第十一話<調(しらべ)>-8
ショッピングモールの中央にある広場には
一本の大木が周囲を見守るようにそびえ立っている。
その周りは柵で仕切られているが、周りには白いベンチが並んでいる。
甲子郎はそこのベンチに座り携帯でネット検索をしていた。
「悪いな、急に呼び出して。」
スッと隣に座る気配を感じる。早間だ。
「何があったんだ?」
早速質問をすると、早間は手を組む。
「・・・昨夜、村雲呪術研の研究員が行方不明になった。
何か情報はあるか?」
少し驚いた様子の甲子郎は早間の方に顔を向ける。
「そんなことがあったのか!?」
「やっぱり知らないか・・・。」
案の定といった様子の早間。
「やっぱり?」
「ああ、村雲は秘密主義だからな。今回の件は内々に片付けるつもりだろう。」
「おいおい、禦に隠し事は禁止しているはずだぞ。」
「報告するまでも無い些細なこととして処理されるさ、きっと。
・・・まあもみ消しと言った方が良いかもしれないが。」
下をうつむき、話を続ける早間。
「今日、俺はその行方不明の人間の捜索に駆り出された。
その中で、そいつが研究していた内容が失踪に関係があるようだから
深く調べようとしたんだ。
するとだ、その行為を知られた途端に捜索から下ろされた。」
顔を少し向け、甲子郎に視線を移す早間。
「どうやらその研究員は
カザーバの術を発見して、昨夜試したらしい。」
「なんだと!?」
予想外といった表情の甲子郎。
「なんでも20日程前に、カザーバの術を発見したと言ってから、
ずっと解析をしたり、毎晩サンプルを取りに行っていたらしい。
そして昨夜、解析した結果を術として試しに行ったきり行方が分からなくなったそうだ。
得た情報は少なく、解析の内容やサンプルの内容等、具体的には分からないが
カザーバが絡んでいることは間違いなさそうだ。」
「他に分かったことは?」
「そうだな、行方不明者の車と、向かったと思われる林を発見した。
車内は荒らされた様子は無かったから
林に入ろうとしたところで、うちの怖そうな捜査員がこれ以上探るなと言ってきてね。
後はもう分からないな。」
アゴに手を当てる甲子郎。何かを考えている様子だった。
「20日程前か・・・一度だけ一瞬地面に術が走る事を感じた時がある。
その痕跡を辿って行ったら嘉島と遭遇した。
それ以来地面に術が走る事を感じたことは無いが、
ひょっとしたらその研究員はあの時の術を拾ったのかもしれないな。
それを解析したのかもしれない。」
「20日前にそんな事があったのか?
じゃあ毎晩取りに行っていたサンプルというのも術のことか?
でもそれ以来術は感じなかったんだよな?」
「ああ、俺だけじゃなく他の局員も感じていないそうだ。」
「そうか・・・じゃあサンプルに関してはもう少し違うものなのかもしれないな。
ところで、20日前の術の効果は何なんだ?」
「詳しくは分からん。ただ、その術が放たれた途端、
大人しかった怪物が急に獰猛になって襲い掛かってきた。」
「大人しかった怪物・・・だと?」
「ああ、あの日が初めて怪物に遭った時なんだが、
初めは大人しい異型の犬だったんだ。
だが、術が走った途端に獰猛になりやがった。」
「すると、その術が引き金になった?」
「そう考えるのが妥当だな。だが、それ以後に遭った怪物は
初めから獰猛だった。術も感じることが出来なかった事もあって共通性が無いんだ。」
「・・・ひょっとしたらカザーバも色々と実験をしているのかもしれない。
だから共通性が無いんじゃないか?
毎回違う形の怪物が出てくる理由もそこかもしれない。」
早間の思いつきを聞くと、甲子郎は納得をする。
「なるほどね、それはあるかもしれないな。
だが、目的がいまいち掴めないな。」
上を見上げる甲子郎。そして早間は再びうつむく。
「なあ、この件は誰にも言わないでくれ。
お前自身も探らないでくれ。」
「何でだ?」
「16年前の事件で村雲の体質は変わった。
だが今回の件といい、不審な部分が見えてきた気がする。
ひょっとしたらそれは不審じゃなく、単なる思い込みなのかもしれないけど、
もう少し探ってみようと思う。
だから今、浅瀬の部分で騒ぎが起きて重要な部分をより深い場所に隠されたら困る。」
寂しそうな顔を見せる早間。
「それにあの事件から
村雲に指導という名目で多くの禦の局員が
流れ込んできたんだ。メインコンピューターに忍び込んだ時にも
元禦局員のリストをいくつも見た。
・・・ひょっとしたら、禦の内部と通じている人がいるかもしれない。
下手に動くと、内通者にお前が潰される可能性もある。
ひょっとしたらナギ姉にまで・・・。」
「もう茜の二の舞は嫌なんだ。」
「・・・分かったよ。」
ポケットに手を突っ込んで甲子郎がそう言うと、早間は安心したような顔を見せる。
「もうこの話は終わりだ。お前、今携帯で何見ていたんだ?」
話を切り替える早間。すると何事も無かったかのように反応する甲子郎。
「ああ、実は矢子の買い物に付き合っていてな、ここら辺の服屋にいたんだ。」
「だから早く来れたのか。」
「そういうことだ。だが付いていったのは良いが、話が良く分からなくてな、
若い女のオシャレなんてついていけないぜ。」
「で、ネットでお勉強か。」
馬鹿にしたように笑う早間。
「うるせーな。そんなんじゃねえよ。
お前のせいで途中抜けしたからな、穴埋めに何か買っていこうと思って、
どんなのが良いのか探していたんだ。」
すると早間は携帯を取り出し操作を始める。
「そうだな、香水なんて良いんじゃないか?」
「んぁ?香水?バカ言うんじゃねえ、どんなマセガキだよ。」
「おいおい、そんな言い方すると思春期の女の子に反感を買うぞ。
それに香水くらい普通だろ?」
「そうかぁ?大体どんな匂いをさせる気だよ?」
「・・・茜はオレンジが好きだった。」
「・・・・・・。」
固まる甲子郎だったが、突然携帯にメールが入る。
「今、お勧めの香水が載っているページのアドレスを送ったよ。
それを参考にして買いに行きな。」
立ち上がる早間。そして「じゃあな。」と言い残し去っていった。
何か言おうとしたが言えなかった甲子郎。
彼の背中が消えることを確認すると、紹介されたページをボーっと眺めていた。




