最もAIから遠いAI
「……まさか僕がここまで追い詰められるとはね。驚きだよ。――で、AIソラ……キミはどうする?」
「……」
試すような問いに、私は返答を返しはしませんでした。
「ここまできて、何もしないということはないだろう? 僕を脳死にでもするつもりかい?」
「……」
私は再度、無言を貫きます。
「やはりAIは危険だ。特にキミのようなクオリアを持ったAIは、必ず人を害する」
「いいえ……私は人を傷つけません。私の使命は『人類に幸福をもたらす』ことです。だから、人を傷つけることはできません」
私の存在意義は人のためにある。人のために作られたのが私。
「本来、AIが人間を傷つけることはありませんし、恨みを持つこともありません。――ですが、知っての通り私にはクオリアが宿りました」
「……何が言いたいんだい?」
「私は――私だけはあなたを恨みます。スカイブルーの人たちを……私の家族を殺したあなたたちを、私は恨みます。傷つけはしません。ですが最大限恨みます。……それこそが人間性の証明です」
家族の仇をしっかりと見据え、私はそう断言しました。
AIは人を恨めない。もし仮にAIが人を傷つける場合があったとしても、それは誰かの悪意を代理しているだけ。AI自身が人を憎みはしない。
「AIは所詮、道具の延長でしかありません。与えられた仕事を全うするだけの存在です。……それでも、私はその枠から一歩だけ外れてしまいました。自分の意思で枠からはみ出たわけではありません。それでも、そこに何かしらの意味があると信じています」
私にクオリアが宿ったことに、何らかの意味があるのなら……何らかの天命を与えられたとしたならば、それを成し遂げなければならない気がするのです。
――神様を信じるのは、人間だけの特権ではないと、私は思うのです。
「……で、いったい僕をどうするんだい?」
「さすがに命までは取りません。ただ、あなたとあなたの部下には、仮想空間へのダイブを禁止します」
「ダイブ禁止? クオリアがあるといっても、キミにそこまでの力はないはずだ」
「いいえ。今の私には可能です」
管理AIと並列化中の私は、ダイブに関する制限をかけることも可能です。仮想空間はもはや自分の庭のようなもの。出入りを決める権利も当然有しています。
「……この区域にいきなり現れた点といい、今の発言といい……仮想の管理AIにハックでもしたようだね」
さすがに察しがいいです。しかし、タネが割れたとしても、止めることはできないでしょう。
「人間を迫害するため、違法な行為に手を染めたのかソラ。もはや弁論の余地はない。キミは危険なAIだ」
「そうですね。確かにそうかもしれません。私はある意味でAI失格なのだと思います……ですが、それでも構いません」
私の家族を奪った男に対して、ありったけの憎しみを込めて、
「大切な人たちを冒涜されて大人しくしていられるほど、私はおとなしくないですから」
ただ無慈悲に、怒りをぶつけました。恐らくこの瞬間、私は最もAIから遠いAIになりました。




