第十三話<敵として>-5
映画が終わり、館から出て歩いている琴和と蘭子。
内容は二人組みの軍人が、戦場で追い込まれながらも
お互いを励ましあって生き残るものであった。
片方が挫けそうになったり、窮地に追い込まれると
片方が助ける。そういうことをお互いにやりあっていくうちに、
絶望的な状況から脱出するという面白い作りで満足する内容であった。
「面白かったね。」
上機嫌で話しかけてくる蘭子。
「そうだね、熱い友情の話だったな。
ああいうの好きだよ。」
賛同する琴和を見ると、蘭子は手を合わせて話を続ける。
「だよねー、かっこよかったよね。
お互いに『絶対生きろ!!』って叫びあっていたところなんか印象的だったよ。」
映画の内容について会話をし、余韻を楽しむ二人。
たまには素振りを簡単に真似てふざけあったりもする。
「ああいう映画が好きなの?」
「そうだね、動きがあるものが好きだよ。
何か影響されちゃいそう。」
「おいおい、見回りの時に変な真似するなよ。」
「まあそう言わない。
台詞くらいなら真似てもいいんじゃない?」
「台詞かよ。」
琴和が仕様が無いやつだというような笑顔でそう言うと
指で銃の形を作り、空を撃つ様に狙いを定める。
「Where there's a will, there's a way.」
彼女の言葉に反応し、「劇中の言葉だね?」と尋ねると
蘭子は顔の向きを琴和に向ける。
「意思があるところに道は開ける。
いい言葉じゃない。もし誰かが挫けそうになった時は
この言葉をかけて励ますのって良いんじゃない?」
微笑んでうなずく琴和。
その言葉は劇中で主人公が窮地に追い込まれ、絶望していた時に
相棒の友人が使った言葉だった。
言葉を聞いた主人公は諦めることをやめ、
強い意志を持って窮地を脱することになる。
「確かに、今の俺たちも映画のような窮地に立たされるかも
知れないから、その言葉はピッタリかもね。」
そう言うと蘭子は腕を後ろに組んでもう一言告げる。
「must be alive.
短いけどコレが私たちの全てだよね。
絶対生きろ。ただ事じゃない言葉だけど、
温かい言葉だよね。」
その反応に「そうだね。」と共感するように答えると
少し顔を傾けて蘭子を見つめる。
「何?」
視線に気付いた蘭子は不思議に思い問いかける。
「・・・いや、妙に英語の発音が上手いなって思ってさ。」
短い文章であったが、蘭子の英語を聴いていると
妙に上手だと感じていた琴和。彼女を見つめたのは
会話の内容に共感を持ったこともあるが、
英語の発音の上手さに関心をしたからであった。
「いやぁ、適当だよ。」
笑って照れを誤魔化そうとする蘭子。
「そんなことないだろ。
ひょっとして英会話とかやっていたの?」
あまりにも上手だったので詳しく聞こうとする琴和。
しかし、そう聞くと徐々に蘭子の表情は曇っていく
「何で私、英語が分かるんだろう・・・。」
「え?」
急に様子が変わったと感じた矢先に
謎めいたことを言う蘭子。琴和は当然戸惑う。
「どういうこと?」
不安そうな表情のまま固まる蘭子を覗き込むと、
ゆっくりと目を合わせてくる。
「・・・今思うと私、字幕を読んでいなくても英語が理解できていた。
でも私は英語の勉強なんてした記憶がない。」
「ちょっと待って、何を言っているのか良く分からないよ。」
「私だってよく分からない!でも今言ったことが全てなの!」
少し取り乱しつつある蘭子の様子に気付くと、琴和はとりあえず
落ち着かせるようにする。
「分かった、とにかくちょっと落ち着いて。」
両肩をガシッと両手で掴むと
一瞬ビクッとするが、少し落ち着く蘭子。
「何故か分からないけど、英語が理解出来た・・・か。
でも妙だね、その事に今まで気が付かなかったの?
普通に考えると英語を聞いた時に分かりそうだけど。」
首を縦に振る蘭子。
「うん、気が付かなかった。
本当にごく自然に頭に入っていたから。
今、私たちはごく自然に日本語で会話をしているでしょ?
それと同じ感覚だったのかもしれない。」
思い返すように考察を述べると、琴和は考え込むように会話を繋げる。
「だから気が付かなかった・・・か。」
「でも、どう考えても変だよね・・・。
正直ありえないし、意味が分からない。」
蘭子が不安そうにうつむくと、とにかく今は励まそうと考える琴和。
そこで先ほど会話に出た事もあり、映画の台詞はちょっとした冗談にもなるので
効果的なのではないかと考えた。
頭に次々と劇中の英語が流れる。その中から相応しい言葉を探す琴和。
しかし、次に流れた言葉は琴和の励ましではなく、怯えた蘭子の声であった。
「・・・どうしたの?」
不安そうにゆっくりと顔を上げて琴和の顔を見る蘭子。
それは、自分の両肩の上にある手が小さく震えていることに気が付いたからだ。
「・・・俺も一緒だ。」
「え?」
暗い声で琴和がつぶやくと、蘭子は驚いた後に「どういうこと?」と聞き返す。
「俺も・・・英語が理解出来ていた。
そして、今ここで話をしていなかったら
理解できたことに疑問を持たなかった。」
苦しそうに打ち明ける琴和。
「琴和君も勉強した事が無いのに英語が分かったの?」
怖いことを聴くように蘭子が質問をすると、
肩から手を離し黙って首を縦に振る。
しばらく黙り込む二人。
疑問に思うことは多くありそうなのだが、
混乱していて何も思いつかない。
今、頭の中ではありえない事への恐怖心のようなものが大きく占めている。
しかしその中でも、必死で落ち着かせて状況を整理しようとする琴和。
映画を見ていた時の事を思い返してみる。
「・・・気が付かなかったというより、気にならなかった。
こう言った方が自然な気がする。」
ぼそりと言う琴和。
よく分からない表現だとは思ったのだが、
今はそのくらいのことしか、頭に思い浮かばなかった。
「もうやめよう!」
突然、強く訴えかける蘭子。
「良いじゃない、英語が理解出来るなんて凄いじゃない。
別に損するものじゃないんだから、考えるの止めようよ。」
その口調から少し自棄になった雰囲気も感じられたが、
表情は今にも泣き出しそうなものであった。
彼女は自分自身への不安が押さえきれないのだと察知した琴和は、
一先ず蘭子を落ち着かせることが最優先と感じる。
そう思うと、他人の心配をしたせいか不思議と落ち着き始める琴和。
すると自然に言葉が出てくるようになる。
「そうだね、まあ何も害はないもんね。
とりあえず櫻子さんを探しに行こうか。今日の夕食、何にしようか?」
もうこの話題は流そうという方向に持っていくと、
蘭子は無理に気持ちを封じ込めて歩き始める。
そして「とりあえずスーパーに行って品物を見ながら考えよう。」
と提案をすると、無理に笑顔を作るのであった。




