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第十三話<敵として>-11

『さて、どうしたものか・・・。』

視線は逸らさなかったが、注意は矢子に向ける甲子郎。

以前手合わせをしたこと、そして今、術の威力を目の当たりにしたことから

大きな脅威と感じ余裕は無いと判断していた。

決して矢子は弱いという認識ではなかったが、嘉島相手では

無事ではすまないと考える。それ故に嘉島だけに集中することが出来なかった。

しかし、それを嘉島に悟られる事、また矢子を不安にさせる事を避ける為に

平然とした表情をする甲子郎。



そうこうしている間に、嘉島は二人がいる方向へ再び歩き始める。

「動くな!」

銃を構える甲子郎。しかし動じることなく嘉島は歩みを止めなかった。

その行動に対して発砲する甲子郎。すると、嘉島の周りからツルのように

岩が伸びてきて、弾丸を受け止める。


「甲子郎さん!!」

刀を構えて矢子が名を呼ぶと、無闇に飛び込むのではないかという焦りから

視線を彼女に移す甲子郎。


「・・・迂闊。」

独り言を吐くと、嘉島は地面を滑るように凄い勢いで甲子郎に向かって突進を仕掛ける。

「待ったなしかよ!!」

視線を嘉島に戻し、銃口の先から光の刀剣を出して振りかざす甲子郎。

嘉島はその斬撃を素手で受け止め、刀剣を右手で鷲掴みにし、つばぜり合いのような

こう着状態になる。

「・・・お前の手は何で出来てるんだよ。」

「揺らがぬ意志だ。」

「意味わからねえんだよ。」

お互い一歩も譲らず、力の押し合いになる。と、その時

横から迫ってくる影がある。矢子だ。

「てやぁぁぁ!!」

嘉島に向かって切りかかる矢子。すると嘉島は刀剣から手を放し

後方に飛ぶ。

「甲子郎さん、平気ですか!?」

様子を確認する矢子。すると甲子郎は嘉島を監視しながら答える。

「大丈夫だ、何とも無い。」

そう聞くと、矢子も嘉島に視線を移し、強い眼差しで言う。

「どうします?ここであの人を押さえますか?」

「・・・無茶はするな、相手は嘉島だ。生き残ることを優先しろ。」

二対一という有利な状況にもかかわらず、

落ち着いた声で保守的な事を言われると、

矢子はせっかくのチャンスを逃してしまうのではと思う。

村雲の情報網から、嘉島の名は強大な術者として彼女も知っていた。

しかし、まったく歯が立たない相手という意識は無く、

なんとか戦える相手だと感じている。

よって矢子にとって、この状況は嘉島を押さえることにより

一気にカザーバを弱らせるチャンスの場という認識だった。


「本気で行きます!」

甲子郎の言う事を聞かずに、

刀を強く握り締めてから、凄い勢いで突進する矢子。

突然飛び出すので甲子郎は慌てる。

「ちょっと待て!!」

叫ぶと同時に自分も接近する甲子郎。

どう行動するかを決める前であったが矢子が飛び出したので、

つい反射で自分も飛び出してしまう。

それは矢子に怪我をさせないため、とにかくフォローに回らなければという思いからであった。


すばやい動きで間合いを詰め斬りかかる矢子。左下から右上に斬り上がる小太刀は

嘉島の体をかすめる。

「逃さない!」

後方に下がり、斬撃をかわす嘉島に間髪入れず、次々と斬りかかる矢子。

しかし全ての攻撃は嘉島を捉えることは出来なかった。

「踏み込みすぎだ!」

危険を察知した甲子郎が横から発砲をする。

すると嘉島は大きく後方へ跳ぶが、ただ回避したわけではなかった。

「何?」

嘉島が通った跡には、キラキラと輝いた無数の粒が宙を漂っていた。

その光を不思議そうに見る矢子。

「近づくな!それは罠だ!!」

「え!?」

駆け寄りながら甲子郎が叫ぶと振り返る矢子。

甲子郎の動きは早く、彼女が甲子郎に視線を移す頃には右手で抱きしめられていた。

「アイギス!」

左手で光の防壁を目の前に展開する甲子郎。

すると光の粒は次々と爆発をし、周囲が爆風に飲み込まれる。



「チッ、殺す気満々かよ。」

爆発による煙が周囲を包み込むと、甲子郎が落ち着いた口調で文句を言う。

そして右手の力を緩め矢子を開放すると、

少し驚いた表情で「すみません。」という言葉が返ってくる。

しかし矢子の礼に甲子郎は反応することなく、左手を頭上にかざす。


「見えずらいな。」

かざした手を一気に振り下ろすと、強い風が目の前に発生し、煙が一瞬にして散っていった。


「勘が良いな。」

消えていく爆煙の奥から嘉島の姿が現れる。

自分の仕掛けた罠に掛からなかった事に対して少し感心をしていた。

「てめぇ!よくそんな落ち着いて人殺しが出来るな!

相手は年端も行かない少女だぞ!」

嘉島の態度が気に食わないので説教をする甲子郎。すると嘉島は鼻で笑う。

「その少女を戦わせているお前が言える台詞か?」

「五月蝿い!」

「戦いに身を置く以上、子供だからという理由で手加減は出来ない。

脅威である以上・・・潰すのみ。」

鋭い眼光で威圧をする嘉島。その圧力に矢子は恐怖を感じる。


「あー本当に気に食わない奴だ!何でそんな平気でいられるんだか!!

お前等が怪物をばら撒くから、コイツは戦っているんだぞ!」

嘉島の圧力など物ともせずに銃を構える甲子郎。


「・・・戦っている少女は、その子だけではない。」

何かに腹を立てたかのように歯を食いしばってそう言う嘉島。

すると甲子郎達は背後から異様な気配を感じ取る。

「何だ!?」

思わず振り返る二人。すると300mほど離れた上空にコウモリの大群が固まっている。

自分たちの周囲は木で囲まれた道なので、コウモリの直下に何があるのかは

見えなかったが、誰かを襲おうとしている感じは受け取ることが出来た。


「甲子郎さん!あっちの方角は蘭子さんたちが!!」

「!?」

コウモリのいる方角は先ほど琴和たちが帰っていった方面だった。

「まさかアイツ等が!?」

琴和たちが襲われているのではと考え一瞬、嘉島から注意を逸らす甲子郎。

その時だった。

「どこを見ている!」

「コウモリだ、バカ!!」

嘉島が隙を見つけるなり甲子郎に右手で手刀を突きつけるが、甲子郎は見切って

嘉島の手首を左手掴むと、右手の銃を嘉島に向ける。

しかし今度は嘉島が甲子郎の右手を掴んでこう着状態にする。


「矢子!ここは俺に任せて、コウモリの方に行け!」

嘉島を押さえながら矢子に指示を出す甲子郎。

「そんな、一人になんてできません!」

慌てるように反論をするが、甲子郎は聞こうとしなかった。

「俺は大丈夫だ。それより蘭子は様子がおかしかったんだ、アイツ等の方が心配だろ!」

その言葉にグッと唇を噛み締める矢子。

甲子郎を一人にする事は心配だったが、

それ以上に蘭子たちを放っておく方が心配になる。

「・・・判りました、でも無理しないでください!」

苦渋の決断をして、コウモリの方角へ走る矢子。

「それで良い。」

後ろから嘉島に攻撃をされると警戒をし、嘉島を威圧するがその気配は感じられなかった。



「上手く足かせを外したな。」

ボソリと話しかける嘉島。矢子に気を配っていたことは気付かれていたようだ。

「フン、随分余裕じゃねぇか。

良いのか、簡単に逃がしちまって?本気を出せる状況にしたんだぞ?」


「・・・年端も行かないのだろう?」

その言葉に耳を疑い驚く甲子郎。

手を緩め、右足を突き出すような素振りを見せると、嘉島は後方へ飛ぶ。


「・・・わざと見逃したと言うのか?」

「いや、敵である以上潰させてもらう。

・・・だが無理に潰す必要はないだろう。」

「お前、一体何を考えているんだ!?」

「お喋りが過ぎたようだ。」

甲子郎が問いかけると、嘉島はスッと黙り込み、異様な殺気を放ち始める。


「・・・。」

何を考えているか理解できない甲子郎だったが、その様子から

今は戦うのみと判断をする。

「良いぜ、本気を見せてやる。」

そう言うと銃を懐にしまう甲子郎。武器をしまうという行動に嘉島は

一瞬疑問を抱く。


「面白い。」

お互いの視線がより激しくぶつかり始めると、周囲は只ならぬ空気に包まれ始めるのであった。

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