第一話<見えない櫻>-11
次の瞬間、犬は地面に叩きつけられていた。
襲い掛かった犬のアゴ下を、琴和は蹴り上げたのだ。
「え?」
琴和がそうつぶやく。何でこんな事が出来たのかが疑問だったからだ。
そう思っていると犬は再び立ち上がり、飛び掛ってきた。
琴和は一瞬気が緩んでいた。その隙を突かれたので行動が遅れてしまう。
その時、目の前で信じられないことが起こった。
蘭子が飛び蹴りを犬に浴びせたのである。
吹っ飛ぶ犬。綺麗に着地する蘭子。
「結構イケテルんじゃない?私たち。」
少しにやけて話しかける蘭子。
「く・・・楠木さん?」
「来ます!!」
犬が立ち上がろうとする。
しかしその様子は力なく、よろけている。
どうやら一発ずつ決めた蹴りが効いているようだ。
『今だ!』
琴和は勝機と感じ取り、犬に向かって走り出した。
そして渾身の力を籠めて、頭を蹴り上げた。
すると犬は倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「やったのか?」
少し息を切らしながら琴和は犬の様子を窺った。
「小田原さん!!」
走り寄って来る蘭子と櫻子。二人の方向を向く琴和
「大丈夫ですか?」
心配そうに聞く櫻子。それに笑顔で答えようとする琴和。
「ええ、大丈夫で・・・ぐっ!」
左手に激痛が走る。
どうやら大丈夫ではないようだ。
「ちょっと、全然大丈夫じゃないですよ!
家に来てください!手当てします。」
蘭子が慌てて言う。
「・・・そうしようかな。」
申し訳なさそうに言う琴和。
そして振り返り、もう一度犬を見ることにした。
「え!?」
琴和は一瞬自分の目を疑った。
そこには犬が倒れているのだが、
どう見ても普通の犬でしかなかった。
4つあると思っていた目が二つしかないように見える。
『ひょっとしたら、目が4つあると感じたのは錯覚だったのか?
お化けを見た影響で変なものに見えてしまっただけなのか?
すると、俺は化け物でもなんでもない、ただの犬を蹴り殺したのか・・・
かわいそうなことをしたかもしれない。』
急に罪悪感が沸いてきた。
「あの、小田原さん。冷えますし、とにかく移動しませんか?」
蘭子が小声で琴和に言った。
先ほどまでの勇ましさが消え、少し怖がっているような様子だった。
それを見て琴和は、とりあえず蘭子の家に行くことにした。
<第一話 見えない櫻 -終->




