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第一話<見えない櫻>-10

「そろそろ帰りましょうか。」

また始まりかけた沈黙を感じ取った蘭子がそう言った。

「そうですね、また連絡くださいね楠木さん。」

それに応じるように答える琴和。

正直色々ありすぎて頭がパンクしそうだった。

ここで引き上げていいのかという疑問もあったが、

これ以上は特に成果は出ないような気もした。


「それじゃあ小田原さん、今日は有難うございました。」

「あ、いえ、今度こそおやすみなさい。」

「バイバイ。」


今回の挨拶はすんなりいった。

そう思うと急に安堵感が湧き上がり思わず笑みがこぼれた。



目の前で擬似姉妹の二人が尋常ではない

怯えた様な表情をしていることに気が付いた。

二人はどうやら自分の背後に視線を向けているようである。



恐る恐る振り向く琴和。

すると背後には4mほど離れた場所に中型犬がいることに気が付く。


しかし、『なんだ、犬か。』とは到底思えないものがそこにはいた。

目が4つあるように見える。


「マジかよ・・・。」

目を凝らして良く見る、そして何度も確認する。

更にはそんなものは、ありえないだろうと

何度も自問自答、いや自分自身に言い聞かせている。


しかし目の前には4つ目の犬がこちらを睨んでいる。

今にも飛び掛ってきそうな様子で・・・。


『襲われる。』

脳裏にその言葉が思い浮かぶ。

公園には自分たち以外の人影はなく、助けは期待できそうにない。

そう気付いた時のことだった。


『速そう』

『逃げきれない』

『戦うべき』

『武器は無し』

『味方は一人』


急に頭が真っ白になった後に

言葉が次々と頭によぎる


「小田原さん!」

その櫻子の叫び声で、放心状態だった琴和は我に返った。

そして今、思い浮かんでいた言葉を思い出した。

『俺は今、逃げ切れそうにないから戦うべきと考えたのか?

確かに、犬から逃げ切れるなんて無理だよな・・・。

でも味方が一人って、まさか楠木さん?

何考えているんだ俺は・・・。』

そして琴和はあることを思いつく。


「楠木さん、俺が引き付けておきます。

その間に逃げてください。」

目線を犬から逸らしたら今にも飛び掛ってきそうだったので、

後ろは振り向かず提案をする琴和。

すると蘭子はつぶやき始めた。


「速そう」

「逃げきれない」

「戦うべき」

「武器は無し」

「味方は一人」


その言葉に琴和は驚かずにはいられなかった。

今自分が無意識に思い浮かんだことと

まったく同じ事を言っているではないか。


「蘭子ちゃん!蘭子ちゃん!」

自分と同じように放心状態の様子で

ただ立っている蘭子に必死で呼びかける櫻子。

すると蘭子はビクッっとして我に返る。

「え?あ、ゴメン・・・。」


どういうことだ?と少し思ったが

そのことを深く考える余裕はなかった。

とにかく今は目の前の何かをどうにかしなければならない。


「楠木さん、僕が引き付けます、そのうちに逃げてください。」

もう一度繰り返す琴和。

「でも、そうしたら小田原さんが!」

櫻子がその案を受け入れがたいといった様子で

反論した。

「僕は大丈夫です。早く!」

そう琴和が言うと、蘭子は正反対の行動を取った。

琴和の隣に前進してきたのである。


「一人で戦うより、二人の方が生存率はアップだと思いませんか?」

本来ならば追い返す場面だった。

しかし琴和は何故かその通りだと感じてしまう。

『ちょっと待て、何を考えているんだ俺は!?』

今度は直ぐに正気に返った。

その時である。


「小田原さん!!」

櫻子が叫んだと思ったら、犬はすでに琴和の目の前まで

飛び掛っていた。


「!?」

とっさの判断で蘭子を突き飛ばし、自分も犬の攻撃を避ける。

その時にバランスを崩して琴和は転倒しそうになる。

そこで左手をついて、打ち付けられることを避けたが、

強打のため痛めてしまった。


「小田原さん!」

蘭子が呼びかける。どうやら彼女は無事のようだ。

その様子を確認すると、立ち上がろうとする琴和。

「痛!」

左手に激痛が走り、立ち上がりの動作が一時止まる。

すると犬が再び琴和に襲い掛かる。


「小田原さん!」

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