第十二話<離れた地での約束>-3
「嘉島は、行きましたね。」
大広間で会合を開いているカザーバの重鎮たち。
広間にある布で仕切られた上座には人影が一つ見える。
「これだけ休養をとらせれば大丈夫でしょう。
正直なところ現地の活動に支障を来たしていますが
ここで嘉島を失うわけにはいきません。
十分価値のある支障ですね。」
40代の男性がそう述べると、20代の女性が全員に尋ね始める。
「ところで嘉島さんだけでよろしいのですか?
あちらは人員不足と聴きます。」
「先週、30名を現地に送り込んだ。これでも足りないというのか?」
一同をまとめている老人が視線をやると、うなずく女性。
「はい、増員といっても力の強い者はいなかったはず。
もし、人員が裂けないというのであれば私が向かっても良いという考えですが。」
「いや、お前が出る幕ではない。」
老人がそう言って制止すると、40前の女性が話し始める。
「ですが確かに力は足りていないかもしれませんね。
旭をこちらに戻してしまいましたし。」
「だがチャージャがあの様子だと戻さざるを得なかっただろう。
あの娘にしか懐いていないのだから。
旭がいないと怯えて仕方が無い。」
「チャージャの様子はどうなっている?」
「旭が福岡に戻ったことにより、今は落ち着いていますね。
それまでは誰かが話かけるだけで警戒したり、怯えたりして少し痛々しいものでしたが。
初めて会った時は我々の方がそういう状態でしたが、今は全く逆です。
きっと自らの力を失い姉も捕らわれ、さらには帰る術も絶たれたので
不安に包まれているのでしょう。」
「そうか、やはり旭を戻して正解だったな。
チャージャは我らが恩人。我らのために全てを失ったのだから
彼のために尽くすのは当然の成り行き。」
「それにしても何故チャージャは旭だけに心を許すのでしょうか?」
「それが分からないのですよね。姉に似ているというわけでもありませんし。
ただ、チャージャは物凄い感性の持ち主です。彼女に何かを見出したのかもしれません。」
「とにかく今のチャージャにとって、旭は必要ということですね。
ただ、何をするにしてもそばに旭が居ないと駄目なことは少々問題ですが。」
次々と意見を交わしていく重鎮たち。
「ところで、先ほど話に出た現地の力不足の件はどうします?
・・・元々は嘉島さんに近い者が現地に派遣されていましたが、
それを見直す時期が来たのかもしれません。
門井さんはともかく水瀬さんは、その才能故に強力な力を持っていますが、
カザーバに身を置いてから日が浅いです。経験も然程ないでしょう。
旭さんに関しては、確かに彼女の力は魅力的ですが、まだ15です。
チャージャの件が無くても危険な現地に向かわせる事は
良くないと思うのですが。」
静まり返る広間。そして老人が口を開く。
「もっともな意見かもしれんな。
嘉島が信頼できる部下で周りを固めたい気持ちも分かるが、
編成をし直す必要があるのかもしれん。」
その言葉が流れると、上座の人影はスッと立ち上がる。
「郁葉様、どちらへ?」
老人が尋ねると、布の隙間から12~3歳くらいの少女が姿を現す。
彼女の姿もチャージャと同様に異様であった。
巫女のような服装ではあったが、桃色の髪に紫色の瞳。
髪型は長い髪を後ろで二つに分け、
輪を作り縛っているという、変わったものであった。
そのせいというわけではないが、彼女からは何か大きな存在感を感じられる。
一斉に頭を下げる一同。その様子を見渡す少女。
色白で小柄な郁葉が、ゆっくりと歩き出すと高い綺麗な声で話し始める。
「そう畏まらないでと言っているでしょう。
私は貴方たちより偉いという気持ちはないのよ。」
「そういうわけには参りません。
郁葉様は我らの主。礼を持つのは当然でございます。」
そう言われると半ば諦めたような表情でその場を後にしようとする郁葉。
そして去り際に一言残す。
「編成に関しては入れ替えではなく、増援という形にしましょう。
修也も旭も良い人材よ。危険を伴うけど、経験を積ませる良い機会だわ。」
顔を上げる一同。その様子に気付いたのか、郁葉は再び歩き始め部屋を後にした。




