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第十一話<調(しらべ)>-12

15畳ほどの静まりきった会議室には修也の姿がある。

部分的にしか電気を点けていないために部屋は

薄暗くなっており、視覚的にも静けさを感じさせていた。


彼は複数枚のレポートを片肘を付いてボーッと読んでいる。

その表情は少し曇っており、内容は喜ばしいものとは到底思えるものではなかった。

読み間違いであって欲しいという思いからか、既に内容は知っているのだが、何度も読み返す修也。

しかし何度見ても文面は変わる事は無かった。


そのように半ば虚しい事をやっていると、足音が近づいてくることに気が付く。

だが特に警戒をすることはなく、そのままの状態で事柄を流そうとする。

しかし足音は部屋の前で停まり、ノックする音に切り替わる。どうやら流してはもらえないようだ。


「ここにいたのね、探したわよ。」

扉が開くと、そこには門井の姿がある。

ゆっくりと近づき、前の席に着くと振り向き修也の顔を見る。


「どうしちゃったの?この肝心な時に上の空で。」

レポートを閉じる修也。そして軽くため息をつく。

「分かってはいたんですよね、ある程度気付かれているとは。

でも、まさかここまで気付かれているのは想定外でしたよ。

それでひょっとしたら、もっと多くのことが禦や村雲にばれているのではないかと

不安になりましてね。」


天上を見上げる門井。

「そうね、正直私も驚いたわ。まさか引き金の術に感付いていたなんてね。」


「昨日捕らえた村雲の研究員は、あれから何か話しましたか?」

「いえ、そのレポートに書いてあることが全てよ。

物凄く怯えていたわ。だからすんなり話してくれて助かったわね。

あの様子だと、これ以上は何も知らないかもね。」


門井が修也の方に顔を向けると、修也は下を向いてため息をする。

「昨夜は驚きましたよ。時間前なのに術が放たれて

ヤンカが目覚めたのですから。」

「ええ、慌てて術の発信源に駆けつけたわよ。相手に戦闘能力が無くて助かったわ。」

「でも術を辿れて良かったですよね。もし少し応用を効かされていたら、捕まえられませんでした。」

「そうね、あの術は予め術を施した動物をヤンカとして目覚めさせるためのもの。

その引き金は誰にも悟られること無く引く必要があるから、

人では感知出来ないほどの、ごく微量の呪術を大地に流すだけにしている。

それを感知するための呪札が、村雲の術にも有効で助かったわ。」

「だけど、よく村雲はこちらの術を毎晩観測できましたよね。

レポートによると、

地面に観測用の装置を仕掛けることによって毎晩術のサンプルを取っていたとありますが、

こんなものが簡単に出来るとは思えません。」

「・・・ひょっとしたら理才が絡んでいるのかもしれないわ。」

「理才・・・ですか?確かにそれならば装置を作れるかもしれませんね。

捕虜をもう少し搾り上げてみますか?」

「いえ、今は止めましょう。情報を引き出すには脅すだけがやり方じゃないわ。

こちらを信用させることも方法の一つよ。」

「なるほど、僕にはそういう駆け引きは向いていないようですね。」


参ったという表情で再びレポートを開く修也。

ため息を一つつくと、再び門井に話題を振る。

「でも困りましたよね。実験をした人間を捕まえたとしても、

村雲は研究員が術を試しに行った事は知っているでしょうし、

昨夜はヤンカの出現が早かった事は気付いているでしょう。

その二つから、捕虜が研究していた術はヤンカの引き金という事実に辿り着くのは容易です。

そこからヤンカの秘密を探られる可能性もありますし、

逆に利用される可能性もあります。」


「そう、だから今日はヤンカを放つのは中止よ。

嘉島さんから連絡があったわ。」

「嘉島さんから?」

「ええ、それと明日にはこっちに戻るそうよ。」

「本当ですか?」

「嘘をついてどうするのよ。

嘉島さん自身も捕虜と話をしたいようよ。

供述によると、どうも術の存在を知ったのは

20日ほど前に嘉島さんが行った術の実験を感知したことがきっかけらしいからね。」

「確かあの時は術の出力を上げて、ヤンカに与えた命令を変化させる実験でした。

あの日は大変でしたよ。その術を辿って禦が嗅ぎつけてきたのですから。」

「だけどそれだけでは終わらなかったということが今回の件ね。

幸い村雲は情報の閉鎖が凄いようで、研究の内容を知るものはごく一部だそうよ。

だから禦どころか村雲内部でも知れ渡っていないということは救いといったところかしら。」

「そうですね。

でも良かった、嘉島さんが戻ってくるんですね。

どうにかなりそうな気がしてきましたよ。」

「ええ、まさかの指揮官が長期不在だったからね。私たちは良くやった方よ。」

そう言うと立ち上がる門井。その言葉に反応するかのように、

少し安心したような表情を見せる修也だった。

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