで対処が遅れてしまう。
「あらぁ!!」
『これは!?』
上下左右から高速で連打を仕掛けると、早間は負けずに
全ての攻撃を受け止める。
しかし攻撃の速度は徐々に速くなってくる。
「おめぇーつえーなー!!早く喰らっちまえよ!!」
「っく!!」
身の危険を感じ後方へ飛ぶ早間。
「逃げんな!!」
すかさず神庭は距離を縮めるために前方に飛び、
渾身の一撃を右手で早間に打ち込む。
「くたばれぇ!」
「させるか!」
早間も対抗し、受け止めるかのように右手を突き出す。
「壁!」
緑色の光が右手から壁を作るように広がり、神庭の一撃とぶつかり合うと、
強い衝撃がお互いに伝わるが、押し負けないように必死でこらえ合う二人。
「ぬぅあらぁぁぁぁぁ!」
神庭が気合を入れると、徐々に早間は押し負けてくる。
「へっへっへ、どうしたぁ!?押されてっぞ!?」
神庭は押し勝っているせいか、余裕を見せ始めるが、
早間は焦りを見せずに冷静な表情であった。
「攻撃に集中しすぎだ・・・迂闊だな。」
「何?!」
「炸!」
早間がその言葉を叫ぶと、緑の壁は炸裂し、
神庭を後方に吹き飛ばした。
仰向けで倒れている神庭。その様子を確認すると、早間は右手を震わせながら開いた。
『この力・・・何て奴だ。』
攻撃を受け止め、痺れた手を見つめる早間。
表情には出さなかったが、神庭の力に驚いている。
「馬鹿な、神庭が苦戦しているだと?!」
その傍らで驚愕する畑岡。早間の強さが予想以上だったためである。
「てめぇ、やりやがったな!!」
そうこうしている間に立ち上がる神庭。
その様子はまだ闘志が消えておらず、怒りを露にしている。
「貴様、消してやる!!」
神庭の手が光り始める。何かの術を発動させようとしているらしい。
しかし早間は対抗するための術は唱えず、拳銃を神庭に向けるだけであった。
「ようやく到着したようです。もう辞めましょう。
・・・終わりです。」
そう言うと、神庭と畑岡の周囲に機関銃を構えた戦闘員が大勢で取り囲むように出てくる。
「何だぁ?てめぇら。」
辺りを見渡す神庭。すると一人の男が前に出てくる。
「そこまでだ!戦闘を中止しろ!!」
「米倉所長・・・。」
細目の米倉という男が早間と神庭の間に入ると、
戦うことを止め、ポケットに手を突っ込み畑岡をみる神庭。
「先生さんよぉ、こりゃどういうことだ?
所長に止められちまったぜ?」
「・・・米倉所長、何故ここに?」
苦しそうに聞く畑岡を見ると、眉間にしわを寄せる米倉。
「何故ではないだろう!施設内で暴れおって!!」
「違うんです、これは桐島博士に反逆の疑いがあるからでして・・・。」
慌てて返す畑岡に少し呆れ、反撃に出る早間
「言いがかりも、ここまでくると犯罪ですよ?
博士が何時、反逆行為をしたというのです?
今ここに集まった部隊はきっと、この部屋の監視カメラやマイクで
状況を知って駆けつけたのでしょう。
その彼らがあなた方に銃を向けているのです。
非はあなた方にある。そう容易に判断できまんか?」
そう言うと、確認をとるかのように米倉を見る早間。
すると米倉は畑岡の前まで歩く。
「詳しい話は後で聞く。
今は少し頭を冷やしてもらおうか。」
そう言うと部下に指示を出し、畑岡たちを拘束する戦闘員たち。
「あぁ?仕方ねーなー。でも俺は悪くねーからな。」
おとなしく捕まる神庭。
そしてそのまま畑岡たちは部屋の外へ連れ出される。
「大丈夫ですか?桐島博士。」
畑岡たちが立ち去った後、夏美に近寄る米倉。
するとうつむきながらも「はい。」と返事をする夏美。
その様子は元気が無いものであった。
「機材の方はどうかね?」
周囲を見渡しながら続けて質問をすると、夏美は目の前の装置をさすり、
少し安心したような表情を見せ答える。
「・・・少し外傷があるようですが、破壊は免れました。
大丈夫そうです。」
「そうか。」
そう言うと早間に向かって歩き出すと、横に立ち肩をポンと叩く米倉。
「良くやったな。ご苦労だった。」
軽く労う米倉を見ると、早間は少し考えた後に質問をすることにする。
「所長、何故桐島博士が関知していないヴァークスがいるのですか?」
その質問に反応し、米倉の表情を見る夏美。
一方米倉は、無言で早間を通り過ぎるように歩き出し距離を置く。
「所長!」
米倉のほうに振り向き、追求する早間。
「・・・もう一個人のものでは無くなってきているのだよ、ヴァークスの技術は。」
「どういうことです?」
「・・・私も詳しくは知らない。ただ、上からの命令で桐島博士以外の人間にも
ヴァークスの研究をさせていることは事実だ。
それだけ村雲にとって必要なものなのだろう。」
「そんな、ヴァークスの技術は、危険なものなのですよ!?
それなのに理論をしっかりと理解していないような者が研究に着手するなんて!!」
話を聞いていた夏美は食らい付くが、米倉は動じることは無かった。
「上からの命令だ。しかたがないだろう。
今日はもう帰った方が良さそうだ。
片付けは私の方でやっておこう。早間、博士を家まで送ってあげてくれ。」
「話をそらさないでください!!」
大きな声で夏美が訴えるが、米倉は見向きもせず
部下に部屋の片付けを命じ始める。
「博士、今日はもう帰りましょう。」
この状況ではもう進展はないと感じた早間は
夏美にそう伝えると、彼女は悔しそうに唇を噛む。
「立てますか?」
手を差し伸べる早間。すると夏美は「大丈夫。」と言い立ち上がり、
部屋を見渡す。そして辛そうな表情を一瞬見せると、
すぐさまバッグに手荒く書類を入れて帰り支度をし始める。
その様子はとても辛そうな思いと、怒りが合わさったようなもので、
早間は何と声を掛けて良いのか分からなくなってしまうのであった。




