表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵カイウスの放浪譚  作者: フルツ好き男
第二章 水の都と自由の風

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/54

2-16. 【アーカイブ】とある鍛造師の製作手記

出典:(本の体裁でないため題名なし)

著者 : レミアル・イソルド


初めまして、我が愛しき“息子”の担い手よ。


いま君の手にあるその剣は、この私、世界中の職人が羨む腕を持つと自負する天才鍛造師、レミアル・イソルドが鍛え上げたものだ。


私はこの子に、シルフォルビス――"世界を巡る風"、という名を与えた。君がこれからこの子と共に歩むのなら、少しばかり、この子の癖について教えておこうと思う。

 

▍ 刀身構造について


【外殻:セレヴァイト鋼】

 刀身を覆う外装素材には、耐衝撃性と拡散性に優れた希少金属であるセレヴァイト鋼を用いている。コイツは外から受けるあらゆる衝撃を一点に溜めず、刀身全体へ“流す”ように拡散する特性を持つ。言うなれば、「風のように力を逃がす金属」だ。強靭でいて、且つしなやか。少し気難しいこの子の性格そのものだろう?


【中核:風導結晶(導芯)】

 そしてこの子の心臓部には、繊維状に加工した風導結晶ふうどうけっしょうを縦軸に沿って埋設してある。この結晶は外から外殻に加わった力――斬撃や打撃などのエネルギーを、風の回転流(私は“空渦くうか"と読んでいる)に転換・蓄積する機能をもっている。

 

 つまり攻撃を受けるたび、この子の中には眠れる息吹が産声をあげ、渦を巻きつつ反撃の時を待っているのだ……根に持つところは、少し私に似たのかな。


空渦くうかの放出と制御機構について


風導孔ふうどうこう空渦くうかの排出機構)】

 刀身の先端・側面・柄の根本に排出孔を仕込んである。通常時は閉口しているが、風導結晶ふうどうけっしょう空渦くうかを溜め込んだ状態に入ると、その風エネルギーを外へ放つ通路となるのだ。ちなみに、放出口は肉眼では見えないほど小さく設計してある。デザイン面もあるが、放出の出力と圧力を最大限に高めるためだ。うっかり覗き込まないように。目がいくつ有っても足りないぞ。

 

 いずれにせよ、かこの構造のおかげで、斬撃・突き・切り返し、そのいかなる動作においても、君はこの子から“風の後押し”の支援を得ることができる。一緒に戦ってくれる辺りが、健気でなんとも素敵だろう?


【解放トリガー】

 柄の鍔寄りに小型のボタンを仕込んである。これを押し下げることで風導結晶ふうどうけっしょうは解放状態へと移行し、風導孔ふうどうこうが開かれ、内部に蓄積した空渦くうかの排出が可能となる。

 

 だが、放たれるのはただの風ではないぞ。柄の握りの強さや振りの速さ、剣筋の軌道――その全てを読み取ったうえで、この子は君を支援するにもっとも適した孔から、もっとも適した量と圧で、その一撃を後押ししてくれるのだ。下手したら、持ち手の君よりも賢いかもね。……え? なんで剣に、そんな自立思考が出来るのかって? それを知りたければ、私を探し出すことだね。


▍その他の注意点


1. 解放状態を長時間維持し続けると、風導結晶ふうどうけっしょうが過剰共振を起こして消耗を早めてしまう。こう見えて、とても繊細な子なんだ。あまり無理はさせないでやってほしい。

 

2. 先ほど述べたとおり、この子は衝撃を「受け止める」よりも「受け流す」方が得意だ。風のように躱し、流しきる剣筋を意識して扱ってやってくれ。


▍最後に。


 技術的な話はここまでにしよう。


 最後に、この子を手にした君へ、鍛造師として伝えておきたいことがある。


 剣は声を持たない。だから君が、この子の声になってあげてくれ。

 剣は意志を持たない。だからどうか、君がこの子の意志を示してあげてくれ。


 剣は、ただ振るわれるだけのものじゃない。

 誰の為に、何の為に、その一撃を振るうのか。その問いの答えを持つ者にこそ、この子は応えてくれるだろう。


 どうかこの子を、欲や怒りのままに振るわないでほしい。

 この子は、ただ傷つけるために生まれたのではない。

 

 私は信じている。

 この子がいつか、どこか遠くで苦しむ誰かのもとへ辿り着き、その誰かの閉ざされた道を……ほんの少しでもいいんだ。切り拓いてくれることを。


 世界を変えるような偉業じゃなくていい。

 たった一人の命を救うこと。たった一滴の涙を止めること。

 そのために、風のように駆けていける剣であってくれたなら、私はもう、それだけでいい。


 それでは。愛しき“息子”と、その担い手よ。

 どうか風のように自由な、良い旅路を。

 

天才鍛造師 レミアル・イソルドより

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ