第十一話<調(しらべ)>-11
「ちょっと何やっているの!?」
18:30を時計が指した頃、蘭子が突然琴和の家の扉を開けて
飛び込んでくる。
いきなりの事で驚いて蘭子を見る三人。
一方彼女は慌てている様子だ。
「・・・どうしたの?」
少しおどおどした様子で琴和が尋ねると、蘭子は大きめの声で訴える。
「どうしたのじゃないわよ!換気扇から尋常じゃない量の煙が湧き出ているじゃない!!
それにこの部屋だって煙がすごいし!」
手で煙を払いながら台所を見ると、甲子郎が何かを焼いている。
「よお、お疲れさん。」
「一体何やってるんですか!?」
マイペースで挨拶をする甲子郎、一方蘭子は慌てた様子で近づく。
「料理だ料理。ちょっと待ってろ。」
「料理って・・・。」
その時、皿の上に何かが載っている事に気が付く蘭子。
一瞬不気味に思えたが、とりあえずつまんでみる事にする。
「辛!!」
凄まじい形相に変わる蘭子。本当に辛いようだ。
「おいおい、行儀悪いな。いいからあっちで待ってろ。
もう暫く掛かるから。」
リアクションなど関係無しに平然と言う甲子郎。
その様子を見ると蘭子は夕飯の味を諦めたのか肩を落として琴和を見る。
「何で甲子郎さんが作っているの?」
「え、ああ、食料品を買いに行く前に甲子郎さんと矢子ちゃんに会ってね。
そこで今日は夕食を作ってもらうことになったんだよ。」
少し困ったように琴和が言うと、蘭子が不思議そうな顔をする。
「え?なんでそんなところで二人に会ったの?」
「何でも矢子ちゃんが服を買うのに付き合っていたらしいよ。」
部屋に居る矢子を指差す琴和。それに合わせて視線を移動すると、
着替えていた矢子の姿が目に入った。
「やー、かわいい!」
小走りで矢子に近づくと抱きしめる蘭子。
「ちょっと、蘭子さん!」
すると照れるように矢子が声を上げるが、少し楽しそうであった。
「ん!?何かいい匂いがする!」
「おう、今日の料理は絶品だぞ。」
「そっちじゃないです!!」
台所から甲子郎がにやけて話しかけると突っ込みを入れる蘭子。
すると矢子が恥ずかしそうに香水を取り出す。
「これ、付けてみたんです。」
「へー!いいじゃない、いいじゃない!ついに香水に手を出したのねー。」
「あ、でもこれ私の予定ではなくって、甲子郎さんがくれたもので・・・。」
「は?」
一瞬固まる蘭子。そして何があったのか理解が出来ないといった表情で
甲子郎を見る。それを見ると『やっぱそうなるよな。』と琴和はうなずく。
「あの・・・変でしょうか?」
矢子が尋ねると、蘭子は振り返り満面の笑みを見せる。
「ううん、凄い合ってる。これからの季節にもピッタリな香りだよね。」
そう言われると嬉しそうな表情を見せる矢子。
気が付くと、家に蘭子が来たことによって賑わいを見せるようになっていた。
「元気が戻ってきたようですね。」
台所のそばに立って琴和が櫻子に話しかける。
騒ぎが続きっぱなしで櫻子が家に入ってきたことは目立たなかったが、
琴和は挨拶まできちんと済ませていた。
「はい、みなさんのお陰ですね。」
おっとりとした様子で櫻子が答えると、琴和は首を振る。
「いえ、僕たちは何も・・・蘭子自身が強いんですよ。
見習わないといけませんね。」
その時、スッと櫻子の表情が曇り始める。
「でも、無理して強がっているのかもしれません。」
蘭子には聞こえないくらいの小さい声で寂しそうに言う櫻子。
すると琴和も小さい声を放つ。
「確かにそうかもしれません。
でも強がれるのも強さのうちです。やっぱり凄いですよ、アイツは。
・・・僕たちもいるんです。いざという時は力になるつもりですから、
そんなに心配しないでください。」
櫻子の心配を少しでも和らげればと思い琴和がそう言うと、
櫻子は「有難うございます。」と頭を下げる。
「何コソコソ話してるの?」
蘭子が矢子を抱きしめながら話しかけてくる。
「何でもないよ。それよりそろそろテーブルを出そう。
料理が出来そうだ。」
「・・・本当に食べられるの?」
疑いの目で聞く蘭子。
「いや、俺に聞かれても・・・。」
「うるせーな、いいからさっさとテーブルを出せ。」
返答に困った琴和は甲子郎をチラリと見ると
不機嫌そうに甲子郎がぼやく。
「しょうがないなぁ、よし、テーブルを出そっか。」
「はい。」
それを聞いた蘭子は矢子に話を持ちかけて、テーブルを部屋の中央へ運び始める。
物凄い煙を見てから、あまり期待をしていない様子ではあったが
それはそれで楽しそうな雰囲気を出す蘭子であった。




