第十四話<理由>-5
「あの子、今頃は美味しいものを食べた後で、
片付けの最中かしら?」
コーヒーをすすりながら、夏美が早間に話しかける。
「そうですね、最近体重も増えてきているようですし、
おいしいものを食べているのでしょうね。」
「思春期の女の子のカルテから話をするのはいけないことよ?」
「コレは失礼。」
小さく笑いながら嗜める夏美。その様子からは昼過ぎの事を
引張っていないようである。
時間は20:30を回ったほどで二人は研究室で休憩をしており、
穏やかな雰囲気であった。
「今日の仕事の進み具合はいかがです?帰れそうですか?」
「今すぐ帰っても良いって言うなら帰るわよ?
本当は毎日帰れるんだけどね。どうも上は私をここから出したくないようね。」
その発言をすると早間は天井の隅にある監視カメラを気にする。
「あら、今のは少しまずいかしら?」
「少し皮肉に聞こえるかもしれませんね。」
苦笑いで早間が答えると、夏美は小さくため息をする。
「誰か着ましたね。」
そう言って扉の方を向く早間。
「こんな時間に?ところで何で分かるの?」
夏美も扉のほうに顔を向けながら早間に聞くと「気配ですね。」と
簡単に返し、扉がゆっくりと開くまでに間に合わせた。
「まだ帰っていなかったの?」
うんざりした顔で言う夏美。部屋に入ってきた人物は
畑岡と少年であった。
「随分と邪険に扱うのですな。
私だって二度もここに来るほど暇じゃなかったんだがね。」
そう言いながら3メートルほど離れた場所まで近づいてくる畑岡と少年。
「二度?するとまた何か御用でも?」
夏美の気分を考えると、また自分が対応をした方が良いと考え、
話を振る早間。すると畑岡は一枚の書類を手渡す。
「・・・これは!?」
内容を読んだ後に夏美に手渡す。彼女も内容を読むと、同様に驚きの表情を見せた。
「禦が裏で動き始めたようですな。
まあ、予測は出来ていたことだが?」
「何処でこの情報を?」
早間は表情を落ち着かせ、冷静な素振りで質問をすると
畑岡は腕を組み答える。
「村雲の中枢には禦から来た人間が何人もいるのだよ?
杵柄さえ使えば禦の情報を引き出す事は容易いものだ。」
「まさか内通者が?!」
そこまで聞くと、明言を避け、ニヤッとする畑岡。
「それで、どうするつもりだ?
このままではまずいですよ?ヴァークスの技術、禦に知られるわけにはいきませんからな。」
「だからって、下手に工作をすると余計怪しまれるでしょう?」
質問をあしらうように夏美が返すと畑岡は疑惑の様子を浮かべる。
「桐島博士、貴女はこのままで良いと本当に思っているのですか?」
「何が言いたいの?」
「最近の動向を見ていると、どうも疑念を抱かざるにはいられん。
禦の者と接触があっても放置するは、試験体を野放しにするは。」
「仕方が無いじゃない。相手は心を持った人間なのよ?
全てを制御するわけには行かないから、イレギュラーだって起きるわ。」
夏美が反論すると鼻で笑う畑岡。
「違うな、あれはモノだ。心などいらん。
全てを制御し、予定通りに事を進めるべきだ。」
「ふざけないで!!」
再び怒り、立ち上がる夏美。しかし畑岡も負けてはいなかった。
「ふざけているのはそちらだ!
・・・やはり貴女は危険だ。これ以上野放しにすると
どうなるか分からん。消えてもらう。」
そう言うと、隣にいた少年は夏美に向けて手をかざす。
「え?」
「博士!!」
夏美の目の前に飛び込む早間。それと同時に少年の左手から
紫色の光弾が放たれる。
『心波・・・じゃない!?』
目の前に札で作った防護壁を作り光弾を防ぐと、弾は散り散りになり
研究室内の設備を小規模だが破壊をする。
「やめて!!」
急に飛び出る夏美。壊された設備に向かって走り出す。
「やれ!」
畑岡が少年に向かって命令をすると、再び夏美に手をかざす。
しかし次の瞬間、早間は少年に向かって飛び蹴りを胸に向かって決め、
扉の方へ吹き飛ばした。
「悪いね、でもこのくらいじゃ平気なんだろう?」
ゆっくりと歩いて少年の方に近づく早間。
「何をやっている、そいつも殺せ!」
「・・・ずいぶんと物騒な事を言いますね。」
指図をする畑岡を横目で威嚇する早間。
その間に少年は立ち上がり再び手を構える。
「お願い、施設を壊さないで!」
夏美が叫ぶと、早間は少年に飛び掛り、構えていた手を強く握り、
顔を鷲づかみにして壁に押し付ける。
「君みたいな子にこんな事をしたくは無いんだけどね。」
押さえつけられた少年は抗おうとするが、早間から抜け出せないでいる。
「少し眠るんだ。」
頭を押さえつけている手が一瞬光ると、少年の頭部に電気が通ったような
衝撃が走り、気絶をさせる。
少年は、そのまま力なく沈むように座り込むと動かなくなった。
「馬鹿な、こうも簡単に!?」
いとも簡単に少年がやられ、戸惑いを隠せない畑岡。
その姿を余所に冷酷な顔で近づく早間。
「どういうつもりです?もう冗談では通用しませんよ?
貴方は理才を殺そうとしたのです。その罪は重い。」
「貴様・・・何者だ?」
「何者って、村雲の単なる一員でしかありませんよ。
それより大人しくしていただきましょうか?
貴方は公平な場で裁かれるべきです。」
「・・・ふざけるな。」
ポケットから何かのスイッチのようなものを取り出す畑岡。
「何です、それは?まさかそれを押したらこの部屋がボンッですか?」
嫌な予感をさせながら冗談を言うように聞き出そうとすると、ニッとして畑岡はボタンを押す。
「爆発より恐ろしいものを見せてやろう。」
そう言うと、背後の扉がものすごい音と共に吹き飛ばされる。
「何だ!?」
振り返る早間。するとそこにはうっすらとした人影が写っていた。




