第十三話<敵として>-6
「・・・何かあったのですか?」
不安げに琴和の横で尋ねる櫻子。
今は買い物を簡単に済ませ、蘭子と三人で琴和の家で落ち着いている。
櫻子とはあらかじめ待ち合わせをしていたので
すれ違うことなく予定通りに合流できたのだが、
その時は取り乱していた後という事もあり
口数の少ない状態であった。
何とか平常心を保とうとしていた二人であったが、
どことなくぎこちなさが残っている。
それを櫻子は敏感に感じ取っていた。
「どうしたんですか?急に。」
ごまかすような笑顔を作って櫻子に質問し返す琴和。
しかし櫻子はその無理に気付き困惑をしてしまう。
それは心配で理由を知りたいという気持ちと
深く聞いてはいけないという気持ちがぶつかり合っているためだ。
「特に何もないよ。映画を見たら疲れただけ。」
蘭子がゲームをしながら言葉を割り込める。
櫻子が自分たちの様子がおかしいことを気にしていると
感付いたからである。
しかしそれ以上は詳しいことを話そうとしない蘭子。
心配を掛けたくない思い、そして口に出すことによって
改めて不安になりそうという思いからくる行動だった。
「別に喧嘩をしているわけじゃないよね?」
ポツリと尋ねる櫻子。
その質問はありえない事だと判ってはいたが、
会話の流れを終わらせるために使った言葉だった。
二人の様子から、今は触れないほうが良いことと確信した櫻子。
何があったのか聞いたことを後悔し、
「そんなことない」という台詞を貰う事で話を終わらせようとする。
「そんな事あるわけないじゃない。
喧嘩してたらココに来ないって。」
予定通りの反応を返す蘭子に「そうだね。」と返事をする櫻子。
そこで会話が途切れ、しばらく沈黙が続きそうな雰囲気になってくる。
と、その時にドアベルが鳴り響く。
琴和がドアを開けると「お邪魔します。」と
矢子が小さい声で挨拶をする。
部屋に入るなりハンガーに上着を掛けると、キョロキョロと辺りを見渡す。
普段と何か様子が違うことに気が付くからだ。活気が感じられない。
琴和をチラリと見ると、静かに台所の椅子に腰を掛ける。一方蘭子も元気がない様子だ。
妙な静けさを肌に感じるが、とりあえず蘭子の傍に座る矢子。
すると蘭子はガバっと矢子を引き寄せて強く抱きしめる。
「ちょ、ちょっと・・・一体どうしたんですか!?」
突然のことで慌てる矢子。だが抗おうとせず、
大人しくそのままにする。
「なんでもなーい。ちょっと疲れちゃっただけ。」
「は・・・はぁ。」
深く聞かない方が良いと思った矢子は
どうすることもせず、ただ蘭子の好きなようにさせることにした。
それは抱きしめられたペットのように、静かに癒しているようでもあった。




