第十三話<敵として>-13
「何やっているの!?」
突然辺りに響く慌てた声。それに驚き、琴和は突進を止め、その方向を見る。
櫻子と蘭子も驚いたようで、動きが止まってしまった。
しかしそうなったのは三人だけではなく、怪物達もピタリと動かなくなる。
「どういう事?」
周囲の様子を伺いながら不思議そうに蘭子がつぶやく。
辺りは静止をしているものの、
怪物がこちらに睨みをきかせており、緊迫した空気を張り巡らしている。
その中で人影が奥の道から近づいてくる事に気が付く。
「どうして、何でここにいるのよ!?」
声がする方向から一人の少女の姿が見えてくる。
旭だ。その表情は驚きを隠せないようで、目を丸くしている。
彼女にとっては予想外の再会だったので、当然であった。
そして無意識のうちに小走りで琴和の前まで近寄る。
「何やっているのよ!あれだけ夜は出歩くなって言ったでしょ!?」
強張った顔で文句を言う旭。しかし琴和は動じず、目を合わせる。
「君こそ何をやっているんだい?」
旭とは見回りの時にいずれは会うと判っていたので
戸惑いはあまり無かった。
ただ、時期が少し早かったと感じるが、落ち着いた様子で答える琴和。
今、この場でカザーバの活動を辞めるよう説得すると決心すると
肩に力が入ってくる。
「何って・・・関係ない事よ。」
言葉を濁すように顔を背けると、琴和は首を振る。
「関係無くは無いだろ?現に俺は君たちの怪物に襲われているんだ。」
「だから夜は出歩くなって言ったでしょ!」
「それで解決じゃないだろ!?」
徐々に声を荒立てていくと、旭は一瞬言葉を失う。
その隙を見つけると、回りくどい事は止め一気に
話に入っていこうと考える琴和。
「今、俺は禦と村雲の人と見回りをしているよ。怪物を退治するためにね。」
一呼吸置いてから落ち着いた声でそう言うと、旭は目を大きくさせる。
「ちょっとどういうこと!?禦や村雲とは関係ないって言ったじゃない!!」
すぐさま噛み付いてくると、負けずに琴和も勢いよく反論する。
「そうだよ、最初は関係なかった。でも毎晩怪物は現れるし
襲われることもしょっちゅうだ。」
「だからって、何でアナタが見回りをするのよ!?」
「自分に災いが降りかかっているんだ、振り払おうと考えてもおかしくないだろ!?
それに自分たちみたいに無関係でも襲われている人がいるかもしれない。
その人たちを守ろうとして何がいけないんだ!?」
「何よそれ、言い訳じゃない!!」
「怪物を放って人を襲わせる事は良い事なのかよ!?」
琴和が強く訴えると、ビクッとした後、旭は黙り込んでしまう。
その様子を確認すると、琴和はまた落ち着いた声に切り替える。
「危険な事だとは判っているし、君たちが何か理由があって
こんな事をしているということも判っているよ。
でも俺は怪物が街を練り歩いて、誰かを襲っていると
思うと黙って大人しくしている事なんて出来なかったんだ。
だから今はこうして見回りと怪物退治をしている。
確かに君にとっては裏切り行為と思われるかもしれないけどさ、
これだけは信じて、午前中に誓ったことは本当だよ。
誰にも言っていない。」
「・・・何なのよ、アナタ。」
固まってしまった中、ようやく声をだす旭。
「敵の立場になっておきながら、嫌われないようにして。
一体何がしたいの!?」
理解できないといった表情で旭が聞くと、琴和は真面目な顔で答える。
「どんな理由かは分からないけど、こんなことは辞めるんだ。」
「・・・辞められるわけないじゃない。」
苦しそうに首を振る旭。
「何で辞められないんだ?どんな理由があるんだよ?」
「だから、アナタには関係無いって言っているでしょ!
これ以上困らせないで!!」
深く聞こうとする事が癇に障ったようで、怒り出す旭。
しかし琴和も引かなかった。
「だからといって、はいそうですかと引き下がれないよ。
君みたいな子が危険なことをしているなんて
見過ごせない。」
ガシッと旭の肩を掴む琴和。すると彼女は琴和を突き飛ばす。
「何も知らないんだからほっといてよ!」
「そんなわけには・・・!?」
突き飛ばされながらも琴和は、まだ説得しようとすると、片手を掲げる旭。
「これ以上しつこくすると、ただじゃおかないわよ?」
威嚇をするように掲げた手から、ベージュの光を輝かせ始める。
しかし琴和は、それが威嚇だと感じ取り、まだ引こうとはしなかった。
その時である、左方向から青い閃光が旭を目掛けて飛んでくる。
「何!?」
後方に軽く飛び、閃光を避ける旭。その後2発3発と続けて閃光が
襲い掛かってくると、回避に専念したせいか、ベージュの光は手から消える。
「この光は!?」
驚くように閃光の出現先を見る琴和。
「・・・アイツは!?」
険しい表情をする旭。彼女の視線の先には閃光を放った張本人がいた。
「矢子ちゃん!」
蘭子が名を叫ぶ。
その声の先には旭に向かって突進する矢子の姿があった。
「でやぁぁぁ!」
瞬く間に間合いを詰めると、旭に居合いぬく矢子。
旭は後方に高く飛び、距離を一気に離す。
「ちょっと待ってくれ、矢子ちゃん!いきなり斬りかかっちゃ駄目だろ!」
突然の事だったので慌てて矢子を止める琴和。
しかし矢子はその意味が理解できなかった。
「何を言っているんです!?もう少しでやられるところだったじゃないですか!」
琴和と旭が顔見知りという事など知る由も無い矢子にとっては
先ほどの光景は、琴和がベージュの光にやられる直前としか
捉えることができなかった。
それ故に琴和の制止が不思議に感じるが、温和な彼の性格をからすると、
きっと自分と同じくらいの少女に斬りかかる事に
抵抗があっただけだと思い、妙に納得がいく。
そこで相手の危険性を伝えようとする矢子。
「気をつけてください!あの人は危険です!!」
「え?」
いかにも相手を知っているかのような素振りで話す矢子に
少し驚く琴和。そしてすぐさま旭の方を見ると両肩を落としてうつむいている事に気が付く。
『何よ、よりによってアイツとつるんでいたの?』
旭が暗い顔をしてつぶやくが、誰にも聞こえないような小声だったので
琴和には何と言っているのか、それ以前に何か言ったのかすら分からなかった。
「矢子ちゃん、あの子の事、何か知っているの?」
旭を危険扱いしたことからひょっとしたら面識があるのかと感付いた琴和。
すると矢子は目を合わせる。
「初めて蘭子さんの家に上がった日、私は腕に怪我をしていましたよね?」
「・・・まさか。」
「あの日、私と戦っていたのはあの人です。」
「そんな・・・。」
左手で旭を指差す矢子。琴和は少し呆然とする。
一方旭はうつむきながら何かぼそぼそと言い始める。
「もういい・・・。」
右手を広げて前に出す旭。その様子は少し怖いものがある。
「・・・もういい!!」
カッと目を開くと自棄を起こしたように叫ぶ旭。
その声にビクッとすると地面が盛り上がり、中から土色の剣が出てくる。
「下がっていてください!」
以前戦った事から、旭の強さを知っていた矢子は
琴和と蘭子に矛先が行くことが怖かった。
それ故に自分でどうにかしようと考え、前に出る。
再び旭に斬りかかる矢子。それに対抗するように
地中から現れた剣を手に取り、斬撃を防ぐ旭。
一瞬のつばぜり合いでお互いの視線が強くぶつかると
同時に左右に分かれて距離を離す二人。
その時、距離をとりながら青い閃光弾である心波を打つ矢子。
一方旭は地中からベージュの光弾を打ち上げて、矢子を足元から狙い打つ。
「二人を止めないと!」
自分とは次元の違う戦いを繰り広げる二人を止めたいのだが
飛び交う魔法のために近づけない琴和。
すると櫻子が目の前に飛んでくる。
「小田原さん、周りに気を付けて!」
その言葉にハッとして、周囲を見渡すと、怪物たちがゆっくりと
近づいてくることに気が付く。
『こんな時に!』
苛立ちから歯を食いしばる琴和。
すると蘭子が走り近づいてくる。
「琴和君、今はこいつらを!」
「邪魔をするな!」
ナイフを構えて犬の怪物に突進する琴和。
蘭子は琴和に襲い掛かるコウモリを打ち落とすために援護射撃に徹する。
「小田原さん、無茶しないで!」
櫻子がベンチを浮かせてコウモリの群れの中で振り回すと
次々と打ち落としていき、琴和に敵が行かないようにする。
「ウオォォォ!」
飛び掛る琴和を迎撃するかのように犬も噛み付いてくるが
彼の勢いは止まらなかった。
噛み付いてくる犬の顔を横から左手で叩いて怯ませると、
右手のナイフで喉元を突き刺す。
そしてすぐさまナイフを引き抜くと右足で犬の体を蹴り飛ばす。
すると狂気に満ちていた怪物は地面に横たわり、ピクリとも動かなくなった。
「次はコウモリ!」
後方を振り返る琴和、するとコウモリを必死で落としている
蘭子と櫻子の姿が目に入る。
特に効率よくコウモリを落とす策はなかったのだが、
櫻子が振り回すベンチは強力で、次々と敵を落としている。
自分がどうにかしなくても
コウモリの全滅は時間の問題と悟ると深刻な危機ではないと感じる。
そこでしばらくは蘭子の盾役に徹しようと決めると駆け足で二人のもとに近づく琴和。
しかし蘭子の目の前まで来ると、彼女は手を広げて琴和を制止する。
「君はこっちじゃないでしょ?」
「え?」
「止めたいんでしょ?あの子を。」
「でも!」
「櫻子さんが頑張っているから平気そうだよ。
それに矢子ちゃんも心配だし。」
そう言うと振り返り、近づいてくるコウモリを打ち落とす蘭子。
「行って!こっちは大丈夫だから!」
「・・・ごめん!」
旭のもとへ走り出す琴和。
激しく魔法が飛び交う中、どう止めるかアイディアは無かったが、
今はとにかく近づく事からと考えるのであった。




