第十四話<理由>-3
午後二時を回ったファミリーレストランのボックス席に
向かい合って琴和と蘭子が座っている。
琴和は携帯をいじっていて、蘭子は雑誌を読んでいる。
それぞれが好きなことをやっていると思いきや、
会話は割りと頻繁に行われていた。
「んーそっちは良いのある?」
「・・・これといったものはないんだよね。
そっちのほうが専門雑誌なんだからあるんじゃないの?」
「候補はあるんだけどね、ただ決定打にかけるの。」
二人は今晩の献立を考えていた。
ほぼ毎日、食事を作っているのだが、ここにきて
何を作るかネタ切れ状態になっていたからだ。
「そろそろ同じもの作っても良いんじゃないか?」
「嫌よ、せっかく皆で食べるんだから面白みが欲しいじゃない。」
蘭子の発言に苦笑いの琴和。今まで蘭子は夕食を作り続けてきたが、
その内容は毎回違うものであった。
櫻子がハンバーグの要望を出したとしても、
具の内容や、調理方法を変えて変化を持たせていた。
「面白みってどういうことだよ。」
言うことが良く分からず、質問をすると腕を組む蘭子
「同じものを繰り返すより、
予想も付かないようなものを出していった方が面白いじゃない?」
「まあ、それはそうだけど。」
「それにここまで着たら意地よ、あと一ヶ月は違うもの作り続けてやる!」
妙な闘志を燃やす蘭子。その様子は昨日の事など気にもしていないようであった。
しかし、そこまで元気を見せられると、逆に気丈に振舞っているのではと余計な心配も出てくる。
特に今までの傾向を見ると、蘭子はそういうところがあるので単純に安心は出来なかった。
「ん?どうかした?」
蘭子の様子を窺う為、黙ってじっと見つめていると、視線に気付かれてしまい
質問されてしまう。
「いや・・・昨日はいろいろあったけど、元気でいてくれて良かったなって。」
隠し事はせずに思ったことをはっきりと言う琴和。
不安がっていた事をぶり返す可能性も無くは無いが、
変に気を使わず、ごく自然体で接したいと感じたからだ。
すると、何か吹っ切れたような安らかな表情を見せる蘭子。
「そりゃ不安じゃないって言えば嘘だけど、
ずっと不安がっていったら、その思いは強くなってくるし、
他の大した事じゃない事まで不安になってくるでしょ。
そんな悪循環、嫌だもんね。
それに昨日、何だかんだ言っても、もの凄く危険な目に遭っていたんだよね。
本当だったら、今は献立なんか悩むんじゃなくって
これからどうするかを悩むべきだと思うよ。
でもここで引き下がるわけにはいかないじゃない?
自分自身の謎を解き明かすには、今の環境は必要だと思うし、
何よりカザーバのあの子の件もあるしね。
先は見えないけど、目標とする事があるんだから、
今はただ進むのみ。でしょ?」
「やっぱりお前、強いね。」
安心したような様子で琴和がそう言うと、ニコッとする蘭子。
「こんにちわ。」
会話が終わったところで、ちょうど矢子が二人の下に訪れる。
「あ、ちょっと早い到着だね。」
「はい、でも本当にちょっとですけどね。」
そう言うと蘭子の隣に座りメニューを見始める。
「何か飲む?」
「はい、走ってきたらのど渇いちゃいました。」
矢子が楽しそうに言うと、苦笑いを見せる蘭子。
「そんな、急がなくたって良かったのに。」
「せっかく来たんですから、そんなこと言わないでくださいよ。」
「実はね、まだ今晩何にするか決まってないのよ。
だから買い物もすぐに行けないから、もう少し時間が欲しかったのよね。」
蘭子が腕を組んでそう言うと、琴和はあることを閃く。
「そうだ、じゃあ矢子ちゃんに考えてもらえば?」
「あ、それ名案。」
蘭子は指を刺して案の採用を示すと、さっそく矢子に話をふる。
「と、いうわけで、何がいい?」
「え、いや、唐突に聞かれても・・・。」
「まあ何か飲んでいる間に考えてもらえば良いんじゃないかな?」
「そうだね、じゃあそのつもりで何か飲んでね。」
「えー。」
困ったような返事をすると、矢子は見ているメニューを飲み物のところから
食事のところに変える。
どうやらそこからアイディアを得ようとしているようだ。
『あんなに恐ろしい技を放つなんて信じられないな。』
心の中でつぶやく琴和。今の彼の目には、
昨夜見た勇ましい少女の姿は映っていなかった。




