第二話<物語る骸>-2
「え、住所って・・・いえ、大丈夫ですから。」
ここは琴和のアパート。部屋には雑誌が
少し散らばっている程度で、男の一人暮らしにしては
整っている方である。
時刻はAM9:00。琴和は今、電話の対応に追われていた。
相手は蘭子である。
「左手まだ痛みますよね?」
「え・・・いえ、大丈夫ですよ。」
「今の間は何ですか!?痛いんじゃないんですか!!」
「・・・はい。」
「そうしたら手当てしないといけないし、
布団すら上げられないんじゃないんですか?」
「あ・・・ああ、家ベッドだから。」
「昨日ファミレスでベッド嫌いって言ってたじゃないですか!!」
「・・・ああ、昨日は布団敷けなかったから上げる必要はないかな・・・。」
「それって手が痛かったからでしょ!?重症じゃないですか!住所教えてください!」
「え、いや・・・いいですって。」
「そんなこと言うと櫻子さんに祟ってもらいますよ!!」
「・・・えっと住所は・・・。」
昨夜の騒ぎの後、琴和は蘭子の家で痛めた手を手当てしてもらった。
その後、直ぐに自分の家に帰ったのだが
手が痛くて、布団すら敷けずに、暖房をつけながら
雑魚寝をしている状態だった。
そうこうしている間に気が付くとこの時間。
蘭子の電話で目が覚めたのであった。
琴和は電話に出たのだが、寝起きで
低く、張り合いのない声だった。
しかし、蘭子はその様子から
怪我の具合が酷くなったのではないかと感じ取ってしまう。
そこで家まで手当てしに行くといい始めたので
琴和は慌てて遠慮した。
が、結局霊感商法まがいなやり方で住所を聞き出されたわけであるが・・・。
電話を切ると琴和は座っていた体を
そのまま後ろに倒して仰向けになり、こうつぶやく。
「櫻子さんに祟ってもらいますよ・・・か。」
[櫻子さん]という単語がきっかけになり、昨日の
様々な場面が次々と頭をよぎり始める。
突然出会った幽霊。
しかも見ただけではなく
会話などのコミュニケーションも取った事。
そして、犬が怪物に見えた事。
それらを部分部分に思い出していく度に、全て夢だったのではないかと
何回も思うのだが、左手の痛みと頭に残る
蘭子の声が直ぐに自分を現実に引き戻す。
「やっぱり、現実に起きたことなんだな・・・。」
携帯電話に記録されている蘭子の番号を
何度も確認する琴和。彼にとってはそのデータが
信じられない世界の物的証拠になっていた。




