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第十四話<理由>-2

「もういいわよ、問題は無いわ。」

椅子に座る矢子の頭から金属製の輪をはずすと

夏美は優しい顔で話しかける。

その表情には気付かないそぶりで、髪型を直す矢子。

輪をつけていたせいで髪が少し乱れてしまったようだ。


「昨日はずいぶんと派手にやったようだね。」

横から早間が話しかけてくると、顔を向ける矢子。

その表情は少し申し訳なさそうであった。

「はい、あまり手加減のできない相手でしたので・・・。」

「そのようだね、あんなに荒れるくらいの攻防を繰り返しても

勝敗がつかずに捕まえられなかったんだ。

相手も結構やるようだね。」

「あんなに?現場を見てきたの?」

その言葉に夏美は反応し質問をすると、軽くうなずく早間。


「ええ、一応は見ておくべきと思いましたので。

予想はしていましたが、一筋縄ではいきませんね、カザーバは。

あの戦いの跡、そうは出来ませんよ。」

そう聞くと、夏美は報告書に目を通し始める。

書かれている内容は、矢子の報告から作成されたもので、

彼女と旭の戦闘内容の報告だけではなく

琴和たちのことも書き記されていた。


「・・・なるほどね。」

その内容から一人で納得をしたそぶりを見せる夏美。

早間はその時、それが何に対しての納得かは分からなかったが、

特に内容を聞くことはせず、ただ様子を窺うだけだった。

一方矢子は何やら時計を気にしている。


「ん?どうかしたの?」

その様子に気が付いた夏美は矢子に話しかけると、顔を向けてくる。

「ごめんなさい、もう行ってもいい?」

「約束でもあるの?」

「うん、今日は蘭子さんたちと晩御飯の買出しに行くの。

だから早めに行きたいから。」

楽しそうにそう言うと、夏美は微笑んでうなずく。

「そう、じゃあ行っていいわ。気をつけてね。」

その言葉を聞くなり、慌てて立ち上がり、上着を手に持つと走って出口に向かう矢子。

「じゃあ行ってくるね!」

元気の良い様子で部屋を飛び出ると、夏美は微笑みながら腕を組む。


「あの子、どうやら小田原君たちに相当懐いているようね。」

顔は向けなかったが、早間に話しかける夏美。

「そうですね、最近の矢子ちゃん、元気ありますよね。」

「私ではあんな笑顔、作れなかった。

母親失格ね。」

「そんな寂しい事言わないでくださいよ。

親だからできることと友達だから出来ること、それぞれ違います。

あの種の笑顔を作るのは友達担当ですよ。」

「・・・友達なのかしら?」

「どうなんでしょう、むしろお兄さんとお姉さんでしょうか?」

「つまりは仲良くやっているってことか。」


そう言ってコーヒーを口に運ぶと

早間は扉の方を向く。

「どうかした?」

「来客ですね。」

その言葉の直後、重い扉が開きだす。

すると髪の毛が薄くなっている小柄で太り気味の男が

ゆらりと入ってくる。

小さな丸眼鏡に白衣という服装で研究者のような雰囲気である。


「あら、畑岡博士。今日はこちらにいらしていたの?」

コップを机に置き、椅子を畑岡の方へ向ける夏美。

「今日はこちらに来る予定でしたっけ?」

何かを探るような目で質問をする早間。すると畑岡はニヤッとする。

「私も同じ関連の研究者。急に来られちゃ困ることでも?」

「いえ、そういうわけでは。

ただ、急に来てもお茶は出せませんよ。

・・・それに、その子は?」

夏美の代わりに対応をする早間。

その中で、畑岡の連れてきた少年について触れる。

畑岡は一人で来たわけではなく、少年を同伴させていた。

その少年は12くらいだろうか?

顔つきは幼いのだが、無表情でどこと無く寂しげであった。


「これか?

こいつは私の研究の成果だ。」

ニヤッとして答えると

血相を変え、立ち上がる夏美。

「アナタ、まさかその子をヴァークスに!?」

「いやぁ、苦労しましたよ。何人ダメにしたことか。」

その言葉を聞くと、怖い表情で詰め寄る夏美。

「何を考えているの!!

これは私の研究よ!他人が勝手に使わないで!」

「私の?・・・私たちのだろ?」

夏美の勢いに負けず、脅すような表情を見せる畑岡。

「ヴァークスの研究にいくら注ぎ込んでいると思っているんだ?

それを自分だけの物にしようというのか?

馬鹿言っているんじゃない。

ただでも勝手に姪に使っているんだ。

これ以上大目に見ろと言っても無理なものだ。」

そう言うと歯を食いしばり、一歩下がる夏美。

「それに言っただろう?私の研究の成果だと。

確かに基礎はお前のものだが、

そこから私なりに発展させた。

それがコレだ。どうだ、いい出来だろう?」

勝ったような素振りを見せながら少年を指差す畑岡。


「・・・何人犠牲にしたの?」

強い表情で問いかけると、興味の無いことのように軽くあしらう畑岡。

「さぁ、まあ少なくはないな。」

「人の命を何だと思っているの!?」

大声で怒りをぶつけるが畑岡は動じなかった。

それどころか自分の言いたいことを話し始める。


「さて、そんなことは置いといて、これからどうするつもりだ?」

「そんなことですって?!」

怒りを抑えきれない夏美の様子を見ると、

早間は彼女の前に立ち制止させる。

「どうするといいますと?」

このままでは収拾が付かないと思い、話を代わりに進める早間。

「しらばっくれるな。

最近、研究対象が禦とつるんでいるじゃないか。

そろそろ対処するべきでは?」

疑うような目で畑岡が進言すると、夏美は冷静さを取り戻し、話をする。

「その件なら問題ないわ。

ちゃんと矢子は状況を理解している。

それに上にも実用テストとして許可をもらっているはずよ?」

「だが、そのテストが失敗したらどうするのだ?

いつ禦に知られてもおかしくない状況なのだよ?」

「ではどうしろと?」

「そろそろ禦と距離を置くべきですな。」

「そんなことしたら余計怪しまれると思うけど?」

「ただ置くわけではない。

顔を変えて、記憶も書き換えれば良い。

桐島博士なら容易い事でしょう?」

一度怒りを抑えたばかりなので

なるべく荒立たないように抑え、淡々と会話を続けていたが

再び抑えきれない怒りが湧き上がる夏美。

「アナタ、相手は人なのよ!?一体何を考えているの!?」

その勢いとは逆に、静かに威圧をかける様子の畑岡。

「考えているんだがね、村雲のことを。」

そう言うと、振り返り出口に向かう。

「さて、今日はこの辺で。がっかりさせないでくださいよ。」

去り際にそう言うと、扉がゆっくりと閉まる。


「くそっ!」

扉が完全に閉まると、怒りが収まらない様子で

荒っぽく椅子に座る夏美。その様子はとても辛そうだと

早間は感じていた。

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