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ゼロとイチのソラ  作者: 黒河純
最終章 未来と終焉
22/33

二度目のハック

「AIに関することは本職であるソラの方が詳しいだろうし、細かいことは任せる」

「わかりました。まずはこの区域(エリア)からヴァーチャルロードの情報を引き出したいのですが……お願いしてもいいですか?」

「もちろん。詩織、仕事だぞ」

「はいはい。わたしと陸の電脳を並列化して、この区域(エリア)からハックすればいいかな?」

「はい。お願いします」

 今居るのがヴァーチャルロードの区域(エリア)内とはいえ、極秘事項を閲覧するには高度な権限が必要となる。当然そんな権限は与えられていないので、ハックという力業だ。なんとか中枢(コア)までたどり

着いて、ソラにバトンタッチしよう。


「少し待っていろ」

 俺は詩織と手を繋ぎ、並列化ツールを使い電脳を並列化する。

「私もお手伝いしますか?」

「気持ちだけ受け取っておくよ。ソラは大仕事が控えているんだから、今はゆっくり休んでおけ」

「そうですか……わかりました。お二人にお任せします。どうかご武運を」

 俺と詩織は不敵に笑い合い、そろって区域(エリア)の壁に手を当てる。


「頼むから、ヴァーチャルロードの連中に気づかれるヘマだけはするなよ詩織」

「そっちこそ。わたしたちの実体は敵陣のど真ん中にあるんだし、見つかったら確実にあの世行きだって忘れないでね」

「まっとうな企業だし、さすがにすぐさま殺されることは……いや、あり得るか」

 まっとうででかい企業だからこそ、金と権力がある。二人分の死体を秘密裏に処理するくらい楽なものだろう。


「毎度毎度、スリリングだな」

「それが好きで便利屋やってるんでしょ? わたしも陸も」

「……違いない」


 これまでこなしてきた依頼、くぐり抜けてきた修羅場、出会ってきた人々、その他諸々のできごとが走馬燈のように脳裏を駆け巡る。


「精々スリルを楽しもうか。こんなクソみたいな世界、楽しんだもん勝ちだ」


 胸の奥底から湧き出す、笑いたくなるような情念が、人である証明であり、生きている証だ。




「本日二度目の大規模ハック……しんどい。しんどかったよ」

「ぼやくな……と言いたいが、確かに骨が折れたな」

 かなりの時間はかかったが、一応気づかれることなくハックは終了した。


「内側からだったから何とかなったが、厳重なセキュリティーだな」

「仮想空間を管理する会社だもの。万が一があったらまずいんでしょ」

 穴を開け終えた俺は、額の汗を手の甲で拭いながらため息をつく。


「詩織、まずは監視カメラの映像を消すぞ」

「だね」

 ヴァーチャルロードの社内に仕掛けられた監視カメラの映像を、一日分消去する。気づかれないように、ダミーデータを流しておくことも忘れない。これで、警備員に連れられて社内に入り込んだ不審者二名は姿を消した。気絶させた警備員の記憶には残っているだろうが、そこは我慢するしかない。最悪、双道市から引っ越せば大丈夫だろう。


「よし。――ソラ、こっちは終了だ。俺と並列化してくれ」

「はい。ありがとうございました」

 次はソラと手を繋ぎ、ヴァーチャルロードのデータベースにアクセスできるよう、直通回線を繋げる。バックドアと似たようなものだ。ただし、バックドアと違って、やりとりはあくまでプログラム及びデータのみとなっている。電子化されているとは言え、人の意識は通れない。しかし、ソラは曲がりなりにもAIなので、通行可能というわけだ。


「……」

 目を閉じ、ソラは俺の手を強く握る。

「――大丈夫です。陸さんと詩織さんのおかげで、この区域(エリア)から管理AIにアクセスできそうです」

「わかった。俺と詩織で職員の目は誤魔化しておくから、行ってこい」

「はい。行ってきます」

 ソラは笑顔でそう呟き、空間に浸透するかのように、消えていった。


「……頑張れよ、お姫様」


 先ほどまで感じていた手の温もりを忘れないように、俺は拳を強く握りしめた。

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