第十二話<離れた地での約束>-5
「美味しいわねぇ、このお団子。」
民家の縁側で団子をご馳走になっている郁葉と旭。
チャージャが姿を消してから数分後、
郁葉は旭の手を引いて、この民家にやってきた。
話によると昨日、郁葉はここに住む老婆にお茶と団子をご馳走してもらえる
約束をしていたらしい。
「郁葉様、お茶のおかわりはどうですか?」
「ありがとう。でも、お婆ちゃんも一緒に食べてくれないといらない。」
「ふぉっふぉっふぉ、郁葉様は優しいですのう。
ですが婆はいっぱい食べたのでいらないのですよ。
ささ、郁葉様どうぞ。」
そう言いながらお茶を注ぎ足す老婆。
「有難う。それじゃあ今度、何か美味しいもの持ってくるね。」
「それは楽しみですじゃ。」
楽しそうに会話をする二人。一方旭は顔を曇らせていた。
チャージャのことを考えているためである。
「そんな顔じゃ、せっかくの美味しいお団子が台無しよ。」
何気なく言葉をかける郁葉。
「あの、何故私をここへ?」
聴きづらそうに旭は質問をすると、お茶をすする郁葉。
「そうねぇ、特に意味はないかな。」
「え?」
やや拍子抜けした旭を見ると小さく笑みを浮かべる郁葉。
「何でお婆ちゃんは私にお団子をご馳走してくれるか分かる?
私がカザーバの主だから?
見返りを期待しているから?
話し相手が欲しかったから?
それとも他の理由かしら?」
旭に問いかけるが、答えを出せずに黙り込んでしまう。
「答えは『特に意味は無い』よ。」
そう言うとニコッとして老婆を見る郁葉。それに答えるように老婆も微笑む。
「昨日お婆ちゃんは私を見かけた時、
次の日に団子が出来るから食べに来なさいと言ってくれたわ。
それは本当に何となく思った事、淀みの無い綺麗な提案。」
そう言うと旭に目を移す郁葉。
「これって優しさだよね?」
「・・・はい。」
少し戸惑いつつも肯定する旭。すると郁葉は話を続ける。
「でも、これが優しさって気が付きにくいよね?
何も意図が無いし、何も気が付かせようとしないから。
でも、気が付かないが故に安心して優しさに触れられる。
何でか分かる?
もし、この優しさに気付いちゃうと、おばあちゃんにお世話になっていると思い、
変に気を使ってしまうから。
これって少し良くないよね。せっかくの好意を気遣いで返すことになってしまう。
お婆ちゃんはそれを望んではいない。
お団子を美味しく食べてくれるだけ、それだけで良いと思っている。
そういう気持ちで出来ている優しさには、安心して触れられる。
気を使ってばかりだと疲れちゃうから。
だからこのお団子はとっても美味しい。
本当に無添加食品ね。」
郁葉の話す内容が謎めいている事もあり、
不思議そうに郁葉を見る旭。
「さてここで質問。
今アナタはお婆ちゃんの優しさを味わっていることに気付いたわけだけど、
それに対してどうするつもり?」
再び突然質問を振る郁葉に戸惑う旭。
「・・・今度、何か変わりの物を・・・。」
「それは望んでいないと分かっていても?」
「でも・・・。」
「申し訳ない?」
旭の心を見透かしたように確認を取ると、郁葉はお茶を一口すする。
「そうよね、もらってばかりは少し息苦しいものよね。」
そう言うと立ち上がり、庭の中央に立つ郁葉。
そして右手をスッと天に振りかざすと、
水滴のような粒が庭全体に散らばる。
宙を舞う粒は、それぞれが七色の光を放ち始め、幻想的な風景を表現し始めた。
老婆は手を合わせて、その光景をずっと見つめている。
その表情は、強い感動をしているようであった。
「じゃあここで置き換えて考えてみましょう。
アナタがお婆ちゃんで、チャージャが今のアナタ。
アナタはチャージャに色々してあげているわよね。
その優しさはこのお団子に良く似ている。
優しくする理由は考えれば言えるけど、
本質は『特に意味は無い』ものよね。
ただアナタが何となくそうしたいからやった事の積み重ね。
下心が無く、とても接しやすい優しさ。
だからチャージャはアナタには心を許している。
だけど彼は、アナタの優しさに気が付き始めた。
いえ、最初から気付いてはいたけど、最近になってそれに敏感になってきた。
だから申し訳なさが強くなってきた。
じゃあどうすればチャージャは安心できるかしら?」
手を後ろで組んで問いかける郁葉。
「さっきおっしゃっていたバランス・・・。」
そう答えると微笑む郁葉。すると旭は突然立ち上がる。
「私、チャージャを探しにいきます!」
すると突然東の方角を指差す郁葉。
「この方角にある川の畔に彼はいるわ。」
「有難うございます。ご馳走様でした。」
郁葉と老婆に礼をしてその場を立ち去る旭。
その姿は、少し慌ただしいものであった。




