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ゼロとイチのソラ  作者: 黒河純
最終章 未来と終焉
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並列

「あれ? 陸さん?」

 自分のプライベート区域(エリア)まで移動した俺を出迎えたのは、当然ソラだ。見たところ、区域(エリア)が荒らされている様子も、ソラが怪我をしている様子もない。何とか間に合ったようだ。


「待たせたな。平気か?」

「ええ、私は元気ですけど……一体どこから?」

 ソラからすれば、俺は何もない空間から突如現れたように見えただろう。不思議そうに辺りを見渡している。


「バックドアを作った。これなら、ジャマーが張ってあっても移動が可能だからな。知っているか?」

区域(エリア)区域(エリア)を非正規の方法で繋ぐ裏道、ですよね。存在は知っていますが、見るのは初めてです。……どこに繋がっているんですか?」

「行ってみてのお楽しみだ。今バックドアのアドレスを送る。これでソラも通れるはずだ」

「ええと――あ、はい。見えるようになりました」

 よし。少し不安だったが、AIでも普通に活用できるようだ。


「それじゃあ、お嬢さん――行きましょうか」

 俺は戸惑うソラの手を取り、電子の扉を開け放つ。

 この先が、ソラの救いになることを願って。




 ソラと一緒に戻ってきたヴァーチャルロードの区域(エリア)では、詩織が暇そうに俺たちを待っていた。

「あ、やっときた。さ、早く早く」

「詩織さん? ええと、ここは……」

 戸惑いつつ、周囲を見渡すソラ。さすがに、ヴァーチャルロードの区域(エリア)までは見覚えがないようだ。まあ、倉庫のような区域(エリア)だし当然か。


「仮想空間を管理している大企業『ヴァーチャルロード』が所有している区域(エリア)だ。ほとんど使われていない古い区域(エリア)だがな」

「ヴァーチャルロードって、あのヴァーチャルロードですか!?」

 ソラは目を白黒させ、怯えたようにキョロキョロする。俺のプライベート区域(エリア)からこんなところに飛ばされれば、こんな反応にもなるだろう。


「安心しろ。他に人は居ないし、危険はない……今のところはな」

「よ、よくここまでのバックドアを作成できましたね」

「わたしと陸で現実(リアル)のヴァーチャルロードに侵入して、そこにあったコンソールからダイブしたんだよ。で、今まで陸と一緒にハックしてたわけさ」

 大変だったなぁ、と呟きながら、詩織は一人でうんうん頷いていた。


「ず、ずいぶんと大がかりな計画を立てていたんですね。――でも、お二人はなぜここに?」

「ちょっとした実験……といったら変だが、試してみたいことがあってな」

「実験……ですか?」

「そうだ。ソラがAIだということを逆手に取った実験。たぶんうまくいく」

「はぁ……それで、具体的にどんなことをするんですか?」

「簡単に説明するなら――」



 俺の説明を聞き終えたソラは、しばし呆然としていた。

「仮想の管理AIと私を、ダイレクトコネクト?」

「そうだ。お前を管理AIと……並列化させる」


 ――これが俺の考えた作戦だ。


 AI撲滅班(アイギス)の能力は侮れない。俺のプライベート区域(エリア)まで特定し、侵入一歩手前まで許したのはやつらが初だ。このままどこかに籠城していては、いつか捕まってしまう恐れもある。例え依頼内容が防衛だとしても、攻め込む準備が必要だ。 

 しかし、AI撲滅班(アイギス)と対するのに、俺と詩織だけでは力不足だ。やつらの先を行く、大きな一手を講じる必要がある。そのための方法が、仮想の管理AIとソラを並列化させるというものだ。


「ソラを俺たち(にんげん)より一歩上への存在へと押し上げる。そうすることで、絶対的なアドバンテージを握ろうってわけだ」

 仮想空間は複数のAIによって管理されている。その中の一つにソラを参列させることができれば、ソラは仮想における『管理者権限』を有することができる。それはつまり、仮想空間において神になることとイコールだ。

 もしそうなれば、AI撲滅班(アイギス)に悩まされる心配もない。やつらを仮想にダイブできなくすることだって朝飯前だ。


「例えクオリアが備わっていたとしても、お前はAIだ。そこを逆手に取る」

「わたしは詳しく知らないけど、全てのAIには『並列AIプロトコル』が備わっているんでしょ? ソラちゃんにもあるよね?」

 並列AIプロトコル――AIには緊急時に備えて、即座に並列化するための手順(プロトコル)が標準で組み込まれている。


 用途の違うAIが知能を共有することで問題を解決する。そのために必要なのが並列AIプロトコルだ。

 例えば、事故で怪我をした人間が居たとする。その人間の隣に調理AI搭載のロボットがいたとしても、適切な怪我の治療はできない。そう言った場合、ネット経由で治療専用のAIと並列化することで、怪我人の治療が行えるようになる。ロボットは包丁の握り方ではなく、包帯の巻き方を即座に習得することができるのだ。

 他のAIとの並列化はいつでも好き勝手にできるわけではない。それ相応の理由があると相互のAIが判断した場合のみ、並列化が可能となる。今回は、テロリストに狙われているので、条件としては申し分ないだろう。ソラが許諾し、仮想の管理AIも許諾すれば、並列化完了だ。


「もちろん私にもプロトコルはあるので、他のAIと並列化は可能ですが……本気ですか?」

「本気だ。これが一番手っ取り早い。それに面白そうだ」


 俺の説明を一通り聞いたソラは、うつむいて口を閉ざす。不確定要素も多分に含まれているし、危険もある。並列化することで、ソラに宿っているクオリアが消えてしまう可能性だってゼロじゃない。悩んで当然だ。ソラには知能ではなく知性があるのだから。


「一応言っておくが、もちろん強制ではない。嫌なら他の手を考える。幸いここはヴァーチャルロードの腹の中だし、役に立ちそうな情報やアイテムは山のようにあるだろう」

 もしソラに踏み出す決心が付かなくても、別の策は考えてある。バックドアの制作過程で、表層だがデータベースにもアクセスできた。かなりの時間はかかるだろうが、そこからAI撲滅班(アイギス)のメンバーと居場所を突き止めることもできる。


「――だから、お前の本心を聞かせてくれ」

「……私は」

 ソラは顔を上げ、俺と詩織を交互に見つめる。

 彼女は誰よりも強い意志を感じさせる表情で――



「陸さん……やらせてください」



 ――最初の一歩を踏み出す。この場の誰よりも勇敢に。

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